第17話 王立図書館
マリア様との訓練で俺は火魔法、回復魔法を取得した。
それも儀式を介さない手法で手に入れてしまっている。
当然だがゲイル、アリスにその事実を伝えた。
父もアリスも大変驚いていたが喜んでくれた…
しかしあまりに休憩は規格外なスキルではある。
特に魔力消費したスキルを取得できる事は、
信用できる者以外には秘密にするように言われている。
今日も王都に来ているが目的はマリアとの訓練ではない。
マリアは学園に通いながら治療の仕事もしており更に公務も行う。
要するに超絶に多忙なのだ。
その中で訓練をお願いしている…
流石に毎日教えてもらうわけにはいかず、大体週3回ほどとなったのだ…
それでもマリアからすると無理して時間を割いている。
今日はリーナと共に王立図書館に向かう途中だ…
魔法学園の試験に向けて魔法の情報を仕入れておきたい…
「ここが王立図書館か…かなりデカイな.」
「そうですね…
まるで王宮かと思うくらいの外観ですよね…
初代国王が転生者だった賢者への褒美として設立したそうですよ…」
転生者の賢者…
かなり気になる…
どんな功績を残したのか、スキルは何を持っていたのか…
賢者と呼ばれるくらいだから魔法関係だよな…
「ここにはかなりの貴重な書庫もあります…
それこそお屋敷が買えてしまうくらいのですが…」
「凄いな…ちなみに俺たちは入れるよな?」
「もちろんです…
男爵家は一般区画まで入れます。
特別区画は王家と一部研究者のみです」
「今回は魔法、魔法学園に関する書物について調べたいな…
後、時間があればさっき言ってた賢者についても」
「かしこまりました!
そしたらあちらに見えるロビーに行って受付を済ませましょう」
リーナに引き連れられて図書館のロビーに向かう。
すると何やら罵声が聞こえてくる…
受付でトラブルが起きているようだ…
「なんで歴史ある王立図書館に獣人奴隷がいるのだ!
即刻つまみ出せ!」
恰幅の良い若者が受付の女性に文句を言っている…
年齢は同じくらいか…
その態度や身なりからしても恐らく貴族なのだろう。
罵倒されている獣人の頭からは犬耳が見える。
白狼族の獣人のようだ…
「恐らくだけどあの娘、奴隷ではないよな?」
「そうですね…奴隷の証である奴隷紋のチョーカーを付けていないです。」
ルミナス王国にも奴隷は存在している…
犯罪奴隷を中心として国が法律で定めている。
昔からの根強い獣人差別はあるが獣人が必ずしも奴隷であるわけではない。
犯罪を犯すことがあれば人族も奴隷となる可能性がある。
奴隷の証としては奴隷紋の入ったチョーカーを首に巻いている。
「王立図書館が汚れる…
即刻つまみ出さなければ、お前を左遷するようにリーベルト伯爵に言い付けるぞ」
リーベルト伯爵とは王都でも権力のある伯爵だ。
魔法学園、王立図書館の管理運営を任されていると聞く。
そこまで強い権力者の名前を出すという事はリーベルト派閥の者か…
「か、勘弁してください…
リーベルト伯爵様に言われるのは……」
受付の女性、泣きそうである…
他に居合わせている者達は我関せずと離れている。
「仕方ない…リーナ、ちょっと待っていてくれ…」
「クリスさま…ト、トラブルにはあまり関わらない方が…」
「いや、大丈夫だよ!
うまくやり込めば良いんだろう?」
前世の仕事でもクレーム対応はしてきた。
これでもプロジェクトのマネージャーだ。
クライアントが怒っていた時の対処はいつも俺だったのだ。
今回俺は全く関係ないが、見て見ぬ振りするわけにはいかない…
というよりも気になって仕方ないんだよ…
「あの、リーベルト伯爵様のお知り合いの貴族様とお聞きしました…
はじめまして。
私はレガード家のクリスと申します。」
「あん?レガード?
剣士一族が何かの用か?
ここは歴史ある王立図書館だぞ」
「はい…実は学問に疎い私ですが、
少しでも教養を深めようとここに参りました…
それにしても素晴らしい施設ですね…」
「それはそうだろう!
ここの施設を修繕しているのはパパ…
あわわわ私の父バルガス男爵だからな。」
「おお!何と名工と名高いバルガス男爵の御子息だったとは…
今後、私の学業の中でも今日の出会いは特別なものとなると予感します…」
「お前!嬉しいことを言ってくれるではないか!
もう一度名を聞こう!」
「クリス・レガードと申します…
ところでこちらの獣人の者ですが、どうやら施設に迷い込んだ者のようなので私が外に案内しておきますね!」
「おーーなんと…其方は気に入った!
わわ私はジョニー・バルガス
また会ったら、
おおおお茶でもしないか?」
「え?別にお茶くらい・・・」
「ぜぜぜ是非ではまたな」
最後は頬を赤く染めて満面の笑顔を向けていた。
そして嵐のように去っていった。
「ん?最後のは何だったんだ?」
「クリス様…お見事です…
私は今日こそ従者として誇らしい事はございません…」
リーナが誉めてくれる…
ベタ褒めである。
「うおーーーお前!凄いな!」
「あの嫌な奴をうまくやり込みやがった!」
突然野次馬が騒ぎ出した…
ジョニーが居なくなってから軽い祭りである。
「うわーーん、ありがとうございました…
せっかく必死に就職したのにクビになるかと…」
受付の女性は号泣である。
よほど怖かったのだろう…
そして危機を回避した白狼族の獣人が声をかけてくる…
「あの……」
「大丈夫だった?怖かっただろう?」
「はい…
あの…助けて頂きありがとうございました…」
「ひとまずここは目立つ、外の喫茶店で食事にでもしよう…
借りたい本は一般区画のものなら俺が借りてあげるよ」
「あ、ありがとうございます!
こんなにまで良くしてくださるなんて…
そして本当にごめんなさい…
私のせいでご迷惑を…」
「いやいや大したことしてないよ…
それに迷惑だなんて…」
「え?でも、あの貴族様が相当お熱を入れてきそうなので、これからご迷惑をおかけするかと」
「は?お熱を?」
「はい、クリス様、ジョニーとかいう貴族ですがクリス様に一目惚れしましたね…
なのでお茶を誘ってました…」
白狼族の娘の後にクリスも重ねて言ってきた。
「は〜〜?
いやいやいや、ないない!
俺は男だぞ?」
「えええ!貴方様は女性ではないのですか?」
「いや、女神様に誓って男だよ?」
「そそ、そうなのですね…」
驚き動揺する白狼族の娘。
驚くのも無理はない。
貴族内や騎士学園であればクリスを知っている者もいるが、
初対面では女と間違える者も多い。
女性よりも美しい男、それがクリスである。
「あはは…まあ何とかなるでしょ…
まあそれよりあんまり目立たない方が良いから外に出よう!」
そして俺たちは行きつけの喫茶店に向かっていく…
この少女との出会いが俺の運命を大きく変えることになるなんて思いもしなかったのだった…




