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第21話 差し伸べる手



リーナに用意してもらった紅茶を飲みながら本をめくる。

部屋の窓から入り込む風がカーテンを揺らす。

今日はとても気持ちの良い日だ…

私室でゆっくりしながらベルが起きるのを待つ…





「…ん…」







「…起きたか?」






「…はい」






「体調はどうだ?…」





「もう…大丈夫そうです…」





「そうか……」





 「あの…クリス様……本当に……

  本当にありがとうございました…

  あの…サーシャやみんなは?」




里の者のためにあれだけ死に物狂いで戦ったのだ。

捕らえられていた者たちがどうなったのか気になるだろう。




「牢に閉じ込められていた人は全員保護されたよ」




「そう…ですか…」





親友や仲間が無事だと知り安堵したのか、

力が抜けて自然と目を潤ませる。





「あれから王国騎士団も来たからね…」




「あの…クリス様……

 本当にありがとうございます…

 一生かけて恩返ししたいです…」





クリスに救われた命。

そしてクリスによって与えられた力。

それによって救えた親友や里の仲間。

クリスへの恩返しと尊敬の念は抑えきれないものへと変わっている…





「そんな気にしなくても…」





俺は当たり前のことをしたし、勝手に俺が介入したと思っている…

見捨てられないからな。





「だ、ダメです…

 私だけでなく里の皆んなを助けて下さったじゃないですか…

私だけがこんなに与えられてばかりではダメです…」





顔を赤くしながら俺に訴えかけてくる…

先程の涙で涙腺が緩んでいたのか、

俺への感謝の思いを口にしながら更に泣いている。

それだけ俺はベルにとって大きな事をしたということか…





「そしたら父に会いに行こう…

 ベルの今後で話したいこともあるようだしさ…」





そう言って俺はベルに向けて手を広げる。

立ち上がることは難しいと思うから手を貸そうと思ったのだ。

驚いたベルは違った意味で頬を染める…

まるで茹でダコのように赤くしながら俺の手を取る。

ベルを私室のベットから起き上がらせたところで、

手は自然と離れていく。





「ぁっ」





少し声が聞こえた気がした…





「ん?何?」




「な、な、な何でもないです…」




変なやつだなと思いながら俺は歩いていく。

俺はくすくすと笑いながらベルに一声かける。





「転ぶなよー」





あ〜…

言ってるそばから転んだ…

全く…目の離せないやつだな…

ほらっ!

手を貸してやる…




「おいおい…また顔が真っ赤だけど大丈夫か?」




熱でもあるのかと思い確認しようと

ベルの額に手を伸ばそうとする…




「あわわわ、だ、大丈夫です…」




なんか赤くなるベルを見ていると微笑ましくなる。

そして俺たちは父の私室へと向かっていった。






◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇







「キミが…白狼族のベルか…」



「はい…ベルと申します…」



「今回は騎士団の取り締まりが甘く、

 迷惑をかけたな…

 本当にすまなかった…」



「いえ…男爵様が悪いわけでは…」



「まあ…これでも王国騎士団の中枢を担う役職にあるからな…」



ゲイルの立場からすると王国騎士団の幹部である。

今回の白狼族の件はそれなりに責任があるのだ。

王国騎士団が後手に回ってしまったのには別の理由があるのだが。




「ところでベルよ…」



「はい…」



「お前の剣、獣王剣だが魔力を消費し続ける剣と聞いた…

現状は魔力を持たない其方には扱えないスキルだ……違うか?」




先日の圧倒的な力はクリスの魔力を与えられてこその力だった。

つまり言い換えればベル一人では使えないスキルなのだ。




「……その通りでございます…」




「それならば我が家の使用人に空きがある…

働きながらではあるが魔法学園を目指すか?

当然だが給金から学費は差し引いていく…」




「へ?」



あまりに急な申し出に頭が空っぽになってしまい、全く理解が出来ないでいる…




「あはは…ベル…

レガードの使用人になるかって事だよ」




「良いのですか?私は身寄りのない…しかも獣人ですよ…皆様にご迷惑なのでは…」




「ふむ…確かにな…普通の貴族ならばだな…

我々は剣に生きるレガード家だ…

王と名前の付くスキル保有者を邪険には出来ないのだよ…」




獣王剣の秘密を解明することはレガード家にとっても利益になる。

当主として同情だけで行動しているわけではない。

ゲイルも貴族である。

実力のある者を引き込むのも派閥争いとしては大切なことだ。

行動の裏にはしっかりとした打算があるのだ。




「…よろしければ是非…一生をかけて皆様に、そしてクリス様に恩返しをさせてください…」




深々とおじきをするベル…

白狼族は忠誠心の強い種族だ。

レガードのために、クリスのために命をかけると誓う。

今日、正式にレガード家に一人の使用人が誕生したのだった…





「教育係はリーナとする…

これからはリーナに色々と聞きなさい…」

 




そう言い残しゲイルは去っていく…

ベルもリーナに引き連れられて今後の身支度を始めていく…

ベルはベルで忙しくなりそうだ…





そして父の私室から庭に移動する。

日課である自主練を終えて1日1回限りの休憩スキルを使ってみることにする。

恐らく例のスキルを獲得しているはずだ…





名前:クリス・レガード Lv.12

MP:300

取得スキル:

休憩 Lv.1

獣王剣Lv.5 ←new


取得魔法:火魔法Lv.2

    回復魔法Lv.2



獣王剣…やはり獲得していたか…

獲得自体は予測していたがまさかレベル5とは…

獣王剣…今使ったら俺の身体はどのように変化するのだろうか…

ベルと同じように成人の身体になるのだろうか?

今にでも使ってみたいが人間の俺が使うと反動があるかもしれない。

出来れば休憩スキルを使える状態で使いたい…

そして明日マリア様にも相談してみよう。

ちょうど明日がマリア様との訓練の日だ…



早く明日が待ち遠しい…

日は経っていないのだが思いを馳せてしまう…

明日は素晴らしい一日になる。

そんな気がしているのだ…

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