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コメディ系短編小説

学園祭に美女が来た!

作者: 有嶋俊成

  ーーとある大学の学園祭での話…なのだが…



「で、まだ到着はしないのか?」ソファーに腰掛ける仁多見(にたみ)が言った。

「もう着くそうですよ。」紙コップの水を飲みながら照沢(てるさわ)が答えた。

「まだソワソワしてるのか?」樋浦(ひうら)が資料を見る目を仁多見に向けながら言った。

 仁多見は手を組んで、ソファーに大股を開きながら座っている。その表情はいかつく、全く変わることがないが、どこか落ち着かない雰囲気だけが彼の体中から漂っていた。

「やっぱり“あの人”が来るのがたまらないんですか?」照沢がニヤつきながら仁多見を見る。

「ケッ、うるせぇよ。仕事しろ。」仁多見が逃れるように言う。

「仁多見も美女には目が無いからな。」

「樋浦も大概だろうが。」

 この日は彼らの在籍する大学で学園祭が行われる。彼らはその実行委員会のメンバーだ。今は、ゲストとして訪れるタレントの控室の準備を終わらせ、タレントの到着を待っているところだ。

「さあみなさん」開放されているドアからスタスタと入ってきたショルダーバックを背負った男は、実行委員の一人である青本(あおもと)。「今日のスペシャルゲストが到着されました。早急に準備をお願いします。」

 それを聞いた照沢と樋浦は待ってましたとばかりに動き出す。一方、仁多見はあることを気にしていた。

「なあ、ご挨拶は誰が行くんだよ。」ソファーから立ち上がる仁多見。

「ああ、それなら僕が。」青本が言った。

「ちょちょちょ待て、何でお前が行くって決まってんだよ。」

「下心むき出しの人にはさせられません。」

「な~に~」

 照沢と樋浦が思わず鼻で笑った。


「いや~まさか君が来てくれるとは。」

「私も学園祭に呼んでもらえるとは思ってなかったもん。」

 仲睦まじそうに話しているのはこの大学の学生である貝山(かいやま)と学園祭のスペシャルゲストとして呼ばれた美人タレントの臼井美真子(うすいみまこ)だ。

「本当に仲が良いんだね。」貝山と共に控室に訪れていた冨上(とがみ)

「他の実行委員には内緒ですよ。」貝山が口に人差し指を当てる。

 その時、控室をノックする音が聞こえた。

「失礼します。」入ってきたのは青本。

 青本は貝山と冨上の姿を見ると驚いた表情を見せ、すぐに呆れた顔になる。

「ちょっと、何やってんの…」

「あーごめん。先に挨拶に来ちゃった。」

「これは僕の仕事だから」青本の視界に美真子が入る。「あ、失礼しました。さ、早く戻って戻って。」青本は二人に外に出るように促した。


「別に誰だっていいじゃない。」

「僕たちは実行委員会ではあるけどあくまで雑用係だからね。」

 貝山と冨上が廊下の突き当りを曲がりかけると、壁際に背中を合わせて立っている仁多見に出くわした。傍らには、その様子を眺める照沢と樋浦がいた。

「うおっ」驚く貝山。

「はっ? なんで雑用係がここにいるんだよ。」

「仕事が一段落したんで休憩がてら寄ってきました。」

「はっ⁉ どこに?」貝山に詰め寄る仁多見。

「まぁ、う…臼井さん…のところに。」笑みがこぼれる貝山。

「てめぇ~!」

 貝山に掴みかかる仁多見を照沢と樋浦が止める。

「仁多見先輩、臼井美真子をなんとか近くで見れないかと、ずっと張り込んでるんすよ。」

「しかも、青本に先手を取られていきり立っちゃって。」

「仁多見さん意外とミーハーなんですね。」ニヤつく冨上。

「ふんっ」

 樋浦と後輩の照沢、冨上に下心を弄られ不貞腐れる仁多見。

「それでは、失礼しました!」

 廊下の奥からドアが開けられる音がした。すると、この上なく上機嫌な顔をした青本がスキップのようなリズムでこちらに歩いてくる。

「ふふーん♪ 顔小さい~瞳綺麗~そして美白ぅ~…う…」廊下の奥にいた貝山たちと目が合うと一瞬固まる。「みなさんいたんですか…」

「お~ぅ、さぞ上機嫌じゃねぇか。」睨みをきかせながら青本に近づく仁多見。

「他人のプライベートには介入すべきではありません。」

「何意味のわからねぇこと言ってんだ。」青本の首に腕を回す仁多見。「で、どうだった? 臼井美真子は?」

「むぅ~それは…綺麗でしたよ。」

「どう綺麗だったんだよ!」

「どう綺麗…」言葉に困る青本。

「こうなったら」青本から腕をほどく。「自分で見に行くしかねぇな。」控室に向かって歩き出す仁多見。

「ちょっと待って!」仁多見の前に立ち塞がる青本。

 その様子を眺めている貝山たちは半ば高みの見物状態だ。

「いきり立ってるね~」

「二人とも、美女に目が無い上にミーハー。そういう感情って隠しきれないんだろうね。」冨上が冷静に分析する。

「でも、面倒なことになったね。」照沢が言う。

「二人とも頑固なところがあるからな~」樋浦も呆れ顔だ。

「ちょっとみんさん!」青本が仁多見をつれて貝山たちのもとへやってくる。「見てないで止めてくださいよ!」

「素朴な質問なんだけど…」冨上が口を開く。「なんでそんなに自分以外の人間を入れたくないの?」

「それは…人気タレントですから、必要以上にたくさんの人が来ると困ります。」

「なんでご挨拶は青本くんが担当することになったの?」

「それは…実行委員ですから。」

「俺だって実行委員だろうが。」仁多見が牙をむく。

「あなた下心全開なんですよ!」制す青本。

 それを見た照沢と樋浦が鼻で笑う。

「さっきスキップしてたくせに…。」

 照沢の言葉を聞いてハッとする青本。

「なぁ、俺にも行かせてくれよ~」すがる仁多見。

「何をしに行くんですか。」

「そりゃ…ご挨拶を。」

「ご挨拶は済みました。」

「ああいう人と繋がりを持てるチャンスなんてなかなか無いぞ~。」

「繋がり…?」目を丸くする貝山。

「あ…その…」

「あんた、それだけはさせんぞ。」

「別に…」

「それは僕だけでいい…い…」

 目を逸らさないまま動きを止める仁多見と青本。

「あの…」冨上が口を開く。「もしかして…二人、ワンチャンあの人イケると思ってる?」

 しばらく沈黙が続いた後、青本が口を開いた。

「僕、ちょっと用事が…」

「じゃ、俺はご挨拶を…」

 仁多見が動き出すと青本は身をひるがえす。

「と、思いましたがこの人が危ないので一緒にいます。」

「用事じゃなかったのか~?」

 再びにらみ合う仁多見と青本。

「あの…」貝山がその横から発言する。「無理だよ。」

 同時に貝山を見る仁多見と青本。「「は?」」

「だからワンチャンイケない。」貝山はそれだけ言って黙る。

「そんなこたぁわかってらぁ!」仁多見が語気を上げる。「でもよぉ…こんな貴重な場面くらいは大切にしたいだろ?」

「僕だって…それは一緒です。」青本がなぜか同調し始める。

 二転三転する仁多見と青本の様子に本格的に呆れを見せ始める貝山と照沢、樋浦。

「それじゃぁ」冨上が何かを閃く。「二人で行ってくれば?」

 仁多見と青本の頭に《?》が浮かぶ。

「同じ気持ちの二人で行けば心強いのでは?」

「え? 何言ってんの?」貝山の頭にも《?》が浮かぶ。

「よっしゃぁ! 望むところだ!」仁多見が叫ぶ。「俺と青本、どっちが臼井美真子の御眼鏡に適うか勝負だ!」

「あれ?」何かが変だと感じる冨上。

「あーあー良いですよ。抜け駆けはしないでくださいね。」

 青本が美真子の控室へ足早に向かう。仁多見もそれを追う。

「ちょ、ちょっと冨上くん…」困惑している貝山。

「あー面倒な方向に行っちゃった…」額を押さえる冨上。

「俺たちも見に行くか。」

 樋浦がそう言うと他の面々も青本と仁多見の後を追った。


 美真子の控室にノック音が響く。

「はーい」

「「失礼します。」」

 男が二人入ってきた。片方はさっき挨拶に来た青本という実行委員の学生だ。

「いやー度々申し訳ございません。」青本が頭を下げる。

「う、臼井さん、こ、この度はこの大学におごっ、お越し頂きありがとうございまっす。」固まりながら臼井に挨拶する仁多見。

「あ、こちらは仁多見と申します。かなり緊張しているみたいで…」

 青本に言われ、キッと振り向く仁多見。

「あはは、かわいい。」

 ドキッとする仁多見。焦りではなく、喜びの方だ。

「あ…それじゃ仁多見さん、お役目の方を」

 仁多見と美真子の間の良い雰囲気を感じ取った青本は早々に仁多見を部屋から出そうとする。仁多見はその青本をかわし、さらに一歩、美真子に近づく。

「臼井さん、会場でわたくし実行委員の一人としてかちゃく…活躍しておりますので何卒、よろしくお願いしまっ…す。」頭を下げる仁多見。

「わたくしもおりますのでぜひともよろしくお願い致します。」仁多見に負けじと青本も一歩前に出る。

 その様子を部屋の外で聞き耳を立てながら伺っていた貝山、冨上、照沢、樋浦の四人。

「仁多見、ド緊張してる。」樋浦が呟く。

「『かちゃく』って言ってましたねンフフ…」緊張する仁多見先輩の滑舌に笑いが止まらない照沢。

「貝山くん、ちょっと…」冨上が貝山をドアの反対側の壁際に誘う。

「なんですか?」

「この状況で“あの事”がバレたら…終わりだね。」

「雑用係の僕にゲストの決定権ありませんでしたから。」

 冨上と貝山がヒソヒソ話をしていると、後ろのドアが開く音がした。

「「うおっ」」

 聞き耳を立てていた照沢、樋浦とそれに驚いた仁多見、青本が同時に反応した。仁多見と青本はすぐに室内に振り返り、美真子に一礼してドアを閉めた。

「何やってんだよぉ…」

 仁多見の両サイドには照沢と樋浦が腰をかがめて壁に耳を当てていた。

「そりゃ気になるから…」

「それで、どうだった?」

 控室から離れ、樋浦が例の結果を聞く。

 仁多見は少し目を閉じた後、口を開く。

「『かわいい』って言ってもらえた~」笑顔がこぼれ落ちる仁多見。

「えぇ…」「それだけ?」期待外れと言いたい照沢と樋浦。

「僕も『かわいい』って言ってもらえ~♪」青本も一緒のようだ。

「なんだよそれ…」

 困惑する樋浦と照沢を尻目にノリの良いステップで去って行く仁多見と青本。そんな二人を貝山と冨上は平和な眼差しで見つめていた。


 学園祭後、美真子の控室に再び貝山と冨上が訪れる。

「どうだった? あの二人。」

「下心全開。」美真子はその四文字だけで二人を表現した。

「だよね。」冨上が相槌を打つ。

「これで私たちの関係がバレたら、さらに燃え上がるんじゃない? あの二人。」美真子が貝山の手を触る。

「へへっ、やられるかもね、俺。」

「《高校の同級生以来のカップルであるタレントと学生が学園祭で遭遇》、ネットニュースなら良い記事になるかもね。」

 冨上の冗談に貝山と美真子は笑い合った。

「「そういうことね。」」

 ドアの前で聞き耳を立てていた照沢と樋浦が顔を合わせていた。



  ーー終わり

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