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2話




 そして、二〇二四年四月二〇日。あれから三年半の沈黙を経て、仲間の名誉を守るために新生F.L.Yが再び動き出した。いよいよ、彼らの戦いが幕を開けた。

 同時に、『F.L.Y公式裏アカウント』を作り、探している『黒須』の身体的特徴を公開した。名前、性別の他に、年齢は三十代後半、身長は175〜180cm、黒いカジュアルな服をよく着ていると公表した。他に目立った特徴はないが、小さな手がかりでも掴めることを期待した。

 アカウントには間もなくして次々とフォロワーが現れたが、すぐに『黒須』に関する情報が寄せられることはなかった。しばらくは、未だに東斗のファンでいてくれている人々からのイメージ払拭の投稿が続いたが、そのためのアカウントでもあるので、これもひとまずは狙い通りの機能を果たしていた。

 活動再開初日は生放送の昼の情報番組に呼ばれ、他にもバラエティー番組やトーク番組の収録などグループで出演する機会が一気に増えた。


 「今週のエブミュ観た! F.L.Y超かっこよくて惚れ直したんだけど!」

 「新曲、ちょっとワルい感じがよかった! AメロBメロのラップっぽいとこ歌う煌くんと流哉くん、イケ過ぎ!」

 「F.L.Yってこんな感じだったっけ? なんか前とイメージ変わったかも」


 各局の歌番組では新曲の『ROAR(ロア)』を披露し、ファンからはもちろんのこと、新生F.L.Yの歌唱を聴いたファン以外からもなかなかの好評を得た。

 あの宣言動画は業界関係者からどういった反応があるだろうと、煌たちは内心気がかりだった。好奇の目も覚悟していたのだが、仕事のオファーが立て続けに来たということは、「元メンバーの事件の真相を現役アイドルが追う」という話題性は効果抜群だったようだ。





 活動再開から一ヶ月が経った五月。今月からF.L.Yの新しい番組の収録がスタートする。実は煌が活動再開前に、以前やっていた冠番組『トライんぐF.L.Yんぐ』のディレクターの庄司と話をつけていたのだ。春の番組改編期を狙い、この機に四人で再び番組をやりたいと相談すると、企画会議に出してみると快くOKしてくれた。

 しかし、話題性があるF.L.Yを使うのはいいが……と上司が難色を示したらしく、地上波で番組をやるのは却下された。話題性があるなら視聴率にも期待できると庄司は粘りに粘って、無料配信動画サービスのオリジナル番組として約三十分の番組を作ることになった。配信開始は七月で、撮り溜めながらの配信となる。

 四人は一度、帝日テレビの楽屋に集合して衣装に着替えてから、玄関前でロケバスとともに待っていた番組スタッフらと合流した。


神部(かんべ)さん。庄司(しょうじ)さん」

「みんな。久し振りだね」

「活動再開おめでとう!」

「ありがとうございます」


 お祝いの言葉をくれた庄司ディレクターは、F.L.Yをバラエティー慣れさせてくれた芸能界の育ての親の一人だ。庄司は、迷惑をかけて番組を打ち切らせてしまったというのに、ずっと煌たちを気にかけてくれていた。神部プロデューサーも以前の番組でもお世話になった人物で、今日は現場に同行するようだ。


「個別の活動もずっと追っていたよ。玉城くんは人気モデルだし、七海くんはミュージカルデビューしちゃうし、倉橋くんもMCの腕上げたね。緑川くんなんて出世しちゃったし」

「アカデミー賞俳優だもんねー。すっかりグループの出世頭じゃないか。いやぁー。昔一緒にやってた頃には想像してなかった活躍ぶりで、親戚みたいに嬉しいよ!」


 神部と庄司は、彼らの活躍を本当の身内のように喜んだ。番組を掛け持ちしても神部は変わらずフレンドリーで、エネルギッシュな庄司も彼らが出ている番組を録画したり、雑誌を保存していてもおかしくなさそうだ。


「庄司さん。出世頭はやめて下さいよ」煌は苦笑する。

「なんでよ。将来有望だって認められたんだよ? 秋クールのドラマも決まってて、来年公開予定の映画の出演も決まってるんでしょ? 聞いてるよ〜」

「バラエティ担当なのに、耳が早いですね」

「この業界、どんな話でも広まるの早いから」

「庄司さんボクたちは?」

「もちろん! バラエティーでも通用してるし、みんなのこれからの活躍が楽しみだよ」

「バラエティー力は、庄司さんたちに育ててもらったようなものだよね。あの初めての番組は、今でも大切な財産です」

「そう言ってもらえると嬉しいね、庄司くん」

「ほんとですね。涙出てきますよ。みんなを兄弟と呼んでいいかな」


 賢志の言葉に涙を拭うふりをする庄司。そのうち「自称・長男」を名乗り出して、四人を弟だと勝手に公言しそうだ。

 あの頃と変わらない庄司と神部の振る舞いに、煌たちはホッとした。あの番組は、彼らのホームのようなものだった。一度は失ったものを取り戻すことができ、再び足並みを揃えて出発ができることは嬉しかった。

 実は番組をやりたいと提案したのは、これも『黒須』を探し出すためだった。東斗から、どうやら『黒須』は『吉岡』という芸能関係の人物と知り合いで、『吉岡』は東斗と仕事をしたことがある、という話を聞いたことがあると言っていた。

 そもそもの話だが。『黒須』と連絡を取っていた東斗なら、その連絡先も知っているだろうと考えるところだが、残念ながら東斗はスマホを解約したので、『黒須』どころかほとんどの連絡先は不明だ。故に東斗から『黒須』を辿るのは不可能だった。だから煌たちは『黒須』捜索を公にして、情報収集をすることにしたのだ。その方が注目され、情報も集まりやすいと考えた。

 それに、『黒須』が芸能関係の『吉岡』という人物と繋がりがあるのなら、『吉岡』からも『黒須』を辿れると考えた。東斗がなぜ『黒須』に狙われたのかを、『吉岡』は理由となるきっかけを知っているのかもしれない。それならばツテを使わない手はないと、業界内部から探るために庄司に話を持ちかけたのだ。

 しかし配信番組は、通常の番組のスタッフより関わる人数は少ない。『黒須』を辿るための初手が少なくなってしまったが、全くない訳ではない。情報収集のためにもなるべく様々な媒体のメディアに出続け、『黒須』からも反応があることを期待した。一年というタイムリミットがあるので、周りからどう見られようが思われようが体裁など気にしなかった。


 ロケバスでロケ現場付近まで移動し、四人は今回お邪魔する店の前でスタンバイした。

『黒須』探しのための番組とはいえ、久し振りの番組ロケに煌たちも気合が入る。もしも配信で視聴回数が伸びれば、地上波に進出することも夢じゃない。四人だけでなく、新しい番組のスタートにスタッフ一同も気合が入っていた。


「では! 初回のロケ、宜しくお願いします!」


 絶好のロケ日和の空の下、庄司の掛け声で番組の初回収録が始まる。ADのカウントを待ち、四人全員でタイトルコールをする。




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