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四品目 ハーピィの丸焼き

 休息もそこそこに、ひたすらに歩き続けること丸一日。それぞれの木々が徐々に間隔を開け始めては、比例するように高くなる草の丈。予定より早く目的地のマルタ村に到着しては、傾き始めた日を背に足早に森を抜ける。


「魔王軍はまだのようだな」


 村をぐるりと囲む木製の柵。レティシアほど立派なものではないが、隙間なく大地に打ち込まれた丸太の杭には、日ごろから手入れされているのであろう、森が近いというのに目立った傷は見受けられない。ただ……。


「人気がないな」

「用心していこう」


 門番のいない村の入り口を抜けては、そのまま道なりに中心地へと向かうのではなく、すぐに脇道へと逸れる。

 抜き足で進む路地――兵士の詰め所、酒場の裏、あれは……商店であろうか。

 開け放たれた扉を見つけては、狩猟刀に手をかけるキリボシをその場に残して、一人剣を片手に進み出る。さて、この村に来たのが藪蛇で無ければいいのだが。

 息を殺してそっと中を覗いてみると、そこには野盗にでも入られたのであろう、荒らされた現場と凶器、そして無残な住人の姿があった。


「随分と足の速い魔王がいたもんだな……。キリボシ、きてみろ」

「後ろ!」


 反射的に飛び退いた先で目にしたのは、鮮やかな翼と迫りくる鋭利な爪だった。


「ハーピィ!」


 先手を取られながらも難なく剣で受け止める。そして目に映る状況、ハーピィが五体。まずい――キリボシを探しては、あざ笑うように視線を遮る不快な鳥。その背後で二羽が何かを追い立てるように離れていっては、完全に姿を見失う。


「ハーピィは知性が高い……か」


 あいつなら知っているだろう。数で優位を取っているこいつらは、明らかに目の前の()()を楽しんでいる。変な話だが、今はその遊び心と獲物(キリボシ)を信じるしかない。


「夕食はハーピィか?」


 ふと口ずさんだ言葉に思わぬキリボシ()を感じては、嘘だろと一人で勝手にうろたえる。私は普通、私は普通、私は普通……。

 だからハーピィは食べない。食べないがまず、キリボシを探すためにも、上空のハーピィをせめて手の届く距離にまで引きずり降ろさなければならない。


「アザレアさーん!」


 邪念を振り払うように頭を振っては、直後に聞こえてくるキリボシの声。なんだ、全然大丈夫そうじゃないかと、そのあまりの緊張感の無さに一瞬、キリボシが駆け出しであることを忘れそうになる。


「助けは必要か!」

「村の中心はアンデッドでいっぱいだよ! 村を出るなら早いほうが良いかも!」

「分かった! さっさと帰ってこい!」


 となると食事は後回しか……食事は後回し?


「待て! 飯はどうなるんだ! ワインは! 野菜は! 果物は!」

「この感じだと残ってないかも! たぶん最初はレティシアからの冒険者か何かだったんだろうけど! 村人同士でもやりあってるみたい!」

「なるほどな! 私は最後まで残っていたから乗り遅れたわけか! おかげで野盗に成り下がらずにすんだがな!」

「奪い合わなくても森は食材であふれているのにね!」


 それは違う。そう思ったが、空腹であながち否定できなくなっている自分の限界さに気付いて、そっと言葉を飲み込んだ。


()()()()()()()!」

「そっちに行くよ!」


 二匹のハーピィを引き連れては猛スピードで路地に走り込んでくるキリボシ。迎えるように剣を構えては、邪魔をしようと降りてきた一匹を標的に据える。


「ハーピィは!」

「ハーピィは?」

「まず頭を落として羽をむしる!」


 まずは頭を落として――ね。飛び込んでくる爪を叩き落しては、首元への横一線。続く丁寧な連撃によって、その輪郭をなぞるように羽をむしり取る。


「足はダシ!」

「足はダシ!」


 すでにピクリとも動かない丸裸のハーピィ。どれくらいだったかなと、テングダケの大きさを思い返しては、切り飛ばしたところに、ちょうど鍋を手にしたキリボシが滑り込んでくる。


「そして丸焼きにする。お見事」


 それほどでもないと上空に視線を走らせては、慌てて飛び去って行くハーピィたち。日暮れか……。ようやく手に入れた戦利品と共に路地を後に、ある程度開けた場所――村の入り口で火を起こしていると、どこの家庭から拝借してきたのか。物干しのような長尺の槍を手に現れたキリボシによって、いよいよ丸焼きが始まる。


「内臓は食べないほうがいいかもね。ところどころ(つつ)かれたような跡があったから」

「アンデッドのことを言っているのなら、黙っておくべきだったな。せめて食べたあと……いや、そうか。アンデッドか。夜は越せそうか?」

「どうだろう。あまり長居はしたくない感じだけど」

「アンデッドは苦手か?」

「うーん……食べたことがないからどうなんだろう」

「少なくとも怖がりでないことだけは分かったな」

「え?」

「しばらくかかるんだろう? せっかく村まで来たというのに、結局素材のままいただくのでは少々味気ないからな。とりあえず……」


 言いながら村を見回しては最も背の高い建物が目に入る。


「教会にでも行ってみるかな。塩ぐらいなら手に入るかもしれない」

「そうだね。気を付けて」


 キリボシに見送られては村の奥へと向かう。アンデッドは食べたことがないか……これからそれを食べたかもしれないハーピィを食べるわけだが……。


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