第61話 合流
エレノアの自爆により、途轍もない爆発が起きた。
誰もがクリスは、爆発に巻き込まれ死んでしまったと思い込んだ。
だが上空でクリスを抱えるクレアが見える。
「おーい!クリス!
あねご〜〜」
それを見たユーリは、飛び上がり喜んでいる…
そしてカートや賢者も集まる…
地面に着地するまでの間、
お姫様抱っこされているクリスを見て、
ユーリとカートは、ニヤニヤ笑っている…
「み、見ないでくれ…
恥ずかしい…」
「クリス、可愛い…」
全員が笑いながら迎える。
クレア、ユーリ、カート、賢者。
過去に遡り仲間達と出逢い、
共に試練を乗り越えてみせた…
クリスは嬉しくも誇りに思っていた。
そして、かなり遅れて増援が到着する。
本来であればもっと早くに到着していなければならない。
王国騎士団のゲイル達である。
カートが事前に王都に連絡をしており、
この日のために増援を申請していたのだ。
「お、遅いぞ…
ゲイル…」
クレアはジト目でゲイルを見る。
慌てて言い訳をしているゲイル。
こんなゲイルは、クリスにとって新鮮に写ってしまう。
「おい、お前もこっちに来い」
すると、クレアがクリスの手を引っ張り、ゲイルの前へ連れ出す。
時を遡って、初めて父と出逢う。
「あ、あの…」
「ゲイル、聞いて驚け!
こいつはな…
未来からやってきたクリスだ」
「は?」
ゲイルは、頭でもおかしいのか?と言いたげな様子でクレアを見ている。
全く信じていないため、賢者が助け舟を出す…
「久しぶりだな、ゲイル…」
「まさか、貴方は賢者様では…」
「あぁ…
ちなみにクレアの言ってることは本当だ。
未来の私が送り込んだからな…」
ゲイルは賢者の言葉を聞き、一瞬で信用した。
だが、そんな事をしてしまえばクレアの機嫌は悪くなる。
ゲイルは気付かぬうちにクレアを怒らせてしまうのだ。
「お前、私の言うことは全く信用せずに、
師匠は信用するんだな…」
また焦り出すゲイル…
必死に言い訳をしている。
完全に尻に敷かれているのである…
そんなクレアとゲイルを見ていると、
クリスは何故か吹き出してしまう…
「ふふふ、あはははは」
こんな風景を見たかったのかもしれない…
少し目尻に涙が溜まってしまう。
それくらいに嬉しいし楽しくて仕方ない。
俺が笑っている姿を見て、二人とも我にかえり俺に話しかけてくる。
「本当に未来から来たクリスなんだよな?」
「はい…父上と母上の息子ですよ」
そしてクレアはゲイルに今までの経緯を話した。
四天王エレノアが現れユーリを連れ去ったこと。
奴隷になったエルフが襲ってきたこと。
そしてクリスがエレノアを倒し、全てを救ってみせたこと。
一通り説明が終わった後に、
ゲイルは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてクリスを見ている。
「とりあえず、陛下に報告すべき案件のような気が……」
「まあ、ひとまず待ちな…
クリスは未来に戻る必要がある。
その前に足枷になるのはマズイ。
王に報告すると確実に囲われるぞ」
クリスが未来に戻る…
このフレーズを聞いて、ユーリは一瞬暗い顔を見せる。
「まあ、王都に報告は必要だ。
今回はクレアの手柄にしよう…
それとサリーとエルフの件もある」
エレノアを倒し一件落着とは言え、
全てのエルフに襲われたのだ。
このままにしておく訳にはいかない。
「ひとまず王都でエルフを匿うしかない。
このまま魔族に攫われるリスクもある。
だが、一つ問題がある」
里のエルフ全員を連れて王都に行くためには、
恐らく陸路では無理だろう。
船を使って海から運ぶしかない。
そのためには、クラーケン討伐が必須となる。
「まさか…クラーケン退治ですか」
「あぁ、そのまさかだよ…」
賢者は頭が痛いような素振りを見せる。
それほどにクラーケンは凶悪なのだ。
「あの…
そのクラーケンの討伐は一体誰が…」
「そんなのクリスに決まっているだろう…」
「え?」
賢者がそのように伝えると、
クリスは青い顔をしている…
「何でも頑張ると言っただろう…
クラーケンの魔力が欲しいのさ」
ユーリとデスワームを次元結界で封じるために魔法の筒から50年分の魔力を利用した。
その分を取り戻す必要がある。
賢者はその補填としてクラーケン討伐を考えた。
「まあ私も手伝ってやろう…
光の剣で一瞬で塵にしてやるさ」
「私も!私も!」
クレアが手伝ってくれるなら百人力だろう。
更にユーリも手を挙げた。
二人がいるのであれば戦力としては申し分ない。
「俺はちょっと用事が…」
カートは遠慮しようとするが、
クレアが逃がさない…
「カート…お前まさか…
自分だけ逃げようだなんて、
考えてないよな?」
「そ、そんな訳ないだろう…
ゲ、ゲイルも一緒だ…」
「は?」
いきなり火の粉が降りかかってきて唖然とするゲイル…
ジト目でカートを睨むが、してやったりと言った顔をしている。
そして賢者は、気絶しているサリーを見つめながら声を発する。
「魔族の娘、サリーの件だが、
エレノアが死んだ今、
サリーにかかる奴隷術は消え去った」
さらに賢者から提案があった。
サリーはエルフ達を操っていたが、すぐに解除してしまうのもリスクが高い。
王都に移送して王の判断のもと解除させる。
そして明後日には討伐部隊を編成してクラーケンに挑むことになったのだ。
「まあ、せっかくの魔宝祭なんだ…
今日と明日は楽しもうじゃないか」
ユーリは、祭という言葉で思い出した。
ユーリにとっては、とても大事なのだ。
「カートさん、
そういえば作戦成功したら、
奢ってくれるって…」
「カート!
お前は、何ていい奴なんだ!」
クレアは、ユーリに同調して自分もカートに奢らせる作戦だ。
囮捜査の件はこれでチャラにしてやろうと考えた。
「な、な、な」
なななおじさんと化したカート。
一体いくらの金が消え去るのか見当もつかない。
断れない状況にカートは、青い顔をしている。
そっとゲイルはカートの肩に手を置く。
諦めろと言っているような仕草だ。
「わ、分かった!
男に二言はない。
奢ってやるよ」
「やった〜〜〜
もうお腹、ぺこぺこだったんだ〜」
ユーリは、お腹が減りすぎて幻覚を見ていた。
そろそろ隣のクリスが食べ物に見えそうな気がしていたのだ…
そして魔宝祭を見るためにたくさんの人が訪れている。
祭りは何事もなかったように再開した。
ユーリは目を輝かせながら屋台を楽しんでいる。
隣にいるクレアも楽しそうだ。
カートにお金を払わせて次の屋台へ向かう。
「クリス…」
「何ですか?父上」
ゲイルは賢者から、クレアが里で命を落とすはずだったと聞いた。
それを聞いたゲイルは、改めてクリスと話をしたかったのだ。
「クレアは未来で亡くなっていたのか?」
「はい…俺が二歳の時です…」
ゲイルは一瞬、驚く表情を見せるが、
その後は普段は見せない優しい表情に変わる。
「クリス、ありがとう…
クレアを救ってくれて…」
クリスは、父親に感謝をされる事など殆どなかったので驚いている。
ゲイルは、一番に駆けつけたかったが、
騎士団の中で怪我人が出てしまい到着が遅れてしまった。
守ってくれたクリスに心から感謝していた。
「父上…行きましょう!
早くしないとユーリのやつが、
屋台の食べ物を食べ尽くしますよ」
クリスは笑いながらゲイルを引き連れていく。
その後は食事処で、どんちゃん騒ぎだった。
特にユーリが遠慮なく注文を頼む。
カートは冷や汗をかきながら注文を変えようとすると、クレアに注意される。
それは楽しい祝勝会だった。
そして夜も明けて朝を迎える。
少女は目を覚ます。
赤い髪の少女は、自分の意志で歩いたことがない。
困惑しながら部屋のドアを開けると、
正面に見える人物が声をかける。
「サリー、起きたのか…」
賢者である。
サリーは生まれてから奴隷だった。
しかし、エレノアが死んでサリーから奴隷紋は無くなった。
彼女の物語は、ここから始まるのだ…
そして今日から自分の意志で歩き出す。
だが、これから待ち受ける運命が壮絶なものだとは誰も知らない…




