第91話 覇者の剣
渾身の一撃が決まり辺りを覇王の光が包む。
眩しさを堪えながら目を凝らすとセシルの身体の周りに暗黒魔法のオーラが纏わりついていく。
「まさか、闇の鎧だと…」
このタイミングで強力な力を手にしたセシル。
そして悩むクリスに応えるかのように鞘に収めていた剣が呼びかける。
「剣が俺を呼んでいる?」
そしてクリスはその剣に覇王の光を集めていく。
すると、その光と共鳴するかのように剣が覇王の力を増幅させる。
「な、何だ、この魔力は」
セシルは未だかつて体感したことがない魔力をクリスから感じていた。
そしてクリスは、賢者から伝えられていた言葉を思い出す。
「覇王の光を剣に注いだ時、
その剣の名前を叫べ…
そして剣は真実の姿へ変わるだろう」
クリスは目を瞑り覚悟を決める。
そして今こそ目覚める剣へ命を注ぎ込んでいく。
「初代国王の剣…
頼む、応えてくれ…」
「覇者の聖剣、レーヴァテイン」
名前を言葉にした瞬間、ただの長剣だった剣が真実の姿へ変わる。
神々しいほどの装飾が施されており剣と柄の間に嵌め込まれた核が覇王の力を更に増幅させた。
そしてクリスの身体にも力が溢れていく。
スキルがレベルアップしました。
覇王Lv.7 →覇王Lv.8
シャルロットは夢を見ているのかと錯覚する。
初代国王のおとぎ話の中で覇者の聖剣の話があったが、魔王との戦いの中で失ったと伝えられていた。
しかし、目の前で光り輝いている剣はまさに初代国王の聖剣だ。
「力が溢れていく…」
セシルは契約の腕輪の痛みに耐えながら力を得た。
しかし目の前のクリスから自らを超える魔力反応を感じ取っている。
その事実を到底受け入れられない。
「な、なんだと
これではまるで…」
シャルロットは勝利を確信した。
おとぎ話が真実であれば聖剣と唯一戦えるのは魔剣のみだ。
そしてその例外となるのは勇者と魔王。
目の前にはその例外的存在もいない。
クリスは何故だか目の前のセシルに恐怖を微塵も感じなくなっていた。
「大丈夫だ、これならセシルに勝てる」
「私に勝てる?
その言葉、訂正させてあげるわ」
突如セシルの空気が変わった。
その瞬間、暗黒魔法の波動が溢れていき急加速する。
「何度でも、何度でも言ってやる!」
聖剣に覇王の力を込めると応えるようにクリスの身体強化を強めていく。
「今日ここでルミナスの剣聖を倒す!」
聖剣によって強化された覇王の一撃は、螺旋の炎を一瞬でかき消して更に闇の鎧を打ち砕く。
セシルは肩から流れる血と痛みに驚愕している。
まさか契約の腕輪で強くなっているにも関わらず、
追い込まれるとは思いもしない。
「わ、私が恐怖しているだと?」
セシルはここに来て自分の存在意義と感情に気づく。
そして再度セシルの螺旋の炎が発生していく。
「今、分かったわ…
私の生まれてきた意味が…」
そしてクリスへの愛情に気づいた瞬間だった。
更にクリスと闘い合うためだけに自分は生まれてきたのだと理解した。
「ふふふ、クリス…
一緒に殺し合えるって最高ね…」
「出来れば、
遠慮したいんだけど…」
丁重に断りたかったがセシルも譲るつもりは無い。
クリスの答えに微笑みつつ迫ってくる。
剣同士で鍔迫り合いになる。
衝突の度に剣術スキルが上のセシルが有利だがクリスは圧倒的な身体能力とスキルで上手く立ち回った。
そしてクリスは次の瞬間、勝負に出ようと考える。
「あまりしつこくされるのも、
好きじゃないんでね…」
螺旋の炎を直接セシルの炎に衝突させて両者の炎は再度消滅した。
「これなら闇の鎧ごと打ち抜ける」
その瞬間にクリスは聖剣での一撃を繰り出していく。
聖剣が覇王を更に強めていき高密度の光の塊となり
セシルへと向かう。
その光を螺旋の炎なしで防ぐのは不可能だ。
「素晴らしいわ…
クリス…」
闇の鎧をかき消して渾身の一撃が直撃した。
そしてセシルは微笑みながらゆっくりと倒れていく。
「はぁ…はぁ…」
クリスは肩で息をしている…
まだ魔力は残っているが聖剣を使った反動が思った以上に大きい。
「あ、アンタ、信じられないわ
まさかセシルを倒すだなんて…」
「結構ギリギリでしたけど…」
シャルロットは今でも信じられない。
国の最高戦力として君臨していたセシルを退けられたことに歓喜していた。
「色々聞きたいことはあるけど、
マリアはどこにいるのよ?」
「俺の家でベルが見張ってます」
クリスに化けたマリアをレガード家の屋敷に隠すことで安全に襲撃をやり過ごす作戦だった。
そしてセシルを倒して城を救えたと安堵していたところで通信機器から賢者側の異常事態を知る。
「お、俺に魔力を貸してくれ!」
「早く!!」
即座にシャルロットがクリスへ魔力を送ると目前に巨大なゲートが発生した。
「ふはは、ようやく城に到着できた」
四天王バルガスが、ルミナス城の訓練場に転移した。
そしてセシルを倒して休む暇もなく四天王バルガスと闘うことになる。
聖剣の力を得たがまさか瀕死の状態まで追い込まれるとは誰も予測できなかった。




