第24話 大切な人
マリア様と訓練から数日経っている。
結局だがあの日の鑑定でスキルレベルは上がらなかった…
やはり何かレベル上昇に必要な条件があるのだ…
そのためマリアとは定期的に訓練で魔力を流し経過を観察していくことになったのだ。
こんなに良くしてもらい感謝しかない…
マリア様から何度も諦めずに訓練をしようと提案された。
本当にお優しい方だ…
こんなにされたら勘違いしてしまう…
そうマリアは第二王女なのだ。
俺では手の届かない高嶺の花だ。
正直に言うとあんなに可愛い女性とずっと手を繋いでいれば好きになってしまう…
でも、俺は必死にその気持ちを押し込めなければならない…
俺は男爵家の息子なのだ。
「はぁ…」
ため息を吐きつつも、父の私室前に到着してノックする。
「はいれ…」
父の声を聞きドアを開けると既にアリス、リーナ、ベルが部屋にいた。
「よし、クリスもきたな」
「父上…話とは？」
父から急に呼び出され今私室に来ている。
どうやらその険しい表情からしても、かなりの重要事項のようだ…
「マリア様誘拐、白狼族に関して共通事項があり、その手がかりを探っていった…
するとある人物にたどり着いた…」
「事件は関連していたのですか…」
俺は全くの別物と思っていた…
国の宝である聖女と白狼族が結びつくなんて…
「白狼族の一件は陽動作戦の可能性が高い…
そしてこれに……リーベルト伯爵が関わっていると騎士団は見ている」
「リーベルト伯爵…」
大物の名前が出たことに驚きを隠せないでいる…
リーベルト伯爵は魔法学園の運営に携わっている人物だ…
その人物が何故マリア様の誘拐に関わっているのか…
「白狼族の被害で騎士団を誘い出し疲弊させることが目的と推測する。
しかしそれはクリスのお陰で最小限に食い止められた。
だが、最近の貴族誘拐事件で騎士団も日々疲弊している…」
「そんな…」
「そして今回、更に大掛かりな告知文が来た…
魔法学園の生徒誘拐だ」
「なっ！」
誘拐告知文を送ってきたのか…
この事件はかなり用意周到に準備している気がする…
「戦力、作戦からしても大きな人物が関与している。
そのため手がかりから絞り出していった時にリーベルト伯爵へとたどり着いた」
リーベルト伯爵を参考人として招致するために、屋敷にも騎士団を派遣していると言う。
しかし自分の運営する学園の生徒をなぜ…
「そのため今日からしばらくの間、私も屋敷には帰れなくなる…
お前たちもくれぐれも用心しろ…」
「父上……お気をつけて…」
そう言って父は駆けつけた騎士と共に部屋を出て行く。
かなり忙しい中でも俺たちに時間を作ってくれたようだ…
「クリス様……」
「しばらくは外出は控えないといけないな…」
訓練どころではなくなってしまった…
ルミナスに何が起きようとしているのか…
「リーベルト伯爵か…」
リーベルト伯爵は魔法学園、王立図書館の運営の他に他国との交易に携わる仕事も始めたと聞いている。
「他国も関わっている？」
「クリス様…どうされたのですか？」
「何かね…胸騒ぎがするんだよ…」
今までの流れだと敵はかなり用意周到だ。
それなのに今回は告知文で魔法学園へ誘導している…
そして父が魔法学園へ向かっている様子から、
騎士団の戦力を学園に割いていると予測する。
「敵の本当の目的が別にある？」
もしかすると魔法学園生徒誘拐も誘導だとすると、
敵の狙いは別にある…
そもそも工作活動しているところからしても警備が強すぎて狙えない場所が敵の目的地になる。
そして国の中で一番警備を強くしているのは間違いなく王城だ。
俺は一つの結論を導き出す…
「クリス様？」
リーナはクリスの表情に敏感である。
クリスが何かを思いついたと感じ取る。
「マリア様が危ない……」
もし学園生徒誘拐が誘導なら間違いなく敵の狙いはマリアだ。
ゲイルの指示からしても恐らく王城の警備を緩くはしていないはずだ…
しかし今までの敵の工作により戦力を低下された今、作戦を決行しやすいタイミングであることは間違いない…
「クリス様、ま、まさか…」
「あぁ…俺はマリア様の元へ行く…」
「き、危険です…」
当然のようにリーナは反対する…
当たり前だ。
個人にどうにかなるレベルを超えているのだ。
これだけの騒動なのだ。
大切な主人を死地に向かわせることになる。
「大切な人なんだ…
絶対に失いたくない…」
「クリス様…」
ベルは複雑な表情でクリスを見つめる…
しかし、大切な人を守りたい…
その気持ちを痛いほどに知っている…
「クリス様……ベ、ベルは…必ずクリス様をお守りします…」
「ベ、ベル…お、お前まで…」
「お兄様……アリスも忘れては困りますよ？」
リーナはかなり動揺する…
このままではいけない…
しかし、こうなってしまったクリスを止められる力をリーナは持ち合わせていない。
「どうしても行かれると言うのなら、
レガード家の金庫からアイテムを持っていってください…」
リーナは金庫の守りもしている。
しかしそんなことをすればリーナはクビ、どころか処刑かもしれない…
「そ、そんなことしたらリーナが…」
「そう思うのであれば行かないでください…
でも、どうしても行くと言うのであれば…
必ず生きて帰ってほしいのです…」
リーナ…
思い返せば生まれて今に至るまで、
ずっとリーナと一緒だった…
母上が亡くなってからずっと傍にいてくれたのだ。
「必ず……生きて帰ってくる…」
そうリーナに告げると、
リーナは目を潤ませながら俺に伝える。
「クリス様…貴方を慕い
貴方の従者になることができ私は幸せでした…
でも…一生の別れだけはやめてください…
また貴方の元で働くことが許されるのであれば…
ずっと…」
俺は言葉を失う…
リーナに何を言えばいいのか…
「ベル…必ずクリス様をお守りしなさい…
教育係として…そしてレガード家の従者全員から…貴方に託します…」
リーナは泣きながらベルに命令する…
その思いを、重さをベルも噛み締める。
「必ず…クリス様をお守りします…
この命に代えても…」
そして俺とアリス、ベルは屋敷を後にする。
リーナから受け取ったレガードの財産である魔法のアイテムを受け取って…
