第99話 聖女
陛下との謁見の後にクリスは賢者に呼ばれていた。
話したいことがあると言われていたのだ。
「クリス、よく来てくれたね」
「もう怪我は大丈夫なのですか?」
賢者はシンの魔剣によって腹部を貫かれ倒れた。
クリスも生死を彷徨ったが賢者も同じだった。
「もうこの通りだよ」
「賢者様、話したいというのは?」
賢者は少し悩ましい顔を見せ、
おもむろに口を開いた。
「まあ、みんなの前では言えなかったが、
最近テティスで回復魔法使いが現れたんだよ」
「へ?」
その事実にクリスは驚いている。
しかし冷静に考えればマリア以外にも回復魔法使いがいてもおかしくない。
「もう一人の聖女と呼ばれ始めたんだ」
回復魔法使いが聖女と呼ばれるには、
相応の回復魔法の実力がなければならない。
「一体どれくらいのレベルなんですか?
回復魔法…」
「……レベル6だ」
クリスは賢者の話を聞きつつも信じられないでいた。
正直マリアよりもレベルが高い事実に嫉妬していて認めたくないのだ。
「あの本当に実力者なんですか?
嘘とか」
「ほう、クリス…
私を疑うのかい?」
クリスは慌てふためいてしまう。
まさか賢者に反撃されるとは思いもしない。
だがしばらくすると揶揄われていると理解した。
「ははは、すまないね
でも私も少し疑っているのは事実だよ」
賢者も怪しく思っている回復魔法使い。
賢者が言うには情報が正確でない可能性があるため謁見の場では言わなかった。
だが事実なら話は別で魔王軍が襲ってくるのは間違いない。
「さて、もう一つだが、
マリアとはどこまでいったんだい?」
「へ?」
賢者はジト目でクリスを見つめる。
クリスは賢者が何を言いたいのか全く分からず途方に暮れている。
「クリス、まさかキス止まりなんて、
ことはないだろうね?」
「はい?」
賢者は呆れて何も言えない素振りを見せる。
賢者が怒っていることに、
クリスは若干理不尽を感じていた。
「聖剣技は、相手との想いで強くなる、
つまりはマリアとの愛の深さが重要だ」
「愛の深さ?」
俺には難しくて全く分からない。
何しろ前世では魔法使い、この世界では12歳だ。
愛の深さなんて哲学にも近い言葉を持ち掛けられると俺は全く手も足も出なくなってしまう。
「困っているようだね…」
賢者はニヤリと笑みを浮かべる。
クリスは、その笑みにいつもと違って嫌な予感がしていた。
「私が手伝ってあげようじゃないか」
賢者は以前の秘密の特訓で二人の力になって以来、
何故か味を占めてしまった。
またやりたいと言い出したのである。
「ひ、秘密の特訓の再開ですか?」
「ん?何だい?
マリアと特訓するのは嫌なのかい?」
時の賢者ロゼを言い負かせる者は現代の世界では殆どいないだろう。
圧倒的な口撃の前にクリスは為す術がない。
「わ、分かりました…」
クリスは女性経験がないのだ。
告白こそ出来たが、その後が分からないでいた。
何しろ相手は王女であり聖女マリアである。
「ご指導、宜しくお願いします…」
「ふふふ、任せなさい」
賢者の指導で秘密の特訓を再開することになった。
なんと二人の距離を近づけることで聖剣技のレベルが上がるのだ。
クリスはモンスターや魔族を倒すだけでなく、
恋人との触れ合いでレベルが上がるスキルに多少の不安を感じていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
城から出て街をゆっくりと歩く。
すると新聞の号外を配る配達員の少年がいる。
その姿を見ると相当焦りながらも一生懸命だ。
「あの、俺も貰っていいかな…」
するとクリスを見た少年は指を差しながら驚いている。
「あ、あ、あ、あ、」
「聖剣使いのクリス様だ!!!」
大声をあげた瞬間、周りに観衆が集まり出していく。
時間としては五分も経っていないだろう。
あっという間に囲まれてしまった。
しかし目をキラキラしながら話す少年に罪はない。
「僕、マリア様のファンでしたが、
クリス様のファンにもなりました!」
クリスが聖剣に目覚めたのは、昨日である。
翌日で大きな騒ぎになっている事実に驚愕していた。
「あの…ところで聖剣は、昨日の話なんだけど、
どこで聞いたのかな?」
そして少年が言うには女神教の信者が必死に宣伝していたという。
その形相は必死で賛同者を集めてはこのように新聞を配らせていると少年は話していた。
その瞬間、クリスは女神教への警戒を強めた。
まだ開眼して間もない聖剣の情報が末端の信者だけでなく市民まで広がっている。
「これからも、みんなのために頑張るね!」
そうクリスは少年に伝えて頭を撫でた。
そして少年に別れを告げた後は、集まる人だかりの隙間を抜けて家へと帰る。
賢者との秘密の特訓はルミナス魔宝祭が終わったら再開することになった。
この数日間で魔王軍の襲撃から聖剣騒ぎとなかなか落ち着いてくれない。
少しゆっくり休みたいと思うクリス。
しかしルミナスを救い王女を守った英雄を国民は放っておいてはくれない。
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