第55話 危機
長老の家に入っていくカートとユーリ。
クレアは、その様子を遠くの物陰から見ている。
そして隣にいる賢者へと話しかける。
「部屋の中に入った時が、
最も危険と言っていたな…」
中は見えず、何が起こっているのか認識できない。
魔女がもしかしたら既にユーリへと接触しているかもしれない。
そう思うと不安で堪らないクレア…
「今は信じるしかないな…
ユーリ達が出てきてから、
何かあれば直ぐに助けに入る」
そして先程入った時とは違いドアが急に開く。
カートが勢いよく開けたのだ。
ユーリの手を無理に引っ張っている。
誰の目から見ても強引に出たのが分かる。
「お、おい…
何かあったのだろうか…」
異変に動揺するクレア。
しかし賢者は冷静に分析している。
「クレア、まだ動くなよ…」
賢者の言葉はクレアには届いていない。
ユーリに何かあったらと思うと、
胸が張り裂けそうで、それどころではない。
そして、カートとユーリの前に現れるエルフの騎士達。明らかにユーリを捕らえるために立ち回っている。
「おい…あれは何だ…」
まさかエルフ達が実力行使に出るとは思わなかった。
賢者は、エレノアの指示を考えている。
それによっては今突入してしまうのは愚策かもしれない。
「クレア、まだ我慢しろ…
仲間を誘い出すためかもしれない…」
「ダメだ…このままでは屈強な戦士達に、
ユーリが捕らえられる…」
そのまま無視して突入してしまうクレア。
上空に光の剣を一時的に呼び出し、
それを足場に空を駆けていく。
「あんなこともできるのか…」
クリスはクレアの万能な魔法に呆れていたが、
隣の賢者は、勝手に無視して先行した事に呆れていた…
エレノアの性格を知る賢者は、
この後に何かが起きると確信している。
「クリス、もし万が一の時は、
お前だけが頼りだ…」
その作戦に俺は無言で頷く。
そして、クレアとエルフ達との戦闘が始まった…
だが、この瞬間に長老の家の前に突如と現れる霧。
何もかもが見えなくなってしまう…
「エレノアが動いた！」
賢者は即座に事態を把握して、
クリスへと指示を出す。
「クリス、ユーリの魔力を探知するよ」
そして二人はユーリの元へと駆けていく。
賢者との訓練で得たスキルの一つ、
探知を使い指定した魔力を探す。
霧の中でクリスの神経は研ぎ澄まされていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
上空から突如として現れたクレア。
そして目の前に立ち塞がるエルフの騎士達。
クレアとエルフ達の戦いの火蓋が切られた。
「ユーリを脅かす者は、
エルフであろうが容赦しない…」
全方位に合計40本の光の剣を呼び出す。
エルフの頭上に配置して、いつでも串刺しに出来る状況だ。
「これは素晴らしい…
さすがルミナスの最強の宮廷魔術師」
エルフの騎士の一人が口にする。
恐怖心は全く無い様子だ…
「いきなり攻撃すれば、
我々エルフとルミナスの戦争に発展するぞ」
もう一人のエルフが、いやらしい笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「何を言う…お前らこそ、
私の家族を攫おうとしているじゃないか…」
クレアは光の剣を後方の者達の足へと飛ばす。
足を刺されたエルフ達は、これで自由に立ち回ることができない。
「貴様！タダでは済まさんぞ！」
正面にいるエルフの騎士が苛ついている。
クレアは更に20本の光の剣を呼び出し、
後方のエルフへと再度剣を向ける。
「二度と立ち上がれないようにも出来るぞ…
それが嫌なら手を引け…」
クレアは本気だ。
ユーリに危害をなす者には徹底的に容赦しない。
しかし、出来事は一瞬のことだった…
気づけば少しユーリとの距離が離れていた。
その瞬間を狙われてしまう。
どこから放たれたのか分からない。
突然、霧を生み出す魔法が発動したのだ…
辺り一面に霧は広がっていく…
毒などの身体的な影響は無いが、
その代わりに広がる速度が尋常ではない。
クレア、ユーリ、カートを瞬く間に飲み込み、
周りを一切認識することができなくなってしまう。
「ユーリ、こっちだ！」
クレアは急いでユーリの手を引いて逃げ出していく。
間一髪のところだった。
「あ、あねご…」
ユーリも心底安心する…
その手を握りしめて霧の晴れている場所へと向かう。
自分が何処に向かっているのか方向感覚が分からない。
「ここまで逃げれば安心だろう…」
「あねご、ありがとう…」
そしてクレアはユーリへと向き直す…
その笑顔はいつものクレアだ。
しかし、何か違和感を感じる…
それは里に入っていた時にも感じていた違和感…
「あ、あねご…
私たちって何のために来たんだっけ？」
「何を言い出すんだ、ユーリ…
そんな事…皆んなの幸せの為じゃないか…」
その瞬間にユーリは悟る。
目の前にいるのは、クレアではない…
クレアの皮を被ったエレノアだと。
ユーリの身体から魔力が溢れる。
魔女との遭遇で手を抜いたら、すぐに支配されてしまう。初手から全力でいく。
氷魔法レベル4、コキュートス
修行の成果で、もっと高レベルの魔法も使えるようになったが、詠唱速度に一番自信がある。
「な、なにをするんだ…
ユーリ！」
「あねご……
いや、貴方はエレノアでしょ…」
ユーリの手から放たれた氷の魔法は氷柱となり、相手へと向かっていく。
「酷いよ…ユーリ…
お前と私は…友達じゃないか…」
ユーリは許せなかった…
クレアの名前を語るだけならまだしも、
絶対に言わないようなセリフを吐き、
クレアを愚弄する…
珍しくもユーリは怒りに震えており、
コキュートスの連発を繰り出す。
しかしその時、クレアになりすましたエレノアの周りに魔力が溢れ出す。
「使い魔召喚」
冥界から悪魔が召喚される。
アークデーモン
高位の悪魔を使い魔として召喚したのだ。
デーモンの放つ暗黒魔法がユーリの氷魔法へと衝突して相殺される。
「それにしても…
よく気づいたわね…」
エレノアは、いやらしい笑みを浮かべながら、
デーモンに指示を出しユーリに向かわせる。
「コキュートス！」
魔力を込めた氷柱を放っていく…
その強力な氷の魔法にデーモンは立ち止まる…
「素晴らしいわ…
その力、絶対に手に入れたくなった…」
エレノアは再度身体に魔力を集めて魔法を放つ。
「使い魔、召喚…」
暗黒の渦から使い魔が現れる。
クリスタルのような形をした生命体。
「エレメンタルクリスタルよ…
氷属性になりなさい…」
エレノアが言葉にすると同時に、透明色だったクリスタルの色は白色へと変化する。
何も知らないユーリはエレノアに向けて、
コキュートスを連発する。
しかし、全ての氷魔法はユーリの命令を無視してクリスタルへと引き寄せられてしまう。
そしてその魔法は吸収されていく。
「ふふふふ…過去の偉大な魔法使い達も
これに沈んだのよね…」
ユーリは唇を噛み締める…
死に物狂いで訓練してきた氷魔法があっさりと攻略されてしまう。
相性の悪い使い魔により攻撃の手がない。
「さあ…デーモン。
あの子を捕らえなさい…」
ユーリの元へデーモンが迫り来る…
その姿を目前にした時、ユーリの目に涙が溢れる。
「あねご、クリス…
ごめんなさい…」
エレノアの元へ捕らえられると、
即座に使い魔へとされてしまうだろう。
エレノアは勝利を確信し笑みを隠せないでいる…
ユーリの最大の危機にクリスは間に合うのだろうか…
今もクリスは、全速力で駆け抜けている…
いつも応援頂き、心から感謝申し上げます。
毎日10時更新を今後も続けられるように精一杯頑張ります…
休日は17時にもう1話公開する日もあるかもしれません。
宜しければいいね、ブックマークの登録をして下さると励みになります。
今後とも宜しくお願い致しますm(_ _)m
