表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/129

第62話 奴隷

目を覚ましたサリーと対峙する賢者。

賢者はサリーが何を考えているか探りを入れている。



「君は晴れて自由の身となった…

 もう奴隷では無いよ…」



「…………」



「これから君は何をしたい?」



サリーは、目の前の人物が誰なのかを知っていた。

時の賢者ロゼ、魔界の裏切り者だ。

魔界の全てを憎んでおり、はるか昔に大罪を犯したという。



「私は復讐がしたい…」



賢者は、復讐の相手が誰なのか、

それが気になっている。



「恐らく魔界の魔族だと思うけど、

 君の復讐したい人は誰?」



「一人目は、エレノアだったけど死んだ…

 後は…」



サリーの言った名前は、賢者の中で聞き覚えのある人物だった。

その者は魔界でもかなりの実力者だ。

今のサリーの実力では、復讐は叶わないだろう。



「そうだね…

 しばらくは、クレアのところに住みな…」



「え?」



賢者は、これが一番良い選択だと判断した。

まず復讐心だけで生きるのではなく、

人と触れ合う事を学んでほしい。

またサリーに対して護衛と監視は必要だ。

クレア以上に適任は、いないだろう。



「それに、息子は覇王を持っているぞ…」



サリーは驚き、目を見開く。

そして笑みを浮かべる…

魔族への最高の戦力である覇王。

因縁の者がまさか近くにいるとは思わなかった。



「昨日戦っている時に、

 気づかなかったのかい?」



「意識まで剥奪されていたので…」



魔族は目的達成のためなら手段を選ばない。

賢者は、そのやり方が昔から好きではなかった。



「まあ言っておくけど、

 クリスには奴隷術は効かないよ…」



「え?」



「だって、君より魔力多いからね」



賢者が指摘するのは、奴隷術の効果だ。

従属化と同様に奴隷術も相手の魔力量が上だと効かないのだ。



「逆に返り討ちにされるかもね…

 気になるなら試してみると良いよ…

 後悔するけどね」



賢者は不敵な笑みを浮かべる。

サリーは、その笑みに苛立ちを覚えたが、

今は争う利点がないため感情を押し殺す。



「助言通り可能であれば、

 その家に住まわせてもらいます」



少なくとも覇王の隣にいれば、

いつか会える可能性が高まる。

サリーの憎き相手、四天王に…



「まあ、クリスやその家族に手を出したら、

 私も容赦しないけどね…」



「しませんよ…

 私にも仲良くする、

 メリットがあるうちは」



魔族は計算高い種族のため合理的に行動する。

賢者は、その種族の特性を利用して、クレアの家に住まわせる事に成功した。



そして、そろそろ起きてくるみんなの元へ行き、朝食にしようと賢者は提案する。



「そろそろ朝ごはんの時間だぞ」



「へ?」



サリーは、捕虜同然の自分にそんな物を用意されるのかと疑問に思っている。




「ユーリに全て食われてしまうぞ…

 早く行こう…」




「は、はい」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




カートの朝は早い。

自然と朝早くに目が覚めて、

やる事もないため訓練をする。

じっとしていられない性格なのだ。



今日はエルフの里をランニングしている。

エルフたちも朝早くに起きており、

今日の祭の用意でかなり忙しそうだ…

小さい子供まで荷物を運んでいる。


そして目の前を通る子供を手伝おうと思った。

荷物を落として壊してしまいそうだったからだ。



「お嬢さん、

 おじさんが運ぶの手伝ってあげるよ」



字面だけ見たら怪しく見える。

だが単純に好意での行動である。

その女の子も感謝をしながら挨拶していった。



「あの、私の妹が、

 ご迷惑をおかけしました…」



不意に後ろから声をかけられる。

カートが振り向くと、そこにはエルフの金髪美女が立っている。

その時、カートに稲妻が走った。



「あ、あ、あの私は、朝の稽古中でして、

 たまたま通りがかった次第であります」



緊張のせいか、カートは話した事もない喋り方で話してしまう。



「ふふふ、力持ちなんですね…」



「ま、任せてください…

 身体を鍛えているので…」



筋肉を見せながらポーズする。

エルフの美女もそんなカートを笑っている。



「あの、あなたのお名前は?」



「イリーナと申します

 貴方は何というお名前ですか?」



「私は、カートと申します

 イリーナさん、お名前も美しい」



魔宝祭でエルフは出店を開く。

その店番はとても過酷だ。

各国から現れる観光客の数は多い。

休憩が取れない日も続く。

イリーナも少し疲れた表情をしている。



「イリーナさん、

 お身体の具合が悪いのですか?」



「あ、あら…

 ちょっと疲れが出てしまって…

 店番のせいですね」



カートは、明らかに疲れてそうなイリーナを心配している。

そしてイリーナの話だと、屋台で食べ物中心に販売しているそうだ。




「私が手伝いましょう!」




「え?悪いですよ…」




「任せてください!

 自炊もしてますから、

 何でもできますよ」



何故か祭の手伝いをする事になったのである。

恋は盲目である…

カートの頭の中にはイリーナという名前で一杯になってしまった。

もしかすると、カートにも春が来るのかもしれない。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




そしてエルフの里、長老の家に一同は集まっている。

賢者が声をかけてぞろぞろと椅子にかける。



「朝ごはんにするぞ〜」



「ん?カートがいないな…」



クレアは、カートがまだ着席していないことに気づく。

遅刻が大嫌いなカートにしては珍しい。



「いらないなら私が食べますよ」



ユーリは、目を星のように輝かせている。

誰にも渡さない、そんな勢いだ。



そして、賢者からサリーの話があがる。

結論としては、ゲイルの屋敷に住む事になった。

監視はクレアが行い、必要があれば魔物などを奴隷として宮廷魔術師の手伝いもしてもらう。

レガート家でタダ飯は許していないのだ。



「あの…ご馳走様でした…」



サリーは、感動していた…

こんなにも人間界の食事は美味しいのか。

元々奴隷に与えられる食事は質素だが、

魔界と違う食べ物はとても新鮮に感じた。



一同は、祭りの最終日を楽しもうと外に出る。

そして全員驚愕してしまう。

まるで最初から出店のおじさんだったかのように振る舞うカートを見つけたからだ。



「へい、いらっしゃい」



「カ、カート、何をやっているんだ…」



ジト目でみるクレア。

ゲイルも呆れている。

だが、賢者は隣のエルフを見て納得する。



「ほう、そういう事か…」



賢者の観察眼を舐めてはいけない。

隣のイリーナを見つめるカートは、まさに恋に一直線だ。

賢者は一瞬で見抜いた。



「まあ、今日は休みなんだ…

 自由にさせてやろうじゃないか」



そしてクレアとクリスもイリーナを見た途端に、

ニヤニヤしながら去っていく。



「あいつら…」



「カートさん、疲れました?」



「いえ、イリーナさんの声を聞いて、

 むしろ元気がみなぎりました!

 イリーナさんは休んでいてください!」

 


愛の奴隷となってしまったカート。

男とは見栄を張る生き物だ。

だが、今日のカートは一味違う。

エルフではない人間が、祭りの出店で最高金額の売上を達成したのだった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ