第126話 隷属
ラグナの陰謀により女神が操られてしまった。
その力は異常な強さを見せたが、クレアの懸命な立ち回りで負傷者を出すことなく守ることができた。
そして、ついに死の山からクリスが帰ってきた。
「クリス…」
死の山で訓練中、クリスに危機が迫る度に、
マリアは不安で胸が張り裂けそうだった。
転移後すぐに直行したため、ろくに話せていない。
しかし、クリスの腕に包まれているマリアは、
幸せを感じていた。
「お待たせ、賢者」
「全く、待ちくたびれたよ
罰として女神退治といこうじゃないか」
クリスが来たことで場の空気が変わる。
まだ覇王は発動していないにも関わらず、
その圧倒的な魔力から圧力が感じられる。
そしてやっとクリスに会えて喜ぶ者がもう一人いる。
それはユーリである。
しかしその姿を高貴な姿に変化させているため、
すぐにクリスはユーリだと気づいていない。
そして先程は冷静でなかったラグナが、
少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「それなら作戦変更だ!
女神よ、光のカーテンを出せ!」
すると女神の肩にかかっていたスカーフが、
上空に浮かび上がりカーテンのように広がった。
そして怪しく光り輝いていく。
その光が何を意味するのか賢者でも分からない。
「何も馬鹿正直に戦わなくても良い、
どうせ勝てるんだからな」
そう言い放つと同時に光のカーテンが怪しく光り、
儀式の間を真っ白な空間に変えてしまう。
更に白い空間の中に煙が充満して、
全員の場所が認識できなくなってしまった。
「ふふふ、仲間を守り切れるかな」
怪しく笑いながらラグナと女神は、
その煙の中に消えていった。
全員が煙の中で彷徨っている。
歩き回っても誰にも出会えない。
そしてアリスの近くにいたはずのユーリも、
みんなとはぐれて、一人彷徨い歩いていた。
「あねご、どこなの?」
「クリス〜?」
ひたすら歩いたが誰にも出会えない。
真後ろに人の気配がしたと振り返った瞬間、
ユーリに魔の手が伸びた。
「え?」
そして、ユーリに隷属の首輪が、
かけられてしまった。
「ふはははは、
これで新たな女神も私の物だ」
その頃、クリスは封印魔法を使っていたが、
全く効き目がなかった。
封印魔法は魔導具には通用しない。
光のカーテンは、魔導具によるものだった。
「くそ!」
その時、クリスは何故忘れていたのか自分を責める。
以前にエレノアと戦った時に使った魔法があった。
「探知でみんなの位置を探す」
するとクリスは胸が張り裂ける程の不安を感じてしまう。
明らかにユーリと思える存在を探知したが、
すぐ傍にラグナがいるからだ。
「ユーリ!」
俺は姿を変えて覇王を発動する。
ここで全力を出さなければ、何のために死の山で修行したのか分からない。
あれだけ必死になったのもマリアとユーリを守るためだ。
気づけば俺は全ての身体強化をかけて、
探知の指す方向へ駆け抜けていた。
そして同じように探知で探していた人物がいる。
それは賢者だ。
「賢者!」
「来たか、ユーリが危ない!」
俺と賢者は過去の世界と同じように、
お互いに探知の指す方向へ向かっていく。
「見えてきた…」
そして光のカーテンに身を隠していた、
ラグナ、女神、ユーリが見えてきた。
「ユーリだよな…」
俺は一瞬、目の前の女性が別人かと思ったが、
すぐにユーリだと分かった。
この魔力の波動、間違いなくユーリだ。
だが、何だかユーリの様子がおかしい。
表情も目からは生きている感じがしない。
これではまるで…
「ラグナ、お前…」
賢者も気づいてラグナに問いかける。
そして、ラグナは邪悪な笑みを浮かべながら答えた。
「隷属の首輪だよ、
そして俺が死ねばコイツら二人も死ぬ」
「な、何だと」
俺は言葉を失ってしまった。
愛する人を奪われただけでなく、
救う手段を見出せない。
しかし、どうしても諦めたくない…
「クリス、諦めるな!
まだ破壊できる術はある」
「賢者…」
そして光のカーテンの効果が少しずつ薄れていく。
「どうする?
これで俺は殺せない
だが、この首輪がある限り、
このエルフは俺の物だ…」
ラグナが嫌らしくユーリの首輪をなぞる。
更にその手はユーリの綺麗な顔を撫でていく。
「ユーリに…
ユーリに、触れるな!」
そして信じられないことが起きた。
隷属の首輪が付けられているが、
俺の言葉に反応してユーリの瞳から涙が落ちていく。
「ユーリ…」
表情は正気が失ったまま、
その瞳の涙は止まらずに溢れていく。
その涙を見て俺も涙が止まらなくなってしまう。
「クリス、覚悟はいいか?
救う手が一つだけある」
「賢者?」
賢者が救う手段があると言っている。
俺はそれに全てを懸けたい。
そして俺は賢者の言葉に無言で頷いた。
すると賢者の周りに魔力が溢れていく。
「次元結界!」
すると俺とユーリを囲うように、
次元の結界を呼び出した。
そして賢者は通信機で俺に話しかける。
「あるんだよ…
エレノアの時と同じさ!
従属化の一つ上のスキルで隷属を上書きできる!」
「え?」
賢者は考えた素振りを見せながら、
更に俺に問いかける。
「従属化スキルは今いくつまで成長した?」
「た、確か、レベル8ですけど」
その言葉を聞き、賢者はニヤリと笑みを浮かべる。
「カンストすると次のスキルを覚える…
後1レベル、今すぐに上げちまいな!」
「い、今すぐってどうやって?」
その時、賢者は呆れたようにため息を吐いた。
やはりその声に俺は焦ってしまう。
「馬鹿者!
お前、従属化のレベルが上がるまで、
何度も口付けするに決まってるだろ」
「は、はい?」
俺は賢者の言葉に驚きを隠せない。
後、従属化スキルを1レベル上げれば、
スキルがカンストして新たなスキルを覚える。
そして今、ユーリと口付けを何度も繰り返して、
達成させるらしい。
「ユーリ…良いよね?」
俺はユーリに一応確認を取っておこうと思い、
声をかけてみた。
すると先ほどのユーリと全く違う変化を感じ取った。
「ん?
涙が止まってて、嬉しそう?」
気のせいかと思ったけど、
ユーリが少し笑顔になっている気がした。
賢者を信じて従属化スキルのレベル上げに挑む。
急遽レベルを上げるために口づけを繰り返す。
思わぬ展開にクリスは頭がついていけない。
そして、結界の外にいる賢者達は女神との攻防に必死になっていた…
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読者の皆様と毎日一緒に冒険しているのが楽しくて仕方ありません(T ^ T)
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