第26話 死闘
突然の来訪者に施設にいる全ての者が振り返る。
火魔法の中でもレベル4インフェルノを使える者は過去に1人だけいたが既にこの世にはいない…
そして最近で使えるようになったのは、ただ一人なのだ…
「シャルロット様!」
皆んながシャルロットに注目している中、一人だけ動き出す機会を狙っていた者がいる。
カートである。
カートは緊迫した状況の中でもキャロルを助ける機会を狙っていたのだ。
シャルロットに注目が集まる中、倒れているキャロルを連れてマリアの元に即座に移動する…
「マリア様、キャロルの回復を…」
マリアは頷き、すぐに治療を開始していく…
小さい頃からいつも護衛として傍に居てくれたキャロルを死なせるわけにはいかない…
マリアは走馬灯のようにキャロルとの日々を思い出していく…
初めて出会った時。
回復魔法を使えるようになって喜び合った瞬間。
そして聖女として就任した時も泣いて喜んでくれた…
「キャロル……絶対に
絶対に死なせない…」
そしてキャロルを救出された事にセシルは嫌悪感をあらわにする。
「良くやったわ…カート…」
「いえ…シャルロット様…
お気をつけ下さい…
セシルは…いつものセシルではありません…」
「まあ…そんな事だろうと思ったわ」
シャルロットは独自に調査を開始し、
セシルが今回の事件に関与しているのではないかと踏んでいた。
「ふふふ…私が裏切っていたなんて良く分かったわね…」
「最近の誘拐事件、痕跡すら残さずに消えていた…
それが出来る人物を考えて固有魔法を使える者に探らせていたのよ…」
シャルロットの部下に探索に優れた固有魔法使いがいる…
その者のスキルを利用して調査をしていた。
「迂闊だったわ…まずはその者を先に始末するべきだったわね…」
「でも遅いわ…セシル…
あんたはここで倒す…」
「シャルロット殿下…残念ながら貴方では私には届かないわ…
貴方ほどの才能なら後5年有れば、良い線いってたかもね…」
不敵な笑みを浮かべながらそのように言い放つセシル…
剣術レベル7、高速剣を所持するセシルに対して、
シャルロットの持つスキルは剣術レベル3、火魔法レベル4である。
更に5年分の年齢差があるセシルに対して身体、戦闘経験の両面で劣る…
「まあ…普通に考えたら実力差は歴然よね…
でも、何故私がこの年齢でここまで火魔法を急成長出来ると思う?」
一般的にスキルのレベルを上げるために数年はかかる…
それを13歳にして火魔法レベル4は異常な到達点だ。
「これは火の精霊王イフリートとの契約の腕輪…
これを見てどういうことか、
あんたなら分かるでしょ?…」
「イフリートと……
ふふふ、それなら少しは楽しませてくれそうね…」
火の精霊王イフリートの契約の腕輪は、
発動直後、契約者のスキルレベルを大幅に上昇できる。
まさに国宝レベルの腕輪だが誰しもが使えるわけではない…
イフリートとの死闘を制して契約を勝ち取った者だけが許されるのだ。
しかし使用後は数日間激痛に苛まれる…
「炎の精霊王イフリート!
私に…シャルロット・ルミナスに力を貸しなさい…」
そのように唱えると腕輪から赤く色濃いオーラが溢れ出し、シャルロットを包み込んでいく。
まるでシャルロットを喰らい尽くすような勢いだ。
「す、素晴らしい…
素晴らしいわ…シャルロット様…
こんなにも…こんなにも私が高揚するなんて…」
「うっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
突然の苦しみに耐えるシャルロット。
場内に響き渡る悲鳴に比例するように、
シャルロットの炎の出力が上がっていく。
そして…炎が蛇のようにシャルロットの周りを螺旋状に回転していく。
シャルロットのスキルレベルが向上する。
剣術レベル6、火魔法レベル8。
ルミナス最強格の戦士へと昇華した瞬間だった…
「す、凄い…
これがシャルロット殿下の真の実力なのか…」
カートはシャルロットの真の実力に驚愕し身震いする。
自分とは別次元の領域に達しているシャルロットに恐怖すら感じる…
「お姉様…」
そしてマリアはひたすらに苦しむシャルロットに胸を痛めている。
更にこれから死闘を繰り広げる姉が心配で堪らない…
「いくわよ……セシル…」
苦痛に顔を歪めながらもイフリートの力を制御する。
今までのシャルロットとは全く違う強者の風格を漂わせる。
「さぁ…私を悦ばせて…」
咄嗟に高速剣を繰り出すセシル。
しかしその攻撃に対して、シャルロットの周りを回転する炎で防いでいく。
「これは厄介ね…」
この炎がある限りセシルの先手を凌げる。
セシルの高速剣を凌ぐ手段は無いと思われたが、
まさかそれをシャルロットがやってのけるとは…
会場の誰しもが信じられないと目を開く。
「こちらからもいくわよ…」
高速で魔術を連続発動する。
セシルの足元、正面、背後、左右の五方向に魔法陣が生まれる…
そしてインフェルノを5連続で繰り出す。
「インフェルノ・プリズン」
まさにインフェルノの牢獄…
逃げることも防ぐことも許されない一撃がセシルを襲う。
「や、やったか?」
カートが思わず呟く。
しかし暗黒のオーラを身に纏うセシルが上空を飛び上がり、インフェルノの牢獄の隙間から逃げ出す。
飛翔系のスキルなど持ち合わせていない、
ただ単に脚力のみで上空に駆け上がっている。
「残念ね…
牢獄の上部に隙間があったわ…」
上空に飛び上がっているセシルは言い放つ。
しかし、それを予期していたシャルロットが目前に迫る…
「そこに誘導したのよ…
ここなら必ず外さない…
【地獄の業火】」
回転する炎を直接セシルに浴びせる…
イフリートの固有スキル、地獄の業火。
この大技はシャルロットの持ち合わせる技の中でも最大火力の技だ。
しかし、特に当てるのが難しい。
連続技からのコンボで完璧に当てて見せたのだ。
シャルロット自身が苦しんできた以上の熱をセシルに与える…
「ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
セシルの悲鳴が鳴り止まない…
誰しもが仕留めたと確信する。
その瞬間…
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあアハ、アハハハハハ」
悲鳴の途中から少しずつ笑い声に変わっていく。
その笑い声から余裕を感じる…
「っく……」
まさかこれでも仕留められなかったのかと、
シャルロットは唇を噛み締める…
炎の中から黒いオーラが透けて見える。
「アハハハ…危なかったわ…
これがなかったら…私は死んでいたわ…」
そしてセシルは手から宝剣を見せる。
見せると同時に宝剣は崩れ去る…
「ま、まさかルミナスの宝物庫から盗まれた奇跡の宝剣……
あんたが宝物庫から盗んだ犯人なの?」
ルミナスの秘宝の中でも最上位の宝剣。
一度だけ死に至る傷を負っても宝剣が身代わりになることが出来る。
宝物庫から盗まれた宝剣は目の前で崩れ去った。
「惜しかったわね…この宝剣を持っていなければ私は死んでいたわ…」
今までよりも歪んだ笑みを浮かべつつ、
シャルロットを見つめる…
シャルロットは連続魔法、イフリートの固有スキルを使用して大量の魔力を消費している。
明らかに疲れを見せており、
シャルロットの周りを舞う炎も消えてしまう…
「今のは、とっておきだったんだけどな…」
「シャルロット殿下… 素晴らしい才能だわ…
でも、もう終わりね…」
シャルロットの方へと急接近するセシル。
そして高速剣が繰り出される…
剣聖に対して、剣のみで戦うのは分が悪い。
胸を突き刺され更に蹴り飛ばされてしまう。
「お、お姉様っ!」
「マリア……に、逃げて…」
「いや…いやだよ…
……おねえちゃん……」
ルミナス最強の剣聖セシル…
シャルロットへの最後の攻撃を繰り出す。
そしてその一撃を、同じ剣撃で弾き返す者が現れる…
「何者だ……貴様…」
「クリス・レガード…
今日ここで剣聖を倒す者だ…」
突如として剣聖の前に現れたクリス…
大切な人を必ず守ってみせると心に誓う。
そして、これから死闘を迎えていく…




