第35話 異様
ダカールは王都にも近くそれなりに大きな街だ。
昔は薬草の町とも呼ばれていたが、今では交易盛んな商人の街になっている。
それであれば尚更、防衛に力を入れているはず。
それなのになぜオークが王都側まで来ているのか。
フィリアは不安に感じていた。
「クリス君…
もしかするとかなり強い敵がいるかも…」
「フィリアさん、すいません…
実は、覇王で全力を出したら5分が限界です…」
フィリアはその言葉に驚愕している。
クリスの現状のスキルは大きく魔力を消費する。
そのため占拠されているかもしれないダカールに行ったとしても5分以上は戦えない…
ダカールに行くこと自体にリスクがあるのだ。
一瞬驚いたような表情を見せるフィリアは、
宮廷魔術師での経験を生かし現状を打開する方法を必死に考える。
するとフィリアは適切な作戦を閃いた。
「クリス君のスキルは、休憩だっけ?
陛下やキャロルから聞いてはいたのよ…」
「そ、そうですけど…」
「そしたら、私が魔法を使うから魔力を渡して…
クリス君は魔力タンクのような戦法よ!」
その提案をされてクリスは一瞬マリアとの日々を思い出す。
別に破廉恥な事をする訳ではないが、なぜか背徳感を感じていた。
「あの…やましい事は無いのですが、
手を繋ぐのは大丈夫なんですか?」
「ん?手?
手なんて繋がなくても大丈夫よ!
それに魔法打ち難いし…」
「え?」
クリスは魔力を送る別の手段に安堵していた。
マリアとの訓練を思い出し、出来れば接触は避けたかったのだ。
「クリス君、そろそろダカールが見えてきたわ」
ダカールの門が今にもオークの群れに壊されそうになるところだ。
かなりの量のオークが群がっている。
数は総勢40体。
「ま、まだ街の中に入ってない…
でも外で戦う者は、みんな死んでますね…」
「あの数相手に冒険者や警備兵では、
戦力不足だったようね…」
街の中に逃げ込みなんとか凌いでいるようだ。
救援を求めたいが街から外に出られない…
「じゃあ、クリス君やるわよ.」
「は、はい!」
そして宮廷魔術師のジャケットを脱ぎ出すフィリア。
シャツ一枚の姿になる。
「フィ、フィリアさん!
一体なにを?」
「え?そんなの背中に手を置いて、
魔力を送ってもらうに決まってるじゃない…」
そして長い髪の毛を髪飾りで後頭部に固定する。
邪魔にならないように配慮したようだ。
フィリアの綺麗な首筋が露わになる。
「え、え、背中ですか…」
「クリス君、早く!」
や、ヤバい…
き、聞いてないぞ…
直接手を背中に触れないといけないなんて…
「早く!街に入っちゃうでしょ!」
「ご、ごめんなさい!」
慌ててクリスはフィリアの背中に手を当てる。
背中に触れるとシャツ越しにだが、
肌の感触を感じてしまう…
「クリス君?…クリス君?
早く魔力送って…」
「は、はい…」
顔を赤くするクリス…
年上の女性の背中を触る機会は無かったのだ。
「い、いきます。」
「く、クリス君、
もっと優しく……」
突然の魔力注入に焦るフィリア…
そして想像以上に身体が熱くなっている。
「………はぁ……はぁ」
や、やめて……
変な声出さないで…
「クリス君………いくわよ…」
「はい?」
「バブルショット!」
そのように伝えるとフィリアはバブルショットを放つ。
背中越しに魔力が水魔法に変換されるのを感じた。
そして弾丸の水魔法はオークを撃墜する。
「す、凄い威力だ…
フィリアさん、やりましたね!」
「はぁ………クリス君…
次いくわよ」
「は、はい!」
そしてフィリアへと魔力を送り続け、バブルショットで次々にオークは瞬殺される。
更に怒り出したオークがフィリアへと接近するが強化格闘術で始末される。
相変わらず近距離、中距離共に隙がない。
「あと何匹くらいですか?」
「残り10匹くらい…」
よ、ようやく終わる…
とにかくフィリアさんは危険だ。
色々な意味で警戒しなければ危ない…
そしてクリスとフィリアは、残りのオークを協力しながら撃破する。
クリスは、この異様とも感じる戦いを経験して早く強くなろうと心に誓うのだった…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いや〜まさかルミナスの宮廷魔術師様とは…
ダカールも本当に運が良かった…」
色々ありすぎて頭が混乱しているクリス。
街の人からも感謝されている訳だし、
先程の行為は良いことだったと自らを納得させている。
「感謝の印として、
今日お祭りを開催しますので是非…」
「いえ…俺達は急いでいるので…」
「ぜひ参加します!」
俺が断ろうとしたところを若干食い気味に参加を言い出したフィリア…
大丈夫なのかと心配になるが、
フィリアへも申し訳ない気持ちもあるため、
謝罪と慰労の意味も込めて従うことにした…
そして…数時間後……
「きゃははははははは」
「フィ、フィリアさん」
俺は数時間前に慰労を込めてなんて考えた自分を殴りたい。
フィリアは酒をこよなく愛する魔術師だったのだ…
「クリスく〜ん…
お姉さんともっとお話し、しましょうよ〜」
「いや、もう未成年には遅い時間なんで、
宿に戻りたいんですが…」
「ら〜に言ってるのよ〜」
目つきが完全に酔っらいの目だ…
や、ヤバい…
野獣がここにいる…
誰か助けて…
と街の人に視線を送っても、
知らぬ存ぜぬで逃げていく…
そして深夜も深夜の時間になり、
ようやくフィリアも眠くなってきたようだ。
飲みながら酔い潰れてしまった。
背中にフィリアを乗せて宿屋まで運ぶ。
先程の良い匂いが漂ってきて、オークを撃破した時のフィリアの変な声を思い出してしまう…
もう早く運んで今日は寝たい…
一刻も早くに…
そしてフィリアの部屋まで着きベッドまで運んでいると、後ろから押し倒されベッドに倒れてしまう…
「ちょっと、フィリアさん…」
「クリス君…」
「何やってるんですか…」
「へへへへへ」
「退いてください…怒りますよ…」
クリスはそのように何とか怒りに振り切らないと理性を保てない。
何せ背中には色々と当たっている。
「お、怒らないでよ…
私には……もう誰もいないのよ…」
「へ?」
「どうしてよ…
どうして………」
「フィリアさん?」
酔ってふざけていたのかと思ったが、
急にフィリアから切なく心を痛めた言葉が聞こえてくる。
「どうして居なくなっちゃったの?
クレア様…」
「フィリアさん…」
母上の弟子であるフィリア…
俺を見ると思い出すのが嫌だから今まで会えなかったと言っていた…
今日も母上を思い出してしまっていたのだろうか…
「もう居なくならないで…
…死な…ないで…」
悲痛すぎるその声は一体母上に向けた言葉なのか…
それとも俺に対しての言葉なのだろうか…
そして、苦しむフィリアへかける言葉を思い付くことは出来なかった。
水魔法と格闘術に優れた宮廷魔術師フィリア…
大切な人を失い、今も苦しんでいる…
そんな彼女の心を少しでも落ち着かせる事はできるのだろうか。
そう思いながらも今の状況をどうすれば良いのか、
途方に暮れるクリスだった…
いつも応援してくださり本当にありがとうございますm(_ _)m
明日も頑張って10時更新を目指します。
もし宜しければブックマークの登録といいねをしてくださると励みになります。
今後とも宜しくお願い致しますm(__)m




