第30話 進展
剣聖セシルとの死闘の後、
しばらくして王国騎士団のゲイルを始め、
魔法学園まで同行していた宮廷魔術師が現れる…
城内の敵は全て一掃してきた。
「申し訳ありません…
シャルロット殿下、マリア殿下…
敵の侵入を許し、更に到着が遅れてしまいました…」
ゲイル達は深々と謝罪する…
陽動作戦とはいえ敵の術中に嵌められてしまったのだ…
「まあ…相手もかなりの準備をしていたようだしね…
これからの防衛策を考えましょう…」
シャルロットはゲイルに、セシルが裏切ったこと。
更にここにいるクリス達の功績によって撃退した事を伝えていく…
「ま、まさかそんなことに…」
未だ自分の子供達が立てた功績を信じられないゲイル…
しかし、クレアの才能を2人とも受け継いだとも思う。
「ところでだが、リーベルトはどうなった?」
「奴の屋敷に行った所、既に国外へと逃亡した後でした…」
「そうか…」
リーベルト伯爵は敵国と内通していた。
国内の魔法知識を少しずつ流していき、
最後は学園も破壊して逃げていったのだ。
魔法学園は崩壊してしまった…
それがルミナスへの打撃となった…
「陛下に相談しなければならないな…
それにクリスのスキルの件もある…」
シャルロットは父であるルミナス国王に報告するため去っていく…
「父上…」
「クリス…よく守ってくれた…
王国騎士団の副隊長として感謝する…
そして到着が遅れてしまい申し訳ない…」
役職が副団長だった事にも驚いたが、
初めて父が俺たちに頭を下げた…
俺はその姿に困惑を隠せない…
「や、やめてください父上…」
「そ、そうです…
私たちは父上の訓練のおかげで勝てたのです…」
アリスも相当動揺している…
それだけに父が子供達に頭を下げる事は、
レガード家では異常なのだ…
「ゲイル…」
「マリア殿下…」
「貴方の親族、そして部下に私の命は救われました…感謝をしても仕切れないのは私の方ですよ?」
「そ、そんな滅相もない…」
今度はゲイルが焦り出す番だ…
今日は父の珍しい一面が垣間見えた…
「ゲイル…俺には酒を奢れよ…」
「カート……あぁ…分かった…
……奢る」
カートは言ってみるものだなと口にする。
その後は、またなと俺たちに挨拶を言い、
この場を去っていく…
「あの!副隊長!
私も!私も!」
キャロルも便乗して言ってみる。
「分かった……奢ってやる」
「やった!!
おいお前ら!
副隊長が、何でも奢ってくれるぞ!」
そこに居合わせた騎士4名が大声で叫び合い喜んでいる…
「お、おい!…」
ゲイルは、ため息を吐きつつも皆んなが生還している事に安堵している。
城門付近の兵士たちも死傷者はいたが何とか一命は取り留めたようだ…
「ちょっと良いかな?」
「は、はい」
すると俺に声をかけてきた人物がいる。
装いからしても宮廷魔術師の人だ…
「私の名前はフィリア。
宮廷魔術師の1人よ…
貴方達が…クレア様の…」
「は、はじめまして…
クリスと申します…」
「私はアリスです…」
フィリアは20代前半、眼鏡をかけた女性だ。
茶色でミディアムくらいの髪型をしており、
知的な外見をしている。
「フィリアはな…クレアの弟子なんだ…」
「え?母上の弟子?」
俺もアリスも動揺を隠せない。
初めて聞く弟子という存在。
今まで交流も無かったのは何故だろう…
「ごめんなさいね…
クレア様が亡くなられたのが辛くてね…
貴方達に会えなかったのよ.」
「そうだったのですか…」
「でも、凄いわね…
まさかあのセシルを退けるなんて…」
「いえいえ…
皆さんのおかげです…
本当に全員で勝ち取ったと思います」
たしかに思い返すと皆んなで勝ち取った勝利だ。
シャルロット、キャロル、カート、アリス、ベル、そして俺やマリアもだ。
1人でも欠けていたら全滅していた…
「ふふふ…あのクレア様の息子とは思えないわね…」
フィリアは昔を思い出すかのように笑う…
「え?」
「クレア様なら…
当たり前だろう!何せ私が戦ったんだ!
って感じで言ってたわね」
「あぁ…クレアなら言いかねないな…」
ゲイルも昔を思い出しながら言う。
「クリス君。
今度宮廷魔術師の訓練所に遊びにいらっしゃい。
もちろん、アリスちゃんもね。」
「え?良いんですか?」
素直に母上がいた場所に興味がある…
今度、俺とアリスで寄らせてもらおう。
そしてフィリアもこれから陛下のところに行くと言い、この場から去っていく…
「あの…ゲイル…
クリスの魔法訓練なのだけど…
今後もずっと私が担当したいのですが……」
フィリアが去った後に、マリアがゲイルに提案し始める…
「私は大丈夫ですが…
今後もずっと…という事は、
陛下にお願いをされるという事ですね?」
「この後、正式に伝えようかと…」
ゲイルは、俺とマリアを交互に見て、
なるほど…と言ったような表情を浮かべる。
「まだまだ未熟な若造ですが、宜しくお願い致します」
クリスは自分のことなのだが勝手に話が進んでおり、
全く頭が追いついて行かない…
「えーと、どういう事でしょうか…」
「馬鹿者…後で教えてやるから今は黙ってなさい…」
父上にキリッと睨まれ、俺はシュンとする。
そんなに怒らなくても良いじゃないか…
なぜかアリスも隣で俺を冷ややかな目で見ている…
「では、クリス…また後で会いましょう…
たぶん今日中に謁見あると思いますので…」
そしてマリアも去っていく…
クリスはその後ろ姿を見ながら寂しく思う…
もう少し一緒にいたいなと。
「今日、この後に謁見なんだね…」
「これだけ大ごとだからな…」
そのため皆んなは忙しいのか…
カートもキャロルも持ち場に戻っている。
ゲイルは続けて言う…
「クリスよ…お前の功績は大きい…
セシル1人で竜一匹レベルの戦力だろう…
それを退けたのだからな。
これからお前をめぐる貴族間の争いもあるだろう。」
「その中でマリア殿下は、公的な立場からお前は私のものだと宣言すると先ほど誓ったのだ…
まあ色々苦労もあるだろうが覚悟しておけよ…」
へ?…
どう言うこと?
ただの訓練でしょう?
「陛下にお願いすると言う事はそう言う事だ…
お前を王家に取り込むよう働きかけるって事だよ…
その建前だよ…訓練は…」
「えええええええええ」
「当たり前だろう…
王家側に付く者だからこそ、訓練とはいえ永久に城に入れるのだ」
俺はふと前世で見たテレビ番組を思い出した。
その番組では、結婚した夫婦が付き合って長かったけど、
決まる時は勢いよく決めちゃったわね〜
と幸せそうに肩を寄り添い合っていた。
これから、どんどん話が進みそうな気がしてくる…
「いきなり過ぎて頭が…」
「貴族とはそういうものだ…
マリア殿下はお前を大切にしたいのだろう…
その気持ちを裏切るなよ…」
ゲイルはそう言い残し、去っていく。
「お兄様…今からアリスと逃避行されますか?」
「い、いや陛下の謁見は受けないとヤバいだろう…」
「ア、アリスのお兄様が……」
ひとまずこの後の謁見は覚悟して臨まなければならない…
この後、初めて会う陛下に予想を遥かに上回る提案をされるとは思わなかったのだった…
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