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1.文房具オタク、異世界に転生する

 ああ、私異世界に転生したのか。ふむふむ、赤ん坊って事は憑依ではないんだよね、多分。


 突然思い出した前世と、今世で過ごした短い記憶から、ここがよくあるファンタジーな世界だという事を察した。だってさっきから目の前を羽の生えた小人が横切ってるんだもん。これがファンタジーじゃないなら、何をファンタジーと呼ぶのかって感じ。


 前世で異世界転生系ジャンルを愛読していた私に、この状況に対する拒否感はなく、むしろ静かにここでの生活を分析していた。


 部屋の内装や使用人らしき人の数からして、かなり裕福な家庭だよね。お金は人生に必要不可欠だし、幸先はかなり良いかも!


 ……だけどなあ……、この世界、写真もSNSもないよね絶対……。推し活、どうしよう……。


 いや、それよりも。


 この世界には私が愛してやまない「システム手帳」はあるのだろうか……? 「万年筆」は? 「お洒落な色のインク」は?


「あうあうあっあっー!(なかったら死ぬ! 精神的に! 耐えられない!)」


 だけど前世最後の記憶から察するに確実に自分は死んでいる。となると前世に戻るなんて都合の良いルートもない……。よしんば戻れても絶対人の形を留めてないと思うし、推し活出来ないなら意味がない……。


 それにしても、なんで赤ん坊! いや、勿論生まれ変わったんだろうし理解は出来る。出来るけど、それなら前世の記憶を思い出すのはもっと後にしてほしかった、と思うのはわがままかな。自分の意思で行動出来るようになるまで、あと何年かかるの? それまで私は文房具に触れる事すら出来ないの……?


「ふ、ふええぇぇん……」


「あらあらどうされましたか?」


 最悪……、いくら絶望したと言っても、本当に泣くつもりはなかったのに。その上素早く立ち上がった使用人っぽい女性に恥部まで見られちゃうし! これがあと何年も続くの……? 嘘でしょ、いっその事前世の記憶を消してちょうだい!!!!




 一通り泣き叫び、あやされているうちに夢の世界に旅立った。


 次に目覚めた私は、妙に冷静に今後の事を考え始めた。多分、睡眠で頭がスッキリした上に、一瞬のうちに色んな尊厳を奪われた衝撃による副次的効果だとは思うけど、この際ヨシとする。


 小さな脳味噌でひねり出したプランはこうだ。


 一、まずは周囲の様子を伺ってこの世界と自分についての情報を収集する。この世界にシステム手帳があるなら、この裕福度合いからいって入手は難しくないはず。


 二、システム手帳の入手を容易にする為に、屋敷の人物……特に家族からの評判を良くする。目に入れても痛くないくらい可愛い娘のお願いなら叶えてくれるはずだし! もし存在しないなら、工房にお願いして、作ってもらう事になるだろうから。……さすがに出来るよね、技術的には?


   §-§-§


 ……なんて考えていた時期がありました。


 推測通り、私は貴族令嬢として生を受けていた。それも公爵令嬢! 歩けるようになってからは、主に当主である父親に対してつきまとい……ではなく可愛らしく後追いをし、おねだりが通じるくらいには愛されている実感もあった。


 そこまでは良かった。順調、まさに計画通り。計算高い子供なんて可愛げがない? ええ、確かにそうです。だけど私だって背に腹はかえられなかった。屋敷内で過ごすうちに、私はこの家の末っ子で、母親の命と引き換えに生まれたのだと知ってしまったから。


 あの豪華だと思っていた自室も、兄弟の部屋に比べたら小さくて質素で、明らかに差があった。だからやれる事はなんだってした。恥も外聞も捨て去って、自分は何も知らない無垢な赤ん坊なんだ……!と自分に暗示をかけて必死に愛らしい子供の演技をした。その甲斐あってか、今は部屋の大きさも内装も他の兄弟と遜色ない。むしろ若干優遇されているような気もする。いや、これは優遇じゃない。唯一の女の子だから衣装のスペース分大きいだけ。……贔屓は妬みを産むからそれはそれで困るんだって……。


 だけどここまでしたって所詮末っ子、将来は約束されてない。義務が少ない分、権利もそれなり。権利を主張するならその分義務が大きくなる。この時代の貴族令嬢の義務と言えば当然結婚で。


 正直な話、前世でバリバリ外で仕事をしていた私的には結婚とか勘弁してくれって感じ。だからどうにかして回避方法を見つけないといけないけど、変な行動をして家族の機嫌を損ねた結果、政略結婚が早まる、なんていうのは嫌すぎる。


 しかも公爵家より上は王族くらい。今より良い境遇の結婚が出来る可能性は限りなく低い。それなら可愛い可愛い、目に入れても痛くない末っ子ポジションに収まって「結婚? そんなものしなくてもいい」と言われるか、価値を示して「この子は我が家に必要だ、他所になんかやるものか」と思わせるしかない。


 今のところ、それについては上手くいっていた。屋敷唯一の女主人という立場を理由に、私はかなり早い段階で父と交渉して家庭教師をつけてもらった。そして今では屋敷内部と慈善関係に関しては私の役目となっていた。勿論、執事や父による最終チェックがあるにはあるけど。


 よくある前世の知識を使ってこっそりお小遣い稼ぎ、もやめておいた。まだ幼い公爵令嬢が人目を忍んで行動するのは無理があったし、ここで怪しい行動をして折角築き上げた信用を失うリスクは冒せないと思ったから。


 ここまでしたんだから、システム手帳の一つや二つ、簡単に手に入れられると思っていた。それなのに。


 毎年誕生日には、無難にぬいぐるみや人形、そして徐々に子供向けの羽ぺンなど、さりげなく文房具好きを印象付けるものをリクエストしていた。そして十歳の誕生日目前。そろそろ頃合いかな、と判断して私は意を決して欲しいものを訊ねてきた父に「システム手帳が欲しいです」と告げたのだ。


 それに対しての答えは無情にも「それは男が持つものだ」だった。


 はあ?? システム手帳に男も女もあるか!! 手帳だぞ!?


 喉まででかかった罵倒をすんでのところで飲み込んで、公爵令嬢らしい優雅な動きで私は小首を傾げた。見よ、この愛らしさを!


「どうしてですか? 私も最近は家の事を色々していますし、長く使える手帳と筆記用具が欲しかったのですが……」


「可愛いソフィア。確かにお前の言う事にも一理ある。だが、システム手帳は外で仕事をする者が使うものだ、家の中に居るソフィアには必要ないだろう? だから今回は、お前のリクエストを満たすものを私の方で用意しよう、分かったね?」


 この「分かったね?」には「話はこれで終わりだ」という意味が存外に含まれている。「それなら外で仕事をしても良いですか?」なんて馬鹿な質問は当然出来るはずもなく。


「楽しみにしてますわ、お父様!」とお礼を言い、すごすごと退散したのだった。


 一縷の望みをかけてその足で長兄の元へと向かったものの、不思議な事に既に父とのやり取りを知っており、「父の意向には逆らえないよ」とこちらもやんわり断られてしまった。


 手当り次第にお願いしては父からのプレゼントすら別のものにされかねない。そう判断した私は、他の兄弟へのリクエストも諦め、大人しく父からのプレゼントを待つ事にした。「私のリクエストを満たすもの」なら少なくとも手帳の類いではあるはず。今年が駄目でも来年ならいけるって可能性も……ね。

著者もシステム手帳めっちゃ好きです。

というか「自分がもし異世界転生したら?システム手帳なかったら生きていけないかも」から生まれた作品です。

例によって例のごとく、昨日思いつき、ノリと勢いで執筆してみました。

が、今回はめずらしくラストまでのプロットもね!書き上がっています!!

という事で安心してご覧いただければと思います。

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