第53話 修行
クリスからの衝撃的な告白があったが、全員疑いなく信じた。
そして今後の方針が固まる。
残された期間は想像以上に限られており、
1日も無駄に出来ないため夜明けと同時に修行を開始する。
ここからは賢者が指示を出していく。
修行をするにあたって、
クリス、クレア、賢者、ユーリの四名で荒野に来ている。
基本は朝から晩まで常時、魔法での身体強化を行う。
身体強化の身体に慣れる事、質を上げるのが目的だ。
そこからは実戦さながらの訓練だ。
賢者、クレアとの実戦訓練。
未来の賢者からの伝言通り、
徹底的に痛めつけて鍛えていく。
「私だけでなく、クレアも相手になるからね…
手が空いてる時は、ユーリも鍛えてやろう」
そして、想像を絶する訓練が開始された…
特に母上との模擬戦は一方的に追い込まれる事が多かった。
光の剣から逃れようとしても、神速で死角に移動され、また新たな光の剣を呼び出されてしまう。
相変わらずのチートだ。
賢者も以前見た通り、強化格闘術のレベルが高く、
宣言通り痛めつけられた…
しかし、毎日の苦しい修行を乗り越えている分、着実に強くなっていると実感する。
更にユーリは賢者からの魔法訓練を受けている。
何と言っても魔法を極めた賢者とのマンツーマンだ。
ユーリにも元々の才能はあったため、凄まじく上達した。
その才能は【魔女】が関係しているのかもしれない…
カートに関しては、王都やエルフの情報を賢者に連絡する担当となった。
盟約上、賢者の家に来ることを許可されたのだ。
まずは来たる決戦に備えて王都に増援を要請。
そして定期的にエルフの里の情報も仕入れる。
大樹ユグドラシルに何か危害が有れば元も子もないからだ。
作戦行動からするとかなり重要だ…
カートの頑張り次第で、クリス達は修行に専念できるのだ…
各々が運命を変えるために、毎日修行を繰り返していく。
修行自体は苦しくても充実した日々を送っていた…
そして月日は経過していく…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして一年後………
一年という月日を無駄にしたわけではなく、
本当にあっという間だった…
賢者と母上の地獄の訓練は、今日で終わりを迎える。
死にそうになりながらも、何とか持ち堪える。
そんな日々を繰り返してきた…
「今日まで本当に頑張ったね…」
「はい…何度か死にかけましたけど…」
賢者自身も今日までの訓練の成果に手応えを掴んでいた。それは賢者が四天王の実力を知る者だからこそ、クリスの実力を測ることができる。
今出来ることを全てやり切った…
その達成感に満ち溢れている。
そしてクレアが最愛の息子へと告げる。
「クリス、お前は強くなった…
だが、忘れるなよ…
私もユーリも全力でお前を支える」
クレア自身、この1年間死に物狂いで訓練をしてきた…自らが死ぬ、その不幸な未来に抗いたい。
もっと隣のクリスと一緒に時を刻みたい…
その想いがクレアを更に強くした。
ユーリもそれは同じだった。
自分にとって親しい人物は限られている。
家族とも呼べるクレア。
そして唯一の友、クリス。
最近、師になった賢者。
そしておじさん枠のカート。
みんなと、もっと一緒に過ごしたい…
その想いが強くなり、ユーリも一年間の地獄の訓練を乗り越えたのだ。
「お前たち…
本当に良くやったね…」
賢者の瞳には、薄らと涙が光る。
それをクレアが見つける…
「賢者様も涙を流すのですね…」
「う、うるさい…
目に埃が入ったんだよ…」
そのやり取りを微笑ましく見ている。
ずっとこのまま時が止まってしまえば良いのに…
そう思うくらいに幸せだった…
しかし、俺達はこれから…
この世界での最後の戦いに臨む。
その作戦決行は明日だ…
明日の戦いで魔女との戦いに決着をつける。
「では、これより作戦会議を始める。
これからが本番だよ!
必ず成功させて未来を掴むんだ…」
賢者の指揮の元、作戦会議が始まる。
賢者の隠れ家にはクリス、クレア、ユーリ、カートが集まっている…
「まずは、魔女エレノアのスキルについて説明する。
奴のスキルは、従属化と擬態。
従属化で魔物や魔族を操る。
そして更に擬態で自身の姿を、自在に変化できる…」
「何度聞いても恐ろしいスキルだな…」
「だが、従属化については制限がある。
まず対象の最大魔力量が自分よりも低い事。
更に、魔の血が流れる者。
その二点が成立しない限りは効かない」
賢者からエレノアについてのスキルが説明される。
特に擬態は一度見た相手であれば誰でもその姿へ変化できる。
これには絶対に注意しなければならない。
そのため、この時点で合言葉を決める事にしたのだ。
「打ち合わせ通り、予定外の行動をした者が
いたら、合言葉を聞くんだ。
それを言えなかったら、即座に攻撃しろ」
「合言葉は?」
「合言葉は………未来だ」
一同、頷いていく…
この単語は流石に忘れるわけがない…
一緒に行動するクリスが未来から来たのだ。
「それではカート、
エルフの里への侵入と計画を説明してくれ」
ここからはカートの一年かけて準備した計画を説明する番だ。
一年間、間者との連絡を密にとり作戦計画を立ててきた。
「まずは、エレノアの目星は付いている…
容疑者は三人だ…
一人目は長老の娘、シータ
二人目はその母親、ミーナ
三人目は叔母の、ケーナ
その三人の誰かがエレノアとみている」
「その三人である根拠は?」
「例の果実導入に積極的な者がこの三人。
さらに最近旅から帰ってきたと聞く。
この家族が怪しいって訳だ…」
「なるほどね…
果実に関して怪しい人物って事ね」
三人の容疑者まで割り出した。
その中にエレノアがいる可能性は高い。
「今回、その果実を納品する業者として割り込む。
そこで言い難いのだが、囮捜査をしたい…」
「囮捜査だと?」
「あぁ…その業者の持ち込みをする際に、
ユーリを同行させる…」
「な、なんだと」
クレアは当然納得できる訳がない。
それどころかユーリを危険に晒すことに、
憤りを隠せない。
「み、認められるわけないだろう…
危険すぎる…」
「だが、エルフの住民の中に紛れるエレノアを
誘き出すには、これしか方法は無い…」
エルフの里に長い年月をかけて四天王が侵入している。
しかも内部で権力を握っており牛耳っている。
短期間で覆すには囮捜査くらいしかない。
カートは自分の不甲斐なさを呪った…
「あ、あねご…
私は大丈夫。
みんなの…
クリスの力になりたい…」
「ユーリ…」
「わ、私は、認めないぞ…」
クレアは、やはり心配なのだ…
もし万が一のことがあればユーリは、
エレノアの使い魔にされてしまう。
「賢者様…
エレノアが従属化を発動する条件は
あるのでしょうか?」
「そうだね…
奴は昔から手当たり次第に口付けしていたね。
でも、それが発動の条件だったのかも…」
口付けが発動の条件なら、近寄らせないように傍で守れば良い。
「あねご…
みんなの力になりたいよ…
それに、もう逃げたくない…」
ユーリはエルフの里や魔女に向き合おうとしている。
苦しい修行を通して自分の過去へと決別しようと、
前を歩き出したのだ。
クレアはそんなユーリを知っている。
ここまできたら力になるしかない…
一呼吸して覚悟を決めた。
「分かった…
その代わり危ないと分かれば、
私は直ぐに作戦を止めるからな…」
「それで良いだろう…
命あっての物種だからね。
なるべく危険は避けるんだよ…」
そしてカートから、作戦の説明は続いていく。
「エルフの里は誰でも入れる。
だが大人数で歩くのは怪しまれるため、
まずは二手に分かる…
果実の搬入業者役は俺とユーリ。
監視、迎撃役はクリス、クレア、賢者様」
「なるほどね…確かにこの面子なら、
業者の役には、カートが一番ハマるわね」
「なんか、あまり嬉しくないな…」
緊張感の中、張り詰めていた空気が少し和らぐ。
カートはムードメーカーだ。
「ユーリは俺が意地でも守る…
だが、奴らが動き出したら、
すぐに助けに入ってくれよ…」
「あぁ…任せておけ…
光の剣で跡形もなく塵にしてやる…」
いよいよ明日、作戦決行になる…
因縁のあるエルフの里。
そこで待ち受ける四天王、魔女エレノア。
厳しい戦いになるのは間違いない。
だが全員が、強い決意を胸に臨むだろう。
そして物語は終盤へと差し掛かかっていく…
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