第59話 愛
賢者の時空魔法、次元結界でユーリとデスワームを閉じ込めた。
そしてついにクリスとエレノアの一騎打ちが始まる…
「エレノア、覚悟しろよ…」
クリスは、剣を手に持つ。
そしてクリスの右手に光が集まり、覇王の一撃を繰り出していく…
放たれた光の塊は、エレノアの元へ向かう。
「な、何だと…」
エレノアは、覇王の一撃の威力が想像以上に強力で焦っている…
クリスの覇王はレベル6まで上がった。
その威力とスピードは今までとは桁違いだ。
エレノアは何とか魔力の障壁を作り出し覇王の一撃を回避する…
「わ、私が間一髪で、死を逃れた…だと」
エレノアは事実を受け入れられない。
目の前にいるのは、ただの子供だったはずだ。
それが何故大人の身体に変わり更に覇王まで使えているのか…
考えれば考えるほど謎は深まる…
「思った以上に威力が強かったな…」
クリスも手加減したが、あやうくエレノアを倒してしまうところだった…
ユーリを助ける前にエレノアが死んでは元も子もない。
「いや…お前が弱いのか…」
エレノアは今クリスが発した言葉を聞き間違えたのかと思った…
「わ、私が弱いだと？」
魔女は魔界でも特別な存在だった。
成長速度、魔力の質、得られるスキル。
全てにおいてエリートだ。
更にエルフの血から得られる寿命によって、鍛錬する時間まで十分にある。
そのため魔界では、魔女というだけで優遇される存在だったのだ…
しかし、普通の人間に弱い存在と括られてしまう。
エレノアにとって到底、看過出来ることではない。
「こ、殺す…
私を…愚弄したな…」
エレノアは怒り狂い目が血走っている。
そして、その身体に魔力が溢れていく…
「これが、魔女の力だ！」
炎と暗黒魔法を融合させた魔法、
ヘルフレイム。
暗黒の炎がクリスへ放たれる。
その炎がクリスに届く瞬間、
クリスもスキルを使う…
「炎か……
運が悪かったな…」
クリスの周りに現れる螺旋の炎。
全ての炎は地獄の業火に飲み込まれる。
イフリートの炎は、いかなる炎も無効化してしまう。
「な、何だと…」
エレノアは、まさか夢でもみているのかと現実を受け入れられない。
最高レベルの魔法をいとも簡単に消滅させられた…
クリスは、かすり傷すら受けていない。
「う、うそだ…
私は選ばれた存在だ…」
自暴自棄になったエレノアは、
ヘルフレイムを何度も連発するが、
その度にあっさりと無効化される。
そしてエレノアは膝から崩れ落ちる…
「もう手がないようだな…」
クリスはエレノアの首を掴み魔力を送る。
しかし、予想外の行動にエレノアは困惑する。
クリスは、魔力が枯渇に近づき子供の身体に戻ってしまう。
「な、何をしている…」
エレノアは、予想外のクリスの行動に狂気を感じていた。
何故魔力を与えるのか。
自分の心をへし折るためなのかと、エレノアは勘ぐってしまう…
クリスは魔力をエレノアに送ることが出来たため、
強力な蹴りを喰らわせて弾き飛ばす。
エレノアは苦痛に顔を歪ませて、こちらを見ている。
「賢者…俺はユーリを助けに行く…
エレノアを見張っていてくれ…」
クリスは、感情の爆発により更に高みへと成長した。
その実力はエレノアをまるで子供扱いしている。
賢者はクリスの真の実力に驚愕していた。
「使い魔や奴隷達がいないとはいえ、
まさかここまでとはね…」
クリスは、これからユーリの元へ向かう。
賢者もそれを察してか、ユーリのみ次元の結界を消滅させた。
「クリス、後は頼んだぞ…」
クリスは無言で頷き、
生気を失ったユーリに向かい合う。
「ユーリ…」
俺は、休憩スキルを使用する。
身体の周りに白色の光が溢れていく…
新しいスキル獲得に成功しました。
神速 Lv.5
新しいスキル獲得に成功しました。
従属化 Lv.5
「ユーリ…
俺の声が聞こえるか？」
「…………」
何も返事はない…
名前も忘れてしまったのかよ…
「おい！食いしん坊！
目を覚ませよ！」
「………」
「お前が大好きで…
仕方ない人が沢山いるんだよ！」
母上も、カートさんも絶対悲しむ…
「いつも笑顔で…
明るくて……
悪戯好きで…
でも、優しくて…」
だから一緒にいると楽しくて…
「勝手にいなくなるなよ！」
気づいたら、俺の中で大きな存在になっていた…
「お前が大切なんだよ！」
視界は涙で見えなくなっていた。
手で目を拭うと、ユーリの頬にも涙が流れるのが見えた。
心から伝えたい…
ユーリに…
「俺は、お前のことが…
お前のことが好きなんだよ！」
そして…
想いは、相手に届いていく…
「……くりす…」
「ユーリ！」
俺を呼ぶ声を聞いて、心の中にユーリが存在していることが分かり嬉しくて堪らない…
「ユーリ…みんなのところへ
一緒に帰ろう…」
そして、俺はユーリに口づけを交わす…
その口づけによって、新たな魔法が上書きされる。
人は、その魔法を愛と呼ぶのかもしれない…
ユーリの目に生気が戻る。
「クリス……」
そして、俺たちは抱きしめ合う…
ユーリは涙を溜めた瞳を向けて呟く。
「クリス…大好き」
俺の胸にユーリの言葉が響く。
その輝く笑顔は、今までで一番綺麗な顔をしている…
そして先程のお返しをするように、ユーリから口付けをされる…
その様子を見ていたユグドラシルの大樹が、
二人を祝福するかのように魔力の放出を始めていく。
黄金に輝く魔力が、シャボン玉のように浮き上がる。
その隙間から二人の重なり合うシルエットが見える。
「クリスの声、ずっと聞こえてた…」
「ユーリ…」
「私を救ってくれて…
ありがとう」
今日から新しい物語が始まる。
愛する人達が生きている…
一緒に過ごす未来が楽しみで仕方ない。
きっと馬鹿な事を言い、笑い合う日々だろう。
そんな日々を守るためなら、
俺は何度でも立ち向かっていく…
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