第86話 決戦前夜
賢者の秘密の特訓は二人の懸命な努力?により賢者も納得できるレベルへと達した。
そして決戦を控えた前日、賢者に呼び出されて最後の打ち合わせをしている。
「この短い期間で良くやったよ!」
魔宝祭当日、クリスとマリアの居場所は賢者しか知らない。
過去に間者がいた事実があるからだ。
シャルロットの部下に隈なく捜査をさせて一掃したが、万が一に備えたいのだ。
「クリス、お前の水魔法を元に作った、
魔道具を渡しておこう」
賢者から渡されたのは通話が出来る機械だ。
耳に入れるイヤホンのような構造をしている。
クリスの水魔法の原理を魔道具研究者が解析しこの数日間で作り上げた。
この魔道具により距離が離れていても会話が出来る。
「す、凄い…」
クリスは携帯電話に似た魔道具に感動していた。
とても数日間で作れる代物ではない。
これから迎える決戦に向けて国全体が一丸となり危機を乗り越えようとしていた。
「それとクリス、
お前に頼んでいたものは?」
「これですよね?」
そう口にすると賢者に魔法の筒を渡す。
毎日筒に魔力を貯め続けるよう言われており、
この五日間ありったけの魔力を筒へと送り続けた。
賢者は、その魔力量を見て満足した表情をしている。
「よし、これだけ貯まっていれば、
仕掛けの発動には十分足りるだろう」
今回の大規模侵攻に対して切り札とも言える仕掛け。
それはマリアとのすり替わりだけではない。
そしてその仕掛けが敵の攻撃を無効化する重要な要素となる。
「問題はセシルだ…」
賢者は眉間に皺を寄せて口を開いた。
過去に戦ったクリスもその危険性を認識している。
「間違いなく突破してくるだろう。
奴はお前に任せるしかない…」
クリスは無言で頷く…
そして賢者はクリスへ更にある物を渡す。
「賢者、この剣は?」
「あぁ、昔に親しい奴が使っていた剣…
だがお前に使って欲しいのさ…」
クリスは、そんなに大事な物を借りて良いのか不安になってしまう。
きっと大切な遺品なのは賢者の表情から察した。
「剣の本当の姿は覇王を発動した時、
その瞬間にしか実力を発揮しない」
「え?」
覇王を発動する瞬間に効果を発揮する剣。
その持ち主は考えられるだけでも一人しかない。
「賢者、この剣の持ち主って…」
「あぁ、ルミナス初代国王の物だよ…」
クリスはその事実に驚愕する。
まさか自分が預かった剣が初代国王の物とは思いもしない。
「間違いなくセシルやバルガスとの戦いで、
その剣は戦力となるだろう…」
「賢者……」
クリスは賢者に返しきれない恩を感じていた。
賢者と初代国王の関係は明らかにされていない。
しかし大切な遺品を借りるからには絶対に負けられないとクリスは決心した。
「その剣は、人の意志に応える剣だ。
意志が強ければ強いほど応えるだろう…
お前の覇王の輝きと共にな」
「賢者、この剣の名前は?」
すると賢者は昔を懐かしむような顔をする。
その表情は、優しげだが寂しさが感じられる。
「そうだね…
その剣の名前は………」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
気付けば辺りも暗く祭の準備も終えている。
賢者と別れてから屋敷に帰る途中でクリスは見慣れた人物を見つけた。
それは一緒に同居している、もう一人の想い人のユーリだ。
「あ!クリス」
魔宝祭が行われる中央通りのベンチでユーリは物思いに耽っていた。
明日、この場所は間違いなく戦場になる。
防衛作戦会議に参加して、ユーリも魔王軍との戦闘を正式に命令された。
そのためクリスとのお祭りデートを諦めていたのだ。
「ユーリ、残念だったな…
でもまた次の機会に一緒に回ろう」
「クリス…」
ユーリはこの十年間、クリスへの想いを胸にひたすら生き続けてきた。
エレノアとの戦いで使い魔にされてしまい、それをクリスが救ってみせた。
そして別れた瞬間、クリスを愛する気持ちは大きく膨れ上がっていたのだ。
「ねぇ、クリス…」
「ん?」
ユーリの身長はクリスよりも高い。
成人超えた大人で更にエルフで発育も良い。
そんなユーリがクリスを後ろから抱きしめた。
「お、おい…」
「良いじゃん…
ちょっとくらい…」
クリスからはユーリの顔が見えない。
しかし、大胆な行動に出たユーリの頬は赤い。
そしてユーリは抱きしめる腕に力を込めて話し続ける。
「クリス…
死なないで…」
「え?」
「一番強敵と戦うのはクリスだから。
セシル、そしてバルガスと…」
今回の強敵を相手に出来る戦力は限られている。
クリスが担う戦いは、とても一人で背負い込めるレベルではない。
ユーリはそれを心から心配していた。
「大丈夫…
絶対、みんなは俺が守ってみせるさ」
「ふふふ、いつもクリスは格好良いね…
それに私のご主人様だからね」
クリスはその言葉に一瞬心が揺れ動いた。
そしてユーリは溢れる思いに瞳が潤んでいる。
「危険な時は召喚して…
飛んでいくから…」
守ってくれると言うユーリをクリスは頼もしく感じていた。
しかしクリスはいつも元気が溢れるくらいのユーリが好きなのだ。
「ユーリ、戦いが終わったら、
俺が何でも奢ってやるよ」
「え!いいの?
もう訂正できないよ!」
ユーリは、目を星のように輝かせながら喜ぶ。
美しく成長してもユーリらしさは変わらない。
そんなユーリを見てふと自然と思った事をクリスは口にする。
「やっぱり笑ったユーリが好きだな」
「へ?」
不意打ちは不意を突くから不意打ちなのである。
予想外の攻撃にユーリは放心する。
しかし想い人からの告白をしっかりと聞きたい。
ユーリはその欲求で頭が一杯になってしまった。
「クリス、聞こえなかったから、
もう一回言って!」
「え〜駄目だよ!」
クリスは笑いながら誤魔化した。
十年経ってもユーリはユーリだった。
それだけ待っていてくれたのだと分かり、
クリスは嬉しさがこみあげていた。
「この戦いが終わったら何度だって言うよ」
クリスは笑顔でユーリへと告げる。
その言葉を聞き、ユーリは楽しい未来に想いを馳せた。
いよいよ明日に控えたルミナス魔宝祭。
魔王軍の大規模侵攻が予測されておりルミナスの存亡をかけた戦いが始まる。
それは想像を絶する死闘となっていくのだった。
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