第129話 進化
女神が放った光が俺に向かう。
しかし、目の前には氷の壁と回復魔法の防御壁が展開された。
二重に強化された壁は、まるで融合魔法でも使ったかのように強固な壁となり女神の裁きを物ともしない。
そして、振り返るとマリアとユーリが必死な形相で魔法を放っていた。
俺はそれを見て嬉しくて仕方がない。
「マリア、ユーリ…
俺に魔力を貸してくれ!」
そして俺は覇王を発動して聖剣を握りしめる。
二人の魔力が俺の右手に集まり、聖剣の力を増幅させる。
「ラグナ…
この一撃でお前を倒す!」
聖剣技を繰り出し、虹色の光の塊は女神とラグナに向かっていく。
女神は即座に光の一撃を放ってきた。
強力な圧力に押されそうになるが、
両隣にマリアとユーリが立っているのに気づく。
「え?」
まるで一緒に戦っていると言わんばかりに俺に魔力を届ける。
先程は俺が守っていたはずなのに、今では2人に背中を押されているようだ。
「な、何だと」
ラグナもまさか女神の力が押し返されるとは思いもしない。
そしてついに聖剣技は、完全に女神の攻撃を飲み込んでラグナへと向かう。
大爆発を起こして2人とも弾き飛ばされ、
その怪我で起き上がれない。
何とかラグナ達を撃破したと安堵していた瞬間、賢者の容態が気になってしまう。
すぐにマリアにお願いして治療を開始した。
「マリア、すまないね…」
マリアは首を横に振り必死に回復魔法をかける。
残されている魔力を振り絞った。
「賢者、治るまで俺たち全員が、
マリアに魔力を送るよ
だから、魔力切れになる事は、
絶対にないよ…」
俺がそう言うと全員が強く頷いた。
まだマリアの魔力は余裕があるにも関わらず、クレアが魔力を送り出した。
賢者を尊敬してやまないクレアは、
賢者のいない未来など考えられない。
そのために誰よりも早くに行動してきたのだ。
マリアの素晴らしい回復魔法、
クレアの献身的な介抱により、
賢者は無事に一命を取り留めた。
そして賢者の回復の瞬間を見ていて、
この場の全員は一瞬、油断していたことに気づいた。
「な、何だと!」
賢者が驚愕する声の先には、女神を掴む副官ゼノがいた。
更にその首についている隷属の首輪を外してしまう。
「女神が、解放されていく…」
隷属の首輪の束縛から解放された女神は天界へと帰ってしまう。
するとこの状況は、最悪な事態へ陥ったと全員が理解した。
目的を達成してゼノが高笑いをし始める。
「ふふふふ、ははははは
ようやく聖女をこの手に出来た」
「クリス、
全力でゼノに向けて聖剣技を放て!」
賢者が即座にクリスに指示を出したが、
既にゼノは次の一手を打っていた。
「シンよ、来い!」
突如として黒い渦のゲートが、ゼノの真後ろに現れる。
まさかこの瞬間にシンが現れるとは思いもしない。
そのゲートに入る間際に、ゼノは言葉を発していく。
「今日のところは、これで許してやろう…
だが、次に会う時は1人も生きて帰さない」
そう言い残してゲートの中に姿を消してしまった。
「し、しまった…」
ラグナとの戦いに全力を注いで一瞬の隙に魔族に聖女を奪われてしまった。
この状況では間違いなく心臓を喰われてしまう。
「サラが…」
サラは隷属の首輪で操られていた。
その悲惨な事実と結末に全員が心を痛めていた。
そしてラグナを拘束した後は、
当初の目的であった聖剣の儀式を行い聖剣の新たなスキルを獲得する。
ユーリを救い出したがサラを魔族に奪われてしまう最悪な結果に全員は、素直に喜び合う気分にはなれなかった。
一同は、拘束したラグナを連れて水の神殿を後にしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、魔界の魔王城では…
「どうですか?
気分は?」
シンがその男へと声をかける。
男は黒い髪に赤い目をしており、
その容姿は美しくも気高い。
「今は気分が良い、
久しぶりに成長を感じることができた」
更にシンがその男の名前を呼び、忠誠を誓う。
今日、この日魔王に目覚めたその男へと。
「人間を蟻のように踏み潰しましょう…
新たに魔族の王となられた…」
「魔王ゼノ様…
貴方のために…」
そう呼ばれたゼノは、魔王になった事で眷属を増やせるようになっていた。
その力で新たな眷属となった者へ声をかける。
「我が1人目の眷属、サラよ
お前こそ気分はどうだ?」
「ゼノ様、私は幸せでなりません…
操られていた私を解放し、
新たな命を与えてくださった…」
そして、サラは瞳を潤ませながら愛情にも近い忠誠を魔王へ誓う。
「私は、貴方様に全てを捧げます…
この身も、心でさえも」
エルフであり聖女であったサラは人間を恨んできた。
そしてその憎しみと魔法の力をかったゼノは、
簡単に殺さずに利用しようと決めた。
心臓の代わりに魔導具で一時的に命を繋ぎ止め、
魔王へ至った後で吸血鬼へ変化させた。
「ゼノ様、幸せでなりません…
これで憎きラグナも、聖女も何もかも…」
そして隷属の首輪が付いていないサラは、
その本性を露わにする。
「私の手で、人間を殺せるのですから…」
サラの心臓で魔王へと進化を遂げたゼノ。
そしてその配下となったサラは、
人間への憎しみで溢れていた。
クリス達は聖剣技を強化できたが、
それ以上に敵も強力な力を得てしまった。
その脅威は予想をはるかに超えるものになっていく…
いつもお世話になります!
最新話までお読み頂き感謝致します(T . T)
現在なろうの投稿の方は、一旦お休みさせて頂き、
カクヨムで別シナリオにて完結しました。
そして9/4からアルファポリスで連続投稿予定になります。
そちはもお読み頂けると幸いです。
宜しくお願い致しますm(_ _)m




