第25話 襲撃
私は…今起きている事が夢であればと思ってしまう…
大切な家族が傷つき苦しんでいるから……
そんな中、護衛のキャロルと共に避難している。
敵の目的は聖女である私を誘拐する事らしい…
私には…戦う力がない…
それが何よりも悔しくて堪らない…
出来事はいきなりのことだった…
それは丁度15分くらい前のことだ。
城門に爆薬が投げ込まれ破壊されてしまった。
なだれ込む敵兵たち。
その中には魔物であるモンスターも紛れている。
ルミナスにはあまり見かけないモンスターだが、
普段は王国騎士団がしっかりと駆除している。
そのモンスターを従えて敵兵が侵入してきた。
近日の工作活動により騎士団の戦力が低下している所に、敵は最大戦力を割いてきた。
王国騎士団の兵士の数人が呟く…
「な、なぜ魔物が…」
「ここはルミナスのはずだろう…」
敵兵たちは王国騎士団とは違う装備をしている。
その装いからしても敵国の鎧、剣だと推測する。
「くっ…この忙しい時に襲撃かよ…」
城門に現れるゴーレム。
ロックゴーレムは魔法でしか対処できない。
魔法学園に戦力を分散させたのは、
このゴーレムを城に投下する戦略も隠されていたのかもしれない。
「俺たちでは…倒せない…」
「し、死んでもこの先に通すなよ…
城には陛下や王女様たちがいる…」
決死の覚悟で戦う兵士たち…
しかし残酷にも相性の悪い敵たちに手も足も出ず敗れてしまう…
「ふははは!
これが名高いルミナスの兵士か…
ゴーレム如きにこの有様…」
「ゼル様、もうすぐ城内に侵入できます…
間者の情報だと聖女は私室にいます」
敵の指揮官であるゼル・グレイに敵兵が伝える。
ルミナスに潜む間者の情報からマリアの居場所は筒抜けのようだ。
「ふふふ…
これでようやく我らの悲願である聖女が手に入るわけだ…」
ゼルは嫌らしい笑みを浮かべる。
ここまでは計算通りに城門を突破する。
「待っていろ… マリア・ルミナス…
お前を手に入れて、我らの王を蘇らせる…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
キャロルがマリアを庇いながら敵の攻撃を凌ぐ。
城内でも間者からの直接の攻撃を受けている…
「くっ…まさか…メイドになりすまして侵入していたなんて…」
「キャロル…怪我が…」
敵からの魔法を受けて傷つきながらも倒していく。
回復魔法をかけながら…
ここから城外に逃げこむには訓練施設を通過しなくてはならない。
訓練施設は吹き抜けになっており見渡しが良い。
敵からも認識されやすく出来れば通りたくない…
しかしここを通らずして外にマリアを逃すことが出来ない…
ここからが勝負だぞ…
マリア様を何としても外に逃さなくては…
キャロルも訓練施設通過が正念場と認識していた…
そして敵兵たちも間者の情報から城内の経路を熟知している。
そう先回りされていたのだ…
「っくそ…反対側から回り込まれていたか…」
目の前にはウェアウルフ二体、兵士五人が現れる。
その中にいる指揮官ゼルが笑いだす。
「あははは、全く読み通りに聖女が来てくれたわけだ…笑いが止まらないぜ…」
「マリア様…元来た場所へ…」
「無駄だぜ…もうすぐに城門から侵入してくる俺たちの兵士と共に挟み撃ちだ…」
城門からも戦力を回し正面と裏手の二方向から攻めてきている。
7対1そしてさらに増援未知数。
まさに絶体絶命である。
「そうとは限らないぜ…」
そこに現れたのは王国騎士団の精鋭5人である。
そうクリスとも親しくしてきた男、
更にゲイルの幼馴染のカートである。
「カート!」
騎士団でもカートとキャロルは一緒に組むことが多い。
攻めのキャロル、守りのカートのコンビネーションで行動してきた。
カートは大楯使いだ。
「マリア様…俺たちが来たからには安心してくれ…」
「ふははは!馬鹿かおまえ。
戦力差を見て何を言う…」
相手のモンスター2体は俊敏に動けるウェアウルフである。
ゴーレムを引き連れて先回りすることはできないため、ゴーレムは城門突破用として残してきた。
「行くぞ!キャロル!
お前たちはマリア様を守れ!」
指示された騎士4人は陣形を組み、
マリアを囲むように守る。
後方からはまだ敵は来ないようだ…
そしてカート・キャロルで敵に攻撃を仕掛ける。
息の合った連携技を炸裂させ、
あっという間にウェアウルフ2体を退治する。
足の速い狼を撃退することで、今後はキャロルのスピードで有利に立てる。
即座に計算して行動したのだ。
キャロルは騎士団の中でも素早い剣に定評がある。
「よし、厄介なモンスターは倒せた…
後は兵士と指揮官だけだ」
「く、くそが…
俺の可愛いウルフを………」
「悪いな…だがお前もすぐに会わせてやるよ」
カートは相手を挑発するが意味もなく挑発しているわけではない。
盾使いに相手の攻撃を向けさせることも大切なのだ。
言わば人間相手の時はヘイト管理を会話の中でも行う。
「ち、調子にのるなよ!!」
苛立った指揮官のゼルと兵士三人が一気に畳み掛けてくる…
「シールドバッシュ!」
「はぁーーー!!!」
カートとキャロルの連携技で兵士二人を倒し、ゼルにも致命傷を与える。
ゼルの腹に剣が突き刺さっているため、
もうまともに戦えないだろう…
「くくく…まさかこんな雑魚どもに…
手こずるとはな…」
残りの兵士二人も戦意を喪失してきた様子だ…
しかし、ゼルの後方から何者かが歩いてくる足音がする…
「剣聖セシル…」
ルミナスの最高戦力である剣聖セシル・フレイヤが現れたのだ…
セシルは黒髪を長くした18歳の女性だ。
剣技はレベル7まで上がり、固有スキルである高速剣も所持している。
幼い頃から規格外の才能を発揮しており、
去年剣聖の儀を経てルミナスの最高戦力へと至った。
「セ、セシル……お前なんでここにいるんだ?」
カートが尋ねる。
当然も当然、今は魔法学園に向かっているはずである。
今頃は魔法学園でゲイルと共にいるはずのセシルがなぜ…
「馬鹿だなお前…
こいつはな……
俺たち側の人間なんだよ!」
そのように高笑いしながら言い放つゼル…
「う、嘘だろ… セシル…」
「セシル…貴方…」
カートもキャロルも事実を受け止められないでいる。
セシルとは一緒に行動を共にすることもあった。
それだけに裏切り者という事実を認めたくない…
「剣聖セシル…早く奴らを殺せ!」
ゼルが命令するとセシルは不敵な笑みを浮かべる。
長身の美女であり、漆黒の鎧を身に纏っている…
セシルは一言も発さずに剣を振り払う。
すると前方にいた敵兵二名が切り刻まれる。
息もできぬまま即死してしまう。
「お、お前…何をする…」
「ふふふ…汚らわしい声を聞かせないでくれる?」
高速剣がゼルを襲いゼルの胴体を真っ二つにする…
まさか攻撃されるとは思っていないゼルは驚愕の表情を浮かべたまま息絶える。
「な、なぜ…」
今、目の前で起こっていることは現実なのだろうか…
マリアは恐怖で足がすくんでいる。
現れたのは顔見知りのセシル。
あんなに優しかった剣聖が今は敵として立ちはだかる。
そして仲間を平気で切り刻んでいる…
そんな残酷な人ではなかったはずだ…
「おい!セシル…
嘘だと言ってくれ…
本当は敵に潜入していたんだろう?」
「カート!何を言っても奴には無駄だ!
奴は…私たちの知っているセシルではない…」
カートの発言をキャロルが必死に打ち消そうとする。
キャロル自身、セシルの残虐さを見て目が覚めたのだ…
「私が攻撃する…カート…
高速剣を何とかしてくれ…」
「ば、馬鹿いうな…
奴の動きを止められる奴なんて、
このルミナスにいるのかよ…」
「行くぞ…」
「あ〜〜くそ!」
カートとキャロルの鍛え抜かれた連携技でセシルに向かっていく。
しかしセシルは直前で魔法を唱える。
「ダークスフィア!」
暗黒魔法レベル2である。
ルミナスでは暗黒魔法を使える者は1人もいない。
その暗黒属性の矢がカートを襲う。
持っている大楯で防ぐが魔法を防いだことで足を止められてしまう。
そのタイミングでキャロルがガラ空きになってしまう…
「キャロル!!」
マリアが叫ぶ…
しかしその時点で遅い…
カートとキャロルの間には距離が開いてしまっている…
そして…セシルの高速剣がキャロルを襲う…
悲鳴と共にキャロルは崩れ落ちる…
「お、おい!キャロル!」
カートは、今すぐにでもキャロルの元に駆け寄りたい…
しかし近寄った途端にセシルは狙ってくる…
隙のないセシルに対して迂闊に動けないでいる。
胴体こそ真っ二つにされていないが、
急所を刺されたキャロルは致命傷だ。
次でとどめを刺されてしまう…
セシルがとどめのの一撃を繰り出す刹那……
「インフェルノ…」
セシルの足元に大きな魔法陣が生まれ、
強烈な火柱がセシルを包み込む。
間違いなくルミナスの中では最強格の火魔法、
レベル4インフェルノ。
最近、腕を上げてようやく使えるようになった者が1人だけいる…
「やっぱりあんただったのね…セシル…」
インフェルノの炎が消えていく中、
暗黒のオーラを身に纏うセシルが呟く。
「あなたは……シャルロット殿下」
マリアの姉であるシャルロット・ルミナス…
ここからシャルロット対剣聖セシルの戦いが始まる…




