第52話 告白
賢者の家に辿り着いたクリス達。
いよいよクリスは全てを打ち明ける事になった…
「賢者様…
そしてみんな…
ここからは俺に少し時間を下さい。
俺の全てを打ち明けます」
「クリス…
もし話したくないなら、
無理に、話さなくても良い」
クレアはクリスに秘密がある事に気づいていた。
覇王だけでなく回復魔法まで覚えている。
そんなことが王家に知られれば、
王家はどんな手を使ってでも囲い込むだろう。
何かの理由があり旅をしているのではないか…
クリスが離れて行ってしまう事を、クレアは恐れていた…
「クレアさん…」
「あねごも言ってるし、
クリスが嫌なら…」
ユーリにも絶対に聞かれたくない秘密がある。
それを無理に暴かれる事が、
どれだけ辛いことなのか身をもって知っている…
「俺たちはクリスがどんな人柄なのか知ってる
例えどんな秘密があろうが、
俺たちはお前を信じてる…」
カートはクリスを心から信じている。
どんな事であっても受け入れるつもりでいる…
なんだ…
俺だけが勝手に不安に思って…
もし理解されないなら賢者に会えないかも。
そんな風に考えていたけど、
取り越し苦労だったのかもしれないな…
「みんな…ありがとう…
でも、聞いてほしいんだ…」
「大丈夫…なんだな？」
クレアが聞いてくる…
それに俺は頷く…
「まずは、信じられないかもしれないけど…
俺はこの時代の人間じゃない…
10年後の未来から来たんだ…」
「な、何だと…」
クレアだけでなく、この場に居る者が驚く。
それだけでなく賢者の目が鋭くなる。
「賢者様が同じ席でないと、
信用してもらえない可能性があった…
でも、きっとみんななら…
信じてもらえたと思うけど…」
そう言いながら俺はみんなを見る。
母上、ユーリ、カートさん。
全員が暖かい視線を俺に向けてくれる。
「クリス…
未来から来たと言ったね…
と言う事はその魔法は誰が使ったんだい？」
「フィリアです…」
「なんだって…」
賢者は、予想していた以上に切羽詰まっている状況で、大魔法が発動されたと理解する。
「そうか…
嘘を言っている訳でもなさそうだね…
フィリアのことも知っているんだろう？」
「はい…そして賢者様に、
過去の私に痛めつけて鍛えてもらえ…
そう言われました」
「あははは、そうか…
そう言ったのか…
それなら間違いなく私が言ったのだろう…」
賢者と話をしているが、
他の者は、途中から何を言っているか分からない。
話に付いていけなくなってしまったのだ。
そのため賢者がフォローする。
「すまないね、あんたたち。
間違いなくクリスは未来の人間だ。
私にしか使えない固有スキル、
時空魔法によって未来から飛ばされてきた」
「な…」
クレアは賢者が言い切った事に驚愕する。
時空を超える魔法が存在するなんて…
自分の価値観で推測ってはいけない。
そう思ったのだ…
「あの…もう一つ。
とても大事な事がありまして…」
賢者はこれから打ち明ける内容を推測した。
クレアとの関係についてだ。
クレアの反応を想像して笑みを浮かべる…
急にクリスはその身体の向きを、
クレアの方へと向ける。
「あの、クレアさん…
実は…」
「な、なんだ…
改まって…」
何故だか急に緊張してきたクレア。
愛の告白でもされるのかと思うような、
シチュエーションである。
「あの…俺、実は…」
「お、おい、まて！
私は子持ちだ…
それはまず先に言っておくぞ…」
堪えられなくなった賢者は、笑い出す。
声をあげては流石に酷いだろうと言うことで、
口を手で押さえて笑いを堪えている。
「あの、子持ちなのも知ってます…」
「お、おい！
お前！
それでも…だと…」
急にクレアは真っ赤になり、
しどろもどろになる…
「あの…
俺……あなたの…」
「わあああああ」
顔を真っ赤にしたクレアは混乱状態に陥る。
目をぐるぐる回している…
「あねご…
落ち着いて…」
ジト目でみるユーリ…
息切れをしているクレア。
「す、すまない…
取り乱した…」
「はい……」
前に置かれている紅茶を飲み、
クレアは心を落ち着かせる。
「どうぞ…」
「あの……
俺の名前はクリス・レガード。
世界で一番愛する貴方の息子です」
「はい？」
クレアは、クリスの言っている意味が理解出来なかった…
もう一度、二度、クリスの言葉を思い出す。
「あ、あ、あ…」
そして少しずつ理解し始めたクレア。
クレアは口をぱくぱくしながら、
クリスを指差して見ている…
ちなみに顔は真っ赤だ。
「母上…
過去に遡って、
貴方に出逢えて俺は幸せです…」
「ええええええええ」
クレアは更に混乱状況に陥っている。
まさか自分の育てる2歳の子供が、
こんなにも大きくなって現れたのだ…
しかも自分を助ける姿は凛々しく、
命をかけて守りきってくれた…
その姿は惚れ惚れするくらいに格好良かった。
今でもメデューサの毒に侵されていた自分を、
必死に治療した姿は心に残っている…
「お前…本当に、
本当に、私の息子のクリスなのか？」
「そうですけど…
父上はゲイル、妹はアリス。
レガード家は剣聖の家系ですよ」
「こ、こんなに格好良くなるなんて、
思うか！」
いきなり母親から突っ込まれて困惑するクリス。
まだ混乱しているのかなと母親を心配している。
「あねご…落ち着いて…
未来で不測の事態が起きてて、
それを変えるためにクリスは来た、
そういうことだよね？」
「ほう、小さいのに意外と冷静だね…
聞いた話からよく推測したね…
そうなんだろ？、クリス…」
「はい……ここからは皆さんにとって、
辛い話になります…」
ここまで静かに話を聞いていたカートが口を開く。
カートは、護衛として会食に出席することがある。
そのため、冷静にこの会話の内容を整理していた。
「その未来の話を聞いたり、
未来を変えてしまっても大丈夫なのか？」
「カートの言う事も分かる…
だが、それ以上に危険なんだろ？
何せ、私が過去に送ったんだからね」
賢者は、カートの言う事は最もだと思っている。
だが、賢者自身がクリスを過去に送ったことも事実。
そしてクリスが、話したくない内容を口に出していく…
避けては通れない、認めたくない事実。
「ここに居る者で、生き残っているのは
俺とカートさんだけです…」
「な、何だと…」
クレアはまさか、自分もユーリも、
そして賢者でさえも亡くなっているとは思わなかった…
「そうかい……
未来の私は、全てをあんたに託したんだね…」
「はい……
未来に戻り、必ず黒騎士を倒します…」
「黒騎士だって？」
賢者は黒騎士について驚きを隠せない。
更に、未来のエルフの里で起きたこと。
そしてクレアとユーリは今年、亡くなる運命にあることを伝えた。
「頭が痛くて仕方ないね…
流石の私も予想していた以上に、
苦しい未来に嘆いているよ」
賢者ですら悩む未来。
だが希望はある…
「そして残念だが…
まずはお前を未来に送るのに、
問題がある…」
賢者が指摘する問題。
それを解決せずして未来へは戻れない。
「それは何ですか？」
「それは魔力だよ…
私の10年分の魔力でも足りない。
そしてそれを補うために必要な物がある。」
「賢者様…
それは？」
賢者はため息をついて、その答えを告げる。
その顔は耐え難い事実を打ち明ける、そんな顔だ。
「それはね…
エルフの里にある、
大樹ユグドラシルの枝だよ…」
「な…」
クレアはこのタイミングで、
エルフの里と言う名前が出てきた事に落胆する…
なんて運が悪いのだろう…
「申し訳ないけど、今回の作戦で、
ユグドラシルの枝は必要なんだ…」
どうしてもエルフの里を救わなければ、
未来へと帰ることができなくなってしまう…
そして賢者が更に口を開く…
「大樹に魔力が集まるのには周期がある…
それがね…今から丁度一年後…
来年には必ずユグドラシルの枝を、
手に入れないといけない…」
たった一年の猶予しかない…
想像以上に時間は限られている。
「それなら、賢者様…
俺に修行をつけてください…」
賢者に頭を下げるクリス。
どちらにしても黒騎士を倒すために必要なことだ…
「勿論だよ…クリス…
お前にはこの時代も、未来も救ってもらう…」
賢者の言葉に、俺は無言で頷く。
そんな俺の手をユーリが握る。
「クリス、何でも力になる！
だって私たち、友達だからね…」
どこか頬が赤い気はするが、
力になってくれると言い出すユーリ。
「ふふふ…
未来の息子の修行か…
面白いじゃないか…
私が徹底的に強くしてやる…」
クレアも微笑む。
その笑顔は優しさに満ち溢れている。
「さて、ひとまず一年間、
みっちり扱いてやる！
死ぬ気で喰らいつきな…」
そして未来を変えるために、クリスの修行に取り掛かる。
四天王を倒せるだけの力をつけなければならない…
当然だが、壮絶な修行が待ち受ける。
それでも、クリスはかけがえのない仲間と一緒にいられる。今は幸せを感じているのであった…
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