第16話 スキル習得
ここは王宮の訓練施設内。
今、俺は聖女と呼ばれる王女の手を握っている…
何故こうなってしまったのだろう…
距離も近くお互いに寄り添いあっている…
そしてその聖女は時折苦しそうに呟く…
「ク、クリス…もう少し…優しく…」
吐息と共にマリアは苦しそうな声を発する…
表情も熱を帯びているように赤い…
「はぁ、はぁ…」
「マ、マ、マリア様、もうやめましょう…
……なんか物凄く罪の意識が…」
「そうだ！今すぐにやめろ…
というか貴様は今すぐに死ね！」
護衛は鬼の形相で俺を睨む。
「キャロル…
良いのです…私から言い出したこと…
責任を持ってクリスの力になりたいのです…」
「マリア様…」
キャロルと呼ばれた護衛は女性騎士だ…
それだけにこのようなマリアの醜態は我慢ならない…
「でも、なぜマリア様がこんな破廉恥なことを…」
俺もなぜこうなってしまったのだろうと思い返す…
時は１日前に遡る…
◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇ ◆◇
休憩スキルにより俺は火魔法を得た。
これで俺は無能力者でなく明確にスキルを得たことになる…
それと同時に休憩スキルをくれた女神に感謝しつつもこのスキルの欠陥を見つけてしまった…
「マリア様…たしかに休憩スキルは規格外です…ですが火と水以外の魔法自体を使用できなければ意味がないのでは…」
そうである…
新たなスキル獲得のために魔力を消費したいが、その魔法自体使えないのでは意味がない…
「確かに今回は基本魔法はスキル無しでも使えたから火魔法の取得に至ったのですね…」
「そうなのです…
俺の魔力を消費して新たな魔法を使う手段があれば…」
「魔力を消費して新魔法を使う手段ですか…」
悩んでいるうち数分後、マリアが閃く…
マリアは幼少から王族としての英才教育により知識も豊富なのだ…
「成功するか分かりませんが私に魔力を送り、私の回復魔法を取得できるか試してみますか？」
「そ、そんなことが出来るのですか？？」
驚愕しながらも答える…
確かに俺自身が魔法を使わなくても、
休憩スキルには【魔力を消費すれば取得可能】と記載があった。
「確かに試してみる価値はありそうですね…」
キャロルと呼ばれた護衛も同じように可能性があるように思っているようだ…
「そしたらまた明日にこちらにいらしてください…
休憩スキルは1日1回ですし…
しっかり休養も忘れないでくださいね…」
そして今日は一旦帰宅し、翌日に訪れることになった…
休憩スキルの使用制限があるためだ…
翌日にならなければ使えない。
◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆
翌日になり、目の前には少し頬の赤いマリアがいる。
隣には機嫌の悪い護衛のキャロル…
「それではクリス…早速ですが手を繋ぎましょう…」
「は？」
どう言うことだろう？
なぜ手を？
と放心していると…
「私も聞いていなかったのだ…
魔力を送るのに手を握り合う必要があることをな…」
なん…だと…
俺はむしろ嬉しいくらいだが、王女にそんなことをさせたらヤバくないか…
「マリア様、考え直してください！
貴方は第二王女、しかも聖女様ですよ！」
「いえ、キャロル！決めた事です…
それに貴方も昨日は試してみても良いと言っていたではありませんか…」
「…んぐ…」
「クリス…私が良いと言っているので安心してください…」
「……はい……」
「それとも…クリス…
私と手を繋ぐのは嫌でしょうか…」
不安そうに涙目になりながら問いかけてくる…
そんな顔されたら断れるわけがないじゃないか…
「そんなこと絶対にありません…
マリア様が嫌でなければ是非お願いしたいです…」
「き、貴様！！！」
「キャロルは黙ってて…」
「…っく…」
マリアは意外と頑固だ…
普段はお淑やかで清楚な立ち居振る舞いをしているが、ここぞというときに決断した事は絶対に曲げない…
芯が強いのだ…
「で、では始めましょう…」
だが未だ父以外の男性の手も握ったことなどなかったため緊張して手が震えている…
「マ、マリア様…」
マリア様にここまでさせたんだ…
男の俺が誠意を持って応えなければ失礼だ…
「し、失礼します…」
痛くないように優しく握りしめた…
「っぁ…」
「い、痛かったですか？」
「だ、大丈夫です…き、気にしないでください…」
気持ち声が裏返っている…
全然大丈夫ではなさそうだ…
「おい！変なことしたら本当に殺すからな…」
「キャ、キャロル、へ、へ、へんなことって何ですか」
「マ、マリア様、それはですね…」
マリアが変なことについて質問し返す…
その答えは流石に言えないだろう…
訓練所は混乱を極める。
そんなこんなを小一時間繰り返し、ようやく訓練を再開する…
「いきますよ…マリア様…」
「ゆ、ゆっくりお願いします…」
マリアへと魔力を流す。
「温かい……クリスの魔力を感じます…」
繋いている手からマリアが魔力をコントロールしようとしているのが分かる。
俺が送っている魔力を集めて自分のエネルギーへと転換しているのか…
そしてマリアの中心に魔力が集まり回復魔法第1レベルであるヒールを発動させる…
「ヒール！」
ヒールは無事に成功した。
キャロルへと詠唱を行い腕のかすり傷が癒えているからだ…
しかし何故か腑に落ちない事がある…
「成功しましたね…
クリス、今の魔力消費はどれくらいですか？」
名前:クリス・レガード Lv.5
MP:50（60→50）
取得スキル:
休憩 Lv.1
スキル使用によりMP全回復。
使用回数 1日1回
※使用したスキルを休憩使用後に取得可能。
使用スキルの魔力消費が条件。
取得魔法:火魔法Lv.1
昨日自然回復で最大MPは10上がっている。
そのためMAX60→50に減っていることから、ヒールで使用したのはファイアボールと同じく10だ。
「マリア様、MP10消費して残り50あります…」
「分かりました…続きをやりましょう…」
「あ、あの…俺は魔法をイメージしなくて良いのでしょうか？」
そして先ほど感じた疑念を口にする…
確か魔法はイメージが大切…
火魔法を再現するのであれば、ヒールのイメージは必要かもしれない…
念のためやっておきたいのだ…
「そうですね…あくまでも使っているのは私ですが、念のためイメージを共有したほうが良いかもしれないですね…」
ヒールのイメージ共有して魔法を発動させる…
これで駄目ならこのやり方は諦めるしかない…
「クリス…私たちも心を一つにする必要がありますね…」
いきなりそんなことを言われ、
マリア様の笑顔に心を奪われてしまう…
「心を一つにですね…」
「クリス、やってみましょう！」
2人で微笑み合いながらも残りのヒールを4発繰り返していく。
そしてMP10を残して俺は休憩スキルを発動…
全回復したところで鑑定の腕輪を使いスキルを確認した。
名前:クリス・レガード Lv.5
MP:80
取得スキル:
休憩 Lv.1
スキル使用によりMP全回復。
使用回数 1日1回
取得魔法:火魔法Lv.1
回復魔法Lv.1
マリアの献身的な協力のもと、
希少スキルの一つである回復魔法の取得に成功したのであった…
