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17話




 ピースサークルファミリー教会。再びその名前を聞いた煌は、全身がゾワッとした。


「それって。東斗の噂と関係があるっていう……」

「でもあの教団は、オレたちみたいな凡能者ノーギフトを救済するための存在なんだろ。なんでそいつらが教団の関係者だと?」

「ネックレスです」

「ネックレス?」

「教団の信者だけが着けているシルバーのネックレスを、僕たちを監禁した三人とも着けていたんです」

「……それは、どんなデザインなんですか?」


 嫌な予感をさせながら、煌は恐る恐る尋ねた。


「コイントップのシルバーネックレスです」

「教団なのに、ロザリオじゃないんですね」

「そう言えば、なんか聞いたことあるわ俺。あの教団の信者が着けているのはロザリオじゃなくて、普通のネックレスみたいなものだって。勧誘に来てたおばさんたちも、そんな感じのを着けてた気がする」


 過去の記憶を思い出した流哉が言った。どんなデザインだったかは、興味がなかったから全くわからないと補足した。

 予期せぬところから、ネックレスがピースサークルファミリー教会の信者の証であることが判明した。ネックレスを持っていた番組の新人ADや貴美も、教団の信者である可能性がある。と言うことは、自宅でネックレスが発見された東斗も、関係者だというのだろうか。

 煌は、ひとつ質問する。


「澤田さんたちは『黒須』を探そうとして、監禁され監視もされたんですよね。その男たちが教団信者なら、『黒須』も信者ということになりませんか」

「『黒須』に辿り着かれたくないから、監禁や監視をしたってこと?」

「それじゃあ『黒須』はそれだけ、教団にとって重要な役割の人物なのか?」


 三人がそれぞれ推測するが、澤田はその全てを否定した。


「僕も最初はそう考えましたが、ところが『黒須』は、どこにも属していない一匹狼だと言う情報があるらしいんです。それを信じるなら、今回の件に『黒須』は無関係で、監禁も監視も別の目的だったということになります」

「別の目的?」


 澤田がその目的に検討が付いているかのように言ったので、気になった煌は聞き返した。


「ライターさんは《P》という薬も追っていると言いましたよね。今回の件、彼はそっちの線だった可能性を考えています」


 そう言った澤田に、三人はまさかと言いたげに眉頭を寄せる。


「それって……教団があの薬と関係があるって考えてるんですか」

「確実かはわかりません。証拠もなく、ただの勘だと」


 煌たちは、ニュースで聞いた薬と教団の関係を突然示唆されて戸惑う。ライターはただの勘だと言ったらしいが、長年の経験のそれを無視していいだろうかと煌は考える。

 がしかし。『黒須』に近付く手がかりかと思った件が教団とも無関係となると、もうどこから追っていいのかわからない。月に一度現れるというあのバーしか頼るものがない。


「あの。ライターさんも以前から『黒須』を調べてるんすよね。やつはどんな人物だとか言ってたりしてましたか?」


 何か僅かでも手がかりになることはないかと、参考までに流哉が質問した。それは澤田も訊いたことがあるらしく、その時に彼から聞いた『黒須』の人物像を三人にも話した。


「今言ったように『黒須』は一匹狼で、他人と群れず、SNSのアカウントもコロコロ変えているから、警戒心が強い。そして頭の回転も速い。名前が複数あることから、自分の中にいくつかの人格を作って、その都度キャラクターを変えているのかもしれない。密な関係性を持っている人物もいない。総括すると、やつは誰も信用していないんじゃないか、と言っていました」

「『黒須』が昔、劇団にいたことはご存知ですか?」

「えっ。それは初耳ですね。ライターさんも言っていませんでした」


 ライターがその経歴を知らないということは、『黒須』は本当に誰ともつるんでおらず、一時期を共にした宮沢しか知り得ない超プライベート情報ということだ。


「今は一匹狼で、昔は集団にいた……と言うことは、昔はそれほど群れることは嫌ってなかったのかな」

「でも早々に大学を辞めてるってことは、人間関係に嫌気が差したか、単に環境が合わなかったのか?」

「劇団もそれで辞めたのか? やつは自分が置く環境や人間関係を重視する傾向にあるんだろうか……」


 三人は聞いた人物像を元にプロファイリングの真似事をしてみるが、素人の頭脳ではあまり全体のイメージが掴めない。そんな三人を見た澤田は「ちなみに」と話し出す。


「僕の元同僚は取材している相手のことが見えないと、聞いた情報を元によく考えるんだそうです。どんな性格で、どんな環境で育って、どんな交友関係なのか。そこから別角度で取材をしていくこともあると」

「へぇー。記者って、ただ周辺を聞き込みして記事にしてるんじゃないんすね」

「適当なことなんて書いたら、最悪訴えられますから。面白い記事を目的に書いている人は違うと思いますけど」


 週刊誌記者も仕事で取材しているので、確証を得て記事にしている。しかしそれが「名誉毀損だ」と訴訟が起きるケースは度々起きる。それが芸能人であれ一般人であれ、何が真実なのかを人々は知りたがる。嘘が塗り替えられて真実とされることも、少なからずありそうだが。

 そしたら人々は、何を真実だと思えばいいのだろうか。


 ひとまず話は終わり、あとは飲み食いタイムに突入していた。澤田が無事に帰還したお祝いで、今日は煌たちのおごりだ。澤田は最初は遠慮をしていたが、次々と食べたいものを注文した。

 歓談しながら食べていると、蒼太のスマホがLINEのメッセージを受信したと鳴った。


「あ。璃里ちゃんからだ」

「誰。彼女?」

「違うよ。生天目(なばため)璃里(りり)ちゃん。前カフェで会った時に、連絡先交換してたんだ」


 賢志と一緒にいたあの店で会った時に、LINEを交換していたらしい。蒼太はその璃里からのメッセージを読むと、驚きの声を上げた。


「えっ。嘘!?」

「どうした?」

「璃里ちゃんから大変な情報」


 蒼太は、璃里からのメッセージを声に出して読み上げる。


「『この前言ってなかったかもって思って。あたしが飲んでたサプリって、音楽プロデューサーの仲元(なかもと)さんからもらったものなんだ。あと、あの時、あたしと同じ症状の人が他にもいるって話たけど、あたしと同じで、仲元さんからもらったサプリを飲んでるみたい。これ偶然かな?』───だって」

「サプリって何の話だよ」


 蒼太はその話が初耳だった煌たちのために、特性能力が減退している芸能人がいる話を璃里から聞いたままに話した。聞いた煌たちは、俄には信じ難いと表情で言う。


「能力の減退……」

「そんな情報、初めて聞きました。ライターさんからも聞いていないので、外には漏れていないのかもしれないですね」


 メディアの耳にすら入っていない。ということは、情報が広がりやすい一般人の有性者にのあいだにはその現象は起きておらず、芸能人の身にだけ起きている、ということなのだろうか。


「と言うか。その症状が出てる芸能人て全員、仲元さんと仕事したことがある人だよね」

「言われてみれば。プロデュースとか楽曲提供された人ばかりだ」

「これ。本当に偶然なんでしょうか」

「偶然にしては、共通点が統一され過ぎのような……」

「あ。また来た」


 再び璃里からメッセージが届いた。飲んでいたサプリの写真を送ってくれたようだ。見ると、カプセル状のものが透明の小袋に三〇粒ほど入っていて、袋の端に《S》と書いたテープが貼ってある。


「《S》……Sって何だ」

「サプリの名前の略称じゃないか?」

「確か、美容効果や喉にいいやつって言ってたけど。スペルの頭文字かな。コラーゲンじゃないし……ヒアルロン酸でもないし……セラミドかな?」

「……違うな。セラミドのスペルは“ceramide”で、頭文字は“C”だ」即時にスマホで調べた流哉が訂正した。

「じゃあ、何のS?」

「さぁ……でも、他の芸能人が生天目さんと同様の症状があって、同じサプリを飲んでる。それって、能力減退とサプリが関係あるってことなのか?」

「……緑川さん?」


 澤田がふと煌を見ると、眉頭を寄せて何か思案している様子だった。




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