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第29話 家族

アリスの目の前に立ちはだかるセシル。

ベルはセシルに弾き飛ばされてしまった。



「死になさい…」



苦虫を噛み潰したような表情でセシルを睨む。

アリスはこの瞬間、死を覚悟する…



「お兄様……ごめんなさい…」





その瞬間、カートは目の前のアリスを助けることしか考えていなかった…

小さい頃から知る幼馴染の子供。

自分には子供はいないが、もはや知人を超えて家族とも呼べる関係だった…

その小さな家族が目の前で殺されそうになっている…

気づいたら防具を脱ぎ捨て、盾を捨てていた。


この距離で間に合わないと思っていたのは、身につけている重装備のせいだ。

カートは命をかけた捨て身の行動を思いつく。



こんな事しか思い浮かばないなんてな…

だが這いつくばって生きてきた俺らしい…

最後の最後まで諦めずに足掻け…

目の前の家族すら守れないなんて駄目だ…

絶対、絶対に守ってみせる…



ベルの目からもアリスが殺されそうになる瞬間が見える。

弾き飛ばされた痛みに耐えてすぐに行動に移る。

クリスから与えられた残りの魔力は少ない…

恐らく次の攻撃がこの姿でいられる最後の一撃だ…




アリスにセシルの高速剣が襲い掛かる…

アリスはもう駄目だと目を瞑ってしまう…



「まだ諦めるな…」



カートが突如、命をかけた捨て身の突進をセシルへと繰り出す。

セシルもまさか装備を全て捨てたカートが来るとは思っていなかった…

攻撃の瞬間が一瞬遅れる。

その隙にカートはアリスの前に身を出し、

次の攻撃を身体一つで受け止めることにした。



「カート…まさかそこまでするなんてね…

 敬意を表して貴方から殺してあげるわ…」



一撃必殺の刃がカートへ届く瞬間、ベルの剣がセシルへと届く…

その衝撃からセシルは弾き飛ばされ大きく距離が開く。



「っく…身体が戻ってしまう…」



ベルの時間切れになってしまった。

獣王剣の姿から元に戻ってしまう…



そしてタイムリミットは訪れる。

セシルの麻痺も解けたのだ…



「ふふふ……もう終わりね…

 残念だけど…麻痺が解けたわ…」



歪んだ笑みを浮かべるセシル…

全員が訪れたタイムリミットに唖然としている。

この状況で本来の速度で攻撃されたら瞬殺されてしまう。

全滅は確実である…



「まとめて殺してあげる…」



迫り来る殺意と恐怖…

押し寄せてくる死。





もうダメかと思った瞬間、

ようやくこの戦いの主役が現れる…



「そうはさせるかよ!」



改めて姿を変えたクリスが攻撃する。

麻痺が解けたセシルであっても避けることが出来ず攻撃を受け止める。

そしてクリスの追撃で弾き飛ばす…



「お、お兄様……」



「みんな…待たせて済まない…」



周りを見渡すと防具を捨ててまで守り切ったカート、

姿が戻ってしまったベル。

そして残りの魔力僅かなアリス…

皆、攻撃も受けてボロボロになっている。



「ありがとう…

 後は任せてくれ…」



「お、おい…

 いくら何でも1人では無理だ…」



「いや…今の俺なら大丈夫だ…

 後は俺が何とかする…」



クリスは自分の中に溢れてくる力を感じている…

その力を体感して確信する…



「今の俺ならセシルを倒せる」



「ふふふ…何かと思えば…

 私を倒せる?!」



セシルの周りに暗黒のオーラが纏わりつく。

そしてクリスに向けて一気に加速する。



「今すぐにその言葉を訂正させてあげる」



クリスの背後まで高速移動して剣撃を繰り出す。

だがクリスもそれに合わせて剣を当てていき、

逆にその力を利用してセシルに一撃を返していく。



「…なに!」



「何度でも、何度でも言ってやる!」



クリスの周りにも輝き溢れるオーラが発生する…

習得した覇王の力である。

獣王剣とは別で身体強化をする事ができる。

クリスの力は更に増していく。



「ここでお前を…剣聖セシルを倒す…」



クリスから溢れる輝く光に皆んなが驚く。

まるでこの光は…おとぎ話として聞かされていた、

ルミナス初代国王の光と同じではないか…と。



「なんだ、その光は…」



そして、クリスから受けたダメージにより、

顔から血が出ていることに気づくセシル。



「わ、私に血を流させたの?」



信じられないことが今日は何度も起こる…

もう麻痺は解けている…

全力のはずなのに、なぜ自分が傷を負っているのか理解できない。



「ダークスフィア…」



セシルの周りに暗黒のオーラが集まる。

アリスにも使った暗黒魔法三連撃だ…




迫り来る魔法三連撃に対して何故だろう…

俺は全く恐怖を感じない…

持てる力を出すだけだ…



固有スキル…【覇王の一撃】



輝く光がクリスの右手に集まる…

覇王が未来を切り開くための渾身の一撃。

どんな困難であっても切り抜けてしまう。

初代国王の伝説の逸話だけの事かと思った、

その一撃を目の当たりにする。



「こ、これはまさか覇王の一撃だと…」



シャルロットは信じられない…

小さい頃に聞かされた初代国王のおとぎ話だ。

その一撃をまさに現実として目の前で見ている…



その一撃は強力な光の塊となり、

三発の暗黒魔法を全て退けセシルへと向かう。



「っく…」



何とかギリギリで避けることに成功したが、

衝突した方向を見て破壊力に唖然とする。



「ま、まさかこの私が恐怖しているだと…」



震える手を抑えながら、自分の感じたことのない死への恐怖に動揺する。

それと同時に自分をそこまで追い詰めたクリスへ新たな感情が芽生えていることに気づく…



「ふふふ…クリス……気に入ったわ…」



過去、誰もセシルの速度に追いつくことが出来なかった。

それは言わば誰もセシルを理解することは出来ないという事だ。

セシルは孤独だったのだ。

それが自分よりも強く死の恐怖すら与える者が目の前にいる。



「あぁ…クリス…もっと私に死を感じさせて…」



セシルは満面の笑みを浮かべつつ、クリスへ迫る。

先ほどよりも何かリミッターが外れたような印象を感じる。



「っく!」



決め手として覇王の一撃を打ちたいが、

こうも死ぬことを全く気にもせずに突進してくると力を溜められない…



先程の一撃で魔力消費量も大きいことが分かる…

次の一撃で出来れば仕留めたい。

クリスは迫るセシルの攻撃を弾き飛ばす…



よし…この距離なら力を溜められる…

この一撃で終わりにする…



再度クリスの手に光が溢れる。

距離30メートルほど。

お互い向かい合い、加速する。

最後の瞬間まで残り後わずか…



セシルは衝突のギリギリを狙い避けることを考えていた…

そして決着のその瞬間…



セシルの足元に現れる魔法陣…



「まさか…これはインフェルノ?」



セシルは一瞬だけインフェルノに気を取られる…

ふと周りを見渡すと、マリアに肩を抱えられながら歩くシャルロットが目に入る…

シャルロットは微笑む。



そして振り向いた先には、

覇王の一撃を完成させたクリスが迫る…



「これで終わりだ!」



クリスの覇王の一撃がまさに剣聖セシルへと入った瞬間だった…

壮絶な戦いの締めにふさわしい一撃が炸裂する。

そして覇王の光が会場に溢れていく…





◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





剣聖の倒れる姿が見える…

そう俺は、俺たちは勝ったのだ…

そして力を使い果たした俺は元の姿に戻っていく…



響き渡る歓声と共に皆んなが俺の所に集まってくる…

危機を脱した…

そう皆んなが、全員が思ったはずだった…



「う…」


セシルが目を覚ましたのだ…




「お、おい…あれでもまだ死んでないのかよ…」



カートが心底呆れたように呟く。

正直、俺も元の体に戻ってしまっているため、

今はかなり厳しい…



「あら…あなた本当は凄く可愛らしいのね…」



俺の本当の姿を見て言葉を発した。

まさかここまでとは…

どうする…



俺の必死に悩んでいる様が顔に出ていたのかもしれない。



「ふふふ…今日のところは見逃してあげる…

 貴方の強さに免じてね…」



「そしてクリス…貴方との戦い素敵だったわ…

 またお会いしましょう…」




すると剣聖セシルは今日一番の満面の笑みを俺に向ける…

そして空高く駆け上がり、

吹き抜けになっている訓練施設の壁や建物を足場に脱出していく…




「逃げていったのか…」


兵士の一人が呟く…



ルミナス最強との戦いはまさに死闘だった。

城の壊滅的なダメージを復旧するまで期間はかかる。

これから先のことを考えると大変なことは間違いない。

それでも、今はここにいる皆で勝利を祝いたい。

奇跡の連続により、死闘を制したのだ…

この場にいる者でお互いを讃え合う…







そして、俺は必ず帰ってくると約束したマリアの元へ向かう。

マリアは俺を見つけると…

目を潤ませながら抱きついてきた…

生きて帰ってきてまた会うことが出来て…

それが嬉しくて俺もマリアを抱きしめる。




「クリス…おかえりなさい」



「マリア……ただいま…」





そして、俺は愛する者の元へ帰ることが出来る。

この輝かしい笑顔を見ると俺は例えどんな困難でも乗り越えられる…

きっと…その先は楽しい未来が待っているに違いない…

いつも応援してくださり本当にありがとうございますm(_ _)m

作品を書くことの難しさを痛感すると共に、

皆様に支えられている喜びを感じております…


明日も頑張って10時更新を目指します。

もし宜しければブックマークの登録といいねをしてくださると励みになります。

今後とも宜しくお願い致しますm(__)m

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