第33話 切ない想い
大騒ぎとはいかないまでも、
王族との食事会はそれなりに賑やかで楽しいものだった。
あれから帰宅はしているが翌日にもう一度ゲイルとともに城に来るように言われている…
客間ではあり広めのテーブルに椅子を並べて囲む。
「クリスよ…連日済まないな…」
「陛下、昨日は大変お世話になりました…」
「うむ…今日は楽にして良いからな…」
とは言っても周りには数名役人がいるため、
緊張するのは確かだ。
「クリスよ…今日呼んだのは、今後についてだ…
魔王復活に向けて手を打つ必要がある。
まずは優先度が高いものとして二つ。
一つ目は賢者への面会。二つ目は其方の強化だ。」
「賢者ですか?」
「初代国王とともに国を守った賢者、
そして転生者でもある者。
彼女は人里離れたエルフの里に隠れ住んでいる…」
「ま、まだ生きているんですか?」
前に確かリーナが言っていた賢者。
500年前の話しだよな…
伝説の中だけの人物かと思っていたが、
まさかまだ生きているとは…
「今回、お主ら2人だけを集めたのは理由がある。絶対にこの賢者の存在と場所を知られてはいけないからだ…
例えマリアやシャルロットにもな…」
「な、何か盟約があるのでしょうか?」
勘の鋭いゲイルが尋ねる。
誰にも知られずに、里を訪ねる。
それは盟約が交わされていると予測した。
「そのようなものだ…
ルミナスに覇王スキル所持者が現れた時、
極秘裏にその者だけで賢者を訪ねるように言われておる…」
「そんな盟約が…
そしてこちらの対価は何なのでしょうか?」
まさにそれが今回の重要な要素になるわけか。
一体何なのだろう…
賢者が与える物。
魔王復活阻止に必ず必要な物…
「まあ…賢者自身だよ…」
「へ?」
「エルフの里に迎えに行き、ルミナスまで連れてくるという事だ…
そして………」
その後のルミナスの防衛や魔法復活阻止に尽力してくれることをルミナス国王は説明する。
「なるほど…本当に覇王スキルが開眼しているかを直で確認するために、
スキル所持者が迎えに行くという事ですか…」
ゲイルがまさに答えに辿り着く。
すると俺は一つ疑問をかんじる。
「あ、あの…誰にも伝えられないということは
俺…一人でエルフの里に行くのでしょうか?」
「はっはっは!まあ心配するでない…
この件を盟約上でも許可された人物が一人だけいる…」
「入れ!」
陛下は説明とともに、ある人物にこの部屋に入るよう指示する。
扉を開けた人物に驚愕する。
「フィリアさん…」
宮廷魔術師のフィリアだったのだ。
真剣な顔をしているフィリア。
「クリスよ…婚約を正式に発表した翌日に申し訳ないが、護衛はフィリアだけだ。
しかし腕は一流なのだ。
更に…道中、クリス自身の強化もしてもらうと良い…」
これが二つ目の優先事項という部分。
魔法について俺自身の強化、
それをフィリアに師事するということか。
母上の弟子に師事する。
確かに運命を感じる流れだよな…
「へ、陛下!
婚約して早々に女性と二人旅は大丈夫なのでしょうか…」
ゲイルは、冷や汗を流しながら陛下に質問する。
というのは、フィリアのことを知っているとはいえ、
婚約を済ませたマリアに失礼にならないか心配なのである。
そのためクリスと万が一のことがあったら、レガード家はどうなるのか考えただけで恐ろしい。
「まあ、我もクリスを信じておるが、
間違いが起きたら仕方あるまい」
はっはっはと笑いながら言う…
いやいや…笑い事ではないと思うのだけど…
「陛下、出発はいつ頃になさいますか?」
ゲイルが尋ねる…
たしかに少しゆっくりしていたいが、
あんまりのんびりしていると騎士魔法学園の試験日に間に合わなくなる。
「クリスとマリアも新設される騎士魔法学園の試験を受けてもらうからな。
申し訳ないが、すぐにエルフの里には行ってもらう」
ゲイルは苦笑いしながらも陛下の提案を聞いていく。
俺も大体は予想はできていた…
「あの…マリアやシャルロット殿下にどのようにお伝えすればよろしいでしょうか?」
「そうだな…私からも関係国に覇王スキルの紹介で旅立ったと伝えておこう。
だが、せっかく婚約したのだ…
明日くらいは一日二人でゆっくり過ごしなさい…」
俺は昨日までの幸せの時間があっという間に崩れ去るかのように落胆してしまった…
まさか、婚約して早々に離れ離れになるなんて…
「まあそう落胆するでない…
早く会いたければ早く帰って来れば良いのだ…」
「そ、そうですね…」
確かにそうではあるが、
昨日の陛下の民への諸々の対応を見ていた事もあり、
入念な計画のもと賢者の元へ送り込まれている気がしないでもないクリス。
エルフの里は人里離れた場所…
3か月くらいは往復でもかかるだろう。
早く賢者を連れて帰らなければマリアの気持ちが薄れてしまうという心理を利用されている気さえする。
たが結局のところ、クリスにとっては賢者の場所に行くしか道はないのである…
「分かりました…
可能な限り早く戻ってまいります…」
「良い!期待しておるぞ…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから陛下と別れて翌日のこと、
陛下の言う通り、マリアと二人で会うことができた…
今はマリアの私室にいる。
陛下から指示が出ているのかは分からないが、
キャロルは来ていない…
「あのさ…今日は一日中、一緒にいても良い?」
「へ?急にどうしたの?」
マリアはいきなり一緒にいたいと言われた事にドキっとしてしまう。
「うーん…言いづらい事ではあるのだけど、
陛下からのお願い事で少し国を離れるんだ…」
「え?………」
予想外すぎる内容に言葉を失うマリア…
まさか婚約して二日後に離れ離れになる話をされるなんて…
「どう…して…」
「内容的に機密もあるから詳しくは言えないけど…俺にしかできない事なんだ…」
「そう…だよね…」
マリアは必死に言葉を飲み込んでいる。
文句を言いたいが、クリスの足枷になってしまう。
ただでさえ力のないマリアにとって、
これ以上、足手まといになるのは嫌なのだ。
「マリア…
本当はさ…俺めちゃくちゃ行きたくないんだ…」
「え?」
「だって、マリアともっと一緒にいたいんだよ…」
「クリス…」
離れ離れになると分かれば分かるほどに切なくなる…
そしてそれは胸が高まり痛くなる…
心臓が張り裂けそうなほどの痛みに耐えられなくなるマリア…
「クリス…」
耐えられなくなったマリアは、クリスに抱きついてしまう…
この部屋は二人きりの場所だ…
誰も邪魔する者はいない。
「マリア…」
お互いに求め合うように唇を交わす…
離れたくない気持ちが更に突き動かす。
「クリス…胸が…苦しいよ…」
「マリア…」
「離れ…たくないよ…」
マリアを不安にさせないために俺は優しく力を込めた…
重ねた唇からは涙の味がした。
悲しませないと誓ったはずなのに、マリアを泣かせてしまった。
「マリア…愛してる…」
俺はマリアへのありったけの言葉を口にする…
マリアは瞳を潤ませて、俺をキツく抱きしめる…
「クリス……私も…」
その想いを感じて更に俺も切なくなってしまう…
胸が痛くて苦しい…
「やっぱり…俺も離れたくないや…」
まだ婚約中だから、それ以上の関係にはなれない。
でも、二人の気持ちを確かめ合うかのように、
俺たちは何度も、何度も愛情を重ね合わせていった…
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