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第60話 幸せ

生気を取り戻したユーリ。

クリスと口づけを交わしたことで従属化スキルが発動し、クリスの使い魔として上書きされた。



「クリス…」



ユーリは目を潤ませながらクリスに抱きついている。

もうダメかと思ったが最後は助けに来てくれる。

やはりユーリにとってクリスは特別な存在だった。

そんなクリスに対する想いが抑えられない。



「クリス!

 良くやったよ!」



賢者がクリスへ賞賛の言葉を贈る。

クリスは、一度しかないチャンスをものにした。

賢者も満ち足りた表情をしている…



「ユーリ…

 まだ戦いは終わっていないようだ…」



クリスが見つめる先には、

瓦礫の山から抜け出すエレノアが見える。

こちらを凄い形相で見ている…



エレノアは、まさか従属化を上書きされるとは思ってもいなかった。

理論上、上書きする場合は更に魔力を要する。

つまりクリスは、自分と同等もしくはそれ以上の魔力量という事になる。

エレノアは、その事実を受け入れられない。



「人間の魔力が魔族を超えている?」



エレノアは、まだ戦いを諦めたわけではない。

結界の中のデスワームへ指示を送り続けている。

賢者が施した結界を破壊するのも時間の問題だ…

破壊したと同時にデスワームによる突進で攻撃しようと画策している。



「許されないわ…

 私よりも人間が優れているなんて…

 絶対に認めない…」



次元の結界に亀裂が走る…

それを感じ取った賢者が危険を知らせる。



「クリス!

 結界からデスワームが出てくるぞ」



クリスの魔力量も残り僅かだ。

想像以上にユーリを使い魔にするのに魔力を消費した。

覇王の一撃は一度しか使えない…



そしてデスワームが結界を破壊しクリスの方へ向かってくる…



クリスは残っている魔力を込めて最後の一撃を放つ。

しかし、デスワームにダメージは与えたが硬い外郭によって、死に至るほどのダメージにはならなかった。



魔力を使い果たしたクリスは、元の姿へ戻ってしまう…



「っく…」



クリスは、ここに来て限界を迎えてしまう事に落胆を隠せない…

このままでは、デスワームからみんなを守れない…

絶対絶命な状況だが、諦めていない人物がもう一人いる。

ユーリである。

以前にクレアを助けたのと同じようにクリスの手を握り魔力を送る。



「ユーリ…」



「私も、クリスの力になる…

 だって…わたし…

 クリスの使い魔だもん…」



恥ずかしながら言うユーリに、一瞬見惚れてしまう。

そしてユーリから温かな魔力が送られて、クリスの魔力は回復する。



そして姿を変えて覇王を発動する。

大樹を前に再度覇王の光が溢れていく…



「な、なに!また覇王を発動しただと…」



エレノアは、三度目の覇王の発動に驚愕している。

何度も枯渇から復活する事など過去に一度も見たことがないのだ…

そしてクリスとユーリは手を繋ぎ、お互いの心を一つにしていく。



「ユーリ、いくよ!」



「うん…」



二人の重なり合う魔力が、今までよりも更に強い覇王の輝きを生み出す。

クリスは、その輝き溢れる覇王の一撃を放っていく。

デスワームに炸裂し、途轍もない衝撃と爆発音が響く。

そして爆発の煙が消えるとデスワームの亡骸が見えた。

その胴体は真っ二つになっている。



「デ、デスワームを一撃で仕留めただと…」



魔界の戦争で常に最高戦力として投入してきたデスワームが一撃で仕留められてしまった。

エレノアは、唖然と立ち尽くしている…



気づいたら全ての使い魔を倒され奴隷のサリーも気絶している。

このままでは魔界に戻っても勢力争いで殺されてしまうだろう。

それであれば目の前の人間達を殺して自分も死ぬ。

エレノアは、最後の悪あがきとして自爆を考えた…




「もう仕方がない…

 お前ら全員道連れだ…」




エレノアは血を吐きながら爆発魔法を唱えると、

足元に大きな魔法陣が生まれる。



「まずい…

 このままでは全滅だ…」



賢者は即座にエレノアの魔法を把握した。

これを防ぐにはエレノアを上空まで飛ばすしかない…



「賢者、ユーリ!

 俺に魔力を貸してくれ」



クリスに考えがあった…

思いついた作戦は無茶なものだが、これしか手がない。



「時間がない、頼む…」



そして賢者とユーリは、ありったけの魔力をクリスへ送り、クリスの魔力は最大まで回復する。



「何をする気だ…

 クリス…」



「ちょっと、空の旅だよ…」



そしてクリスは駆け抜ける…

自爆魔法発動直前のエレノアに触れる。



「クリス、待て!

 そんなことをしたら、お前が…」



「クリス!!」



賢者とユーリは、突然のことで驚いている。

二人ともクリスを止めたいのだが、

その前にクリスは、行動に移してしまう。



「必ず、帰ってくる…」



クリスは、最大レベルまで身体強化を自分にかける…

そしてエレノアを抱えて木を足場に大樹へと移っていく…



「クリス!」



泣き声にも近いユーリの声が聞こえてくる。

クリスが死んでしまうかもしれない…

そう思うと胸が苦しいほどに締め付けられる。




「き、貴様…

 何をする気だ…」



エレノアを無視して覇王を全力で使用する…

そして、ユグドラシルの枝を足場に大樹を登る。

しかし、制限時間は刻々と迫ってくる。



「馬鹿め…

 後、一分もしないうちに爆発する。

 この距離なら間違いなく全員死ぬ」



時限爆弾のタイムリミットが迫る。

このまま爆発してしまうかと思われた。




何か無いのか…

もっと速く、1秒でも速く…

誰よりも速く駆け上がる。

そんな方法は無いのか…






そしてその時…

クリスの頭の中でクレアを思い出す。



「母上…」




誰よりも速く、誰よりも強い、

宮廷魔術師クレア・レガード。

その固有スキルがある…




「やっぱり母上は、最強だよ…」




そしてクリスは、神速スキルを使用する…

先ほどより更に速いスピードで、大樹を駆け上がる…




残り十秒…




大樹の天辺まで辿り着く。

強化格闘術で大樹を蹴り、身体の向きを空の方向へ変える。

そしてエレノアと共に空を飛んでいく。




「くそ…

 だが、貴様だけでも道連れだ…」





エレノアのその一言に、

クリスは不敵な笑みを浮かべている…





制限時間を迎え、エレノアは大爆発を起こす。

そして上空には黒色の煙が溢れていき、

クリスの姿も見えなくなる。





「クリス!」




ユーリは膝から崩れ落ちた…

愛する人を目の前で失ってしまった。



「馬鹿野郎……」



賢者もクリスへ文句を言う。

絶対に生きていて欲しかった…

気づけば賢者の中でも可愛い弟子になっていた。



二人とも唖然と立ち尽くす…

希望の光を失ってしまった。









そして、上空の煙が少しずつ消えていく…








螺旋の炎がクリスを囲む。

イフリートの炎はいかなる炎も無効化する。

爆発も例外では無い…

エレノアの大爆発は、炎魔法をベースにしたものだった。




「ざまぁみろ、エレノア」




クリスは、エレノアの自爆から全ての者を救ってみせた。

しかし、最後に詰めが甘かった…

魔力を使い切ったクリスは、元の身体へと戻っていく…




「やべ…着地のこと考えてなかった…」




ここは上空800メートルくらいだ。

このまま落下したら確実に死亡してしまう。




「空の旅は良かったけど、

 落下事故とか洒落にならない…」




急降下していくクリス…

このままでは確実に死んでしまう…




クリスは何か方法がないか考えるが、

何も思いつかない…








しかし、その時クリスに近づく人物が現れる…




「は、母上!」



「馬鹿者!

 なんでこの高さから落ちているんだ!」




クレアは、光の剣を足場にクリスを抱き抱える。

足場の剣も何重にも積み重ねて強化している。




「た、助かりました…」



「心配したんだぞ!!」




本気で怒られた…

それだけ心配されていると言うことか…

何とか無事に降りられそうだ…

エレノアと空の心中にならなくて良かった。





「あ、あの…

 母上、そろそろ…

 お姫様抱っこはやめて欲しいのですが…」



「何を言ってるんだ、クリス…

 罰として下まで、ずっとこのままだ!」




う、嘘でしょ…

めちゃくちゃ格好つけて飛び出して行ったのに、

母親にお姫様抱っこをされながら帰るとか、

死ぬほど恥ずかしいんですけど…




そしてクリスに向けるクレアの瞳は優しさに満ち溢れている。

最愛のユーリを救い憎きエレノアまで倒してみせた。

そして死ぬはずだった自分までも救ったのだ。

心からクリスに感謝しても仕切れない…




「クリス……

 本当に、ありがとう…」



「え?」



クレアは、十年後の未来から来た息子に、こんなにも心を揺さぶられるとは思いもしなかった…

ゲイルに話したら、どれだけ驚くだろう…

いっそのこと連れて帰ってしまおうか。

そんな風に思いながらクリスを愛おしく見つめている。



「ほら、みんながお前を見ているぞ…」



「え!母上、すぐに降ろしてください…」



「駄目だ!」




クレアは過去一番に喜びに満ちた笑顔を浮かべる…

この後の展開に心躍らせているだけではない。

最愛の息子とユーリを連れて帰れるのだから…



「おーい!クリス〜

 あねご〜〜」



ユーリが元気よく手を振っている。

その瞳は涙で溢れている…

そして手を振りながら、こちらへ走ってくる…




「ふふふ、ユーリのやつ、

 はしゃぎ過ぎて転びそうだな」




「母上、俺…

 この時代に来れて良かった…

 母上やみんなと出逢えて…

 なんだか、夢みたいです…」




「クリス…」




俺は今までの事を思い出していた。

まさか死んだはずの母親と冒険するなんて…

しかも大切と思える女の子も出来た。

そして、尊敬するカートさんも一緒だ。

こんなにも楽しい日々が訪れるなんて夢のようだった…




「クリス…

 不思議なこともあるものだな…

 だが、これは夢ではないぞ…」




「え?」




「だって、私自身がお前に出逢えて、

 こんなにも幸せなんだ…

 夢であってたまるものか…」





クレアのその言葉がクリスの胸に響く。

自分が生まれた事を認められたと思ってしまう…

気づけば瞳には大粒の涙で溢れている。





「母上…ずるいですよ…」





泣きじゃくるクリスに、

クレアは一言告げる…





「当たり前だろう…

 私は、最強の宮廷魔術師、

 クレア・レガードなんだからな…」




「あはは…

 母上には、やっぱり敵わないや…」





みんなを救うことができて明日も明後日も、

何十年先もみんなと笑顔で笑い合うことが出来る…

きっと過去に戻ってきたのは、

この幸せな日々を守るためだったのかもしれない。

これから先の未来が待ち遠しくて仕方ない。

なぜなら、愛する者たちに囲まれているのだから…

いつも応援頂き、心から感謝申し上げます。

毎日10時更新を今後も続けられるように精一杯頑張ります…

休日は17時にもう1話公開する日もあるかもしれません。

宜しければいいね、ブックマークの登録をして下さると励みになります。

今後とも宜しくお願い致しますm(_ _)m

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