第46話 母親
燃えたぎる炎が少しずつ収まり、
周りを囲っていた炎の牢獄が少しずつ消滅していく…
今までクレアは自分の力で全てを守ってきた…
しかし、目の前の炎の渦に飛び込む事が出来ない。
気づけばクレアにとって、クリスは大切に思える存在になった…
クレア自身ですら理由がわからない。
だが大切に思うからこそ、今の状況が不安でたまらない。
炎の隙間からクリスの姿が見える…
するとクレアは走り出していた…
「クリス!」
気付くとクリスは母親に抱きしめられていた。
過去に抱きしめらた記憶は、幼すぎて覚えていない。
だが二度と会えないと思っていた母親に抱きしめられている。
こうして触れ合っている事が無性に嬉しくて、
気づけば瞳は涙で溢れていた…
母上…
そしてクレアも腕に力を込める…
大切な存在であるクリスが生きている。
その事実に心の底から安心している…
出会ってすぐの他人に、こんなに感情を揺さぶられるとは思いもしなかった。
「ば、ばか……心配させるな…」
「…クレアさん」
一瞬、母上と言いかけるが言葉を飲み込む…
本当は打ち明けたい…
でも、もし理解されずに離れてしまうことの方が今は辛い。
そうクリスは思ってしまう…
「お前が生きていてくれて…
本当に、良かった…」
涙声で伝えてくるクレア…
その言葉を聞いた瞬間に、母親に自分の存在を認められた気がして涙が出てくる…
「クレアさん…ありがとうございます…」
「な、なんでお前が感謝するんだ…
私の方が言わなければだろう…」
「え?」
「お前こそ、イフリートを倒し、
私たちを救ったじゃないか…」
そうか、母上とユーリを守れたんだよな…
今でもまだ信じられない…
「そうでしたね…でも、偶然スキルの相性が良かっただけで…」
母上と抱き合っていると、
遅れてユーリも到着した…
「くりじゅー」
すごい顔でユーリが到着する。
涙と鼻水で洪水のようだ。
ユーリからしても、クリスが心配で堪らなかったのだ…
クリスはそんなユーリの顔を見て、
面白くて吹き出してしまった。
「ふふふ、あはははは」
「ひどいよ…くりす…」
ユーリはせっかく心配してるのに、
笑われて拗ねている。
いつものユーリと違って、
このような表情もとても可愛らしい。
あれから俺達はイフリートと契約をすることになった。
契約の腕輪を母上が所持していたため、
その場で契約できたのだ。
その後、イフリートは精霊界へと去っていった。
そしてようやく、精霊の森を抜ける。
思えば色々あった森だが、うまく切り抜けることが出来た。
「やっと抜けた〜」
森を出ると少し上り坂だが、遠くに村が見える…
待ちに待った村にユーリは、我慢が出来なくなり走り出す。
「あ、あねご!
ちょっと偵察に行ってくる…」
ユーリはお腹が空きすぎて限界なのだ…
森に入ってから半日以上は経っている。
クリスと食べた串焼きや、喫茶店での食事は、
とっくに消化し終わっている…
「転ぶなよ〜」
先に走り出してしまったユーリ。
少しの間、クレアと二人きりになる。
「クリス…
ありがとうな…」
「え?」
「ユーリのことだよ…
友達になってくれて…」
ユーリに友達は一人もいなかった。
【魔女】が原因なのか、
ユーリから親しい者も去っていった。
「俺も楽しいですから…
ユーリと一緒にいると…」
「クリス…」
「もちろん、クレアさんもですよ…」
急に自分に向けて言われると思っていなかったため、一瞬驚いた素振りを見せるが、クリスに向けて優しい笑顔を向ける…
「あぁ…私もだよ…
クリス…」
その笑顔にクリスは見惚れてしまう。
美しい容姿をしているクレアだが、
それだけでなく、その笑顔に母性を感じたのだろう。
アリスにも会わせてあげたいな…
きっと喜ぶだろうな…
「おーい!あねご、クリス!
お団子無くなるぞ〜」
村に入って、団子の在庫をチェックしたユーリが大声で叫ぶ。
「本当食いしん坊なやつだ…」
クレアは、夢中になっているユーリを見て自然と笑顔になっている。
「さあ、俺たちも行きましょう!
団子なくなりますからね」
母上と一緒にユーリの元へと駆けていく…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この村は山の麓に位置しているだけあって、
登山客や冒険者が多い。
クリスは外の世界をフィリアと共に回った事しかない。冒険者を見たことはあるが、こんなにも多くの者を見たことはないのだ。
「おい、あいつ閃光のクレアだぜ…」
早速、母上の噂話が聞こえてくる。
本当にどこでもその名が轟いているんだな…
俺たちは今、団子屋のベンチに座って、
仲良く3人で団子を食べている。
ちなみにユーリは目を星のように輝かせている。
少しずつ見物人が増え始めて、クレアの眉間に皺がよる…
だがせっかくユーリが幸せそうに団子を頬張っているのに、邪魔してやりたくない。
クレアは必死に我慢している。
そんな中、人混みをくぐり抜けて、
俺たちに向かってくる人物がいる。
「よお!クレア」
「お、おまえは……
カートじゃないか……」
まさか、クリスは麓の村でカートに出会うとは思っていなかった。
10年前のカートはあまり変わっていなくて、吹き出しそうになる。
カートおじさん…
10年前もおじさんじゃないか…
「クレア、これからどこに向かうんだ?」
「この先の山に登るのだが…」
「そりゃあ、良い!
俺も同行させてくれ!」
クレアの実力は規格外だ。
敵にしてしまえば、一瞬で光の剣の犠牲になるだろう。
しかし仲間であるなら話は違う。
クレアと同行できるならば、道中は安全を約束されるようなものなのだ。
「お、おい…」
「俺一人だけだと心許なくてな…
お礼に夕飯はなんでもご馳走するぞ…」
「な、何だと…」
クレアはこの後のユーリへの奢りに震えていた…
ユーリは大食らいだ。
過去の逸話で、店にある食材を食べ尽くしたことがある。
何でも奢ると言ってしまったのは失言だったと少し後悔している。
クレアも2歳の子供を育てている母なのだ。
いくら宮廷魔術師で高給取りとはいえ、
出来れば今後の学費のために節約したい…
「わ、わかった…
お前の同行を許可する…」
「あねご、奢りに負けやしたね…」
ジト目でクレアを見るユーリ。
少し頬を赤くしたクレアが反論する
「う、うるさい…
こいつが何でも奢ってやると言ったのだ…
ユーリも遠慮せず食いまくれ…」
「な、何と!
あねごから真の力を解放する許可がおりた!」
目を輝かせるユーリ。
本当に店ごと食い尽くすつもりだなと、
クレアはカートに同情する…
「おまえ、見ない顔だな…」
「はじめまして、クリスと申します…」
「俺はカートだ…
そこのクレアと同じルミナスに所属する。
俺は騎士団だがな」
挨拶を終えて、野次馬もかなり集まってきたので俺達は移動する事にした。
ユーリの待ちに待った夕食の時間。
食事処へと向かっていく…
俺はカートおじさんが好きだ…
普段であれば会うことが出来て物凄く嬉しいだろう。
だが、この時代では出来れば会いたくなかった…
何故なら、母上の死を目にしたのがカートさんなのだ。
俺達の旅は少しずつ終わりに向かっているのかもしれない…
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