第121話 救う者(2)
賢者との通信が回復し死の山での修行も再開する。
ユーリの危機を伝えられ、クリスは戸惑いを隠せなかった。
しかしマリアを愛するのと同様にユーリのことも愛してやまない。
クリスは一世一代の覚悟を決める。
「途中の敵は、全て切り捨てる」
そしてクリスは再度覇王を発動し聖剣を握りしめる。
その想いに呼応するように覇王の輝きが溢れていく。
「賢者、俺を導いてくれ…」
更に、全ての身体強化を施していく。
「全速力で駆け抜ける!」
その言葉と共に高速で駆け出した。
死の山でレベルアップをしてから、
全力での移動は初めてだ。
その速度に賢者は驚愕していた。
「クリス、お前…」
この速度であれば本当に1日で最後の結界まで辿り着いてしまうかもしれない。
まさに有言実行で行動しているクリスに賢者は心を奪われていた。
そして正面にゴブリン、オーガが1匹ずつ現れる。
クリスは全速力で走りつつもゴブリンの足に水魔法を放ち足を止めた。
更に神速でオーガの背後に周り一撃で貫く。
「身体から力が溢れてくる…」
覇王と聖剣は、使用者の想いに応える。
その想いが強くなればなる程に力を増していく。
決してクリスだけがその気持ちが強いわけではない。
マリアも魔族から心臓を狙われ続けて、
その苦しみは誰よりも理解している。
マリアもユーリを助けたくて仕方ないのだ。
その気持ちが重なり合い、更に力を増していく。
「お前達…」
賢者は才能溢れる若者達を見て奮い立っていた。
500年以上生きてきて、こんなにも心を揺さぶられるとは思いもしない。
「ふふふ、私も負けてられないね」
さらにクリスは、残りのゴブリンに強烈な蹴りを入れて始末する。
そして、足を止めずに走り続けていく。
「このまま次の結界まで全力でいく!」
賢者の予想を超えるペースで進めているのは、
真夜中の戦闘でレベルアップを繰り返したからだ。
気づけば2時間足らずで次の結界が見えてきた。
「見えた!」
ついに4つ目の結界を補足することができた。
距離は離れており、道中にオーガの群れが見える。
だが今のクリスには、取るに足らない相手だ。
「クリス、残りの雑魚を倒したら結界だ!
全力を出せ!」
クリスは、オーガの群れを聖剣の一撃で切り裂いた。
そして覇王の光が再度死の山に溢れていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ユーリの瞳から涙が止まらない。
それは自分にとって姉でもあり母でもある、
クレアが助けに来たからだ。
「あねご…」
今は泣くべき時でないのは分かっていても嬉しくて涙が止まらない。
それほどにクレアは、かけがえのない存在だ。
「ユーリ…
お前を見捨てるわけがないだろう
どこに行っても私達は一緒だ…」
そして目の前に居る老人を確認すると、
賢者が説明した魔王の副官、ゼノと認識した。
四天王を統べる強者と対峙する。
「何故ユーリを狙う?」
クレアは疑問だった。
聖女の衣装を着ているユーリを見て、
未だに心臓を喰われる理由が分からない。
ユーリは聖女ではなく魔女なのだ。
「聖女の衣装と杖を持っている…
この者は、間違いなく聖女であろう」
「いや、ユーリは聖女では無いのだが…」
クレアはユーリが魔女であるか告げるのを迷った。
どこに魔女狩りが潜むか分からない。
これ以上ユーリを危険に晒したくないと考えた。
「ふふふ、その言葉が本当かどうか、
心臓を喰って判断してやろう」
クレアから背を向けてユーリに手を伸ばしていく。
するとクレアは、光の剣でその背中を突き刺した。
「私に背を向けるとは良い度胸だ」
ゼノは500年前の大戦以来、自らを脅かす程の攻撃を一度も受けることはなかった。
そしてクレアの光の剣を目の当たりにしたことで、
ゼノの興味はクレアへと切り替わる。
「素晴らしい…
この力、良い才能に恵まれている」
突き刺さる光の剣が消滅すると、
ゼノは懐から液体を取り出し飲み始めた。
すると胸に開いていた穴が瞬時に塞がっていく。
「な、なに!」
クレアは賢者からゼノのスキルを聞いていたが、
いざ目の前にすると驚いてしまう。
まさに古の存在であり、おとぎ話の中でしか聞いたことがなかったからだ。
「やはり、お前は…」
「気づいたか…
だが、我ら一族と戦えるのだ…
誇りを持って死ぬがよい」
ゼノの身体の周りに地属性の魔力が絡みついていく。
それは強力な身体強化となりクレアに向かって突進をしてきた。
「その身に恐怖を刻んでやろう…」
更にゼノの周りに暗黒魔法の魔力が重なり、
先程の身体強化を更に強めていく。
二つの魔力が衝突して摩擦音が響く。
「我ら、吸血鬼一族の力をな」
圧倒的な速度で移動し瞬く間にクレアの目前に迫る。
そしてクレアの首に手を伸ばそうとした瞬間、
クレアもまた神速スキルを使い回避した。
「死角からの一撃を喰らえ」
初速では神速スキルに敵わない。
クレアは、一瞬に全てをかけて死角へと移動した。
光の剣が再度ゼノの胸を貫いていく。
「ふふふ…
ははははは」
ゼノから高笑いが聞こえてくる。
余裕のある笑い声を聞き仕留め損ったと察する。
しかし、確実に急所を貫いたはずだとクレアは唇を噛み締めた。
「まさか、神速まで持っているとはな」
クレアは、その言葉に驚愕している。
珍しいスキルであったため、初見でスキルを言い当てられることは一度もなかった。
それを一度見ただけで分析されてしまった。
「ならば、私も手加減は止めよう…」
ゼノの周りに暗黒魔法のオーラが溢れ、
禍々しく身体を覆っていく。
吸血鬼だけに許された固有スキル、血の代償。
自らの血液を媒介に魔力の質を高めていく。
ゼノの周りに更に魔力が溢れ身体強化を強める。
「痛みを感じぬまま死ね」
驚異的な速度でクレアへと迫る。
このまま待ち受けていては神速でも回避できない。
そう悟ったクレアは、切り札を使うと判断した。
「仕方ない…
それならば使わせてもらう」
すると、クレアの左目から光が漏れていく。
そして少しずつ瞳に星のような紋章が浮かび上がる。
【時の魔眼】
クレアは魔眼を発動しゼノの攻撃を予知し回避した。
更に光の剣を全力を込めて放つ。
その剣はゼノの胸へと向かい貫いていく。
「な、何だと…
貴様、まさかそれは!」
クレアは薄らと笑みを浮かべ宣言する。
そしてその言葉は、決意に満ち溢れている。
「魔王の副官よ、私が…
クレア・レガードが、お前を倒す!」
クレアの魔眼が発動しゼノの攻撃を凌ぎ反撃に出た。
その瞳の力はまさに圧倒的だった。
しかし古の時代から戦闘に身を置く副官の力は、
こんなものではない。
クレアとゼノの死闘は、更に熾烈を極めていく。
いつもお読み頂き心から感謝です。
読者の皆様と毎日一緒に冒険しているのが楽しくて仕方ありません(T ^ T)
明日も少しでも面白くできるよう努めます。
もし気に入って頂けましたら、
ブックマークの登録や評価をして頂けると幸いです。
今後の執筆の励みになります。
宜しくお願い致しますm(_ _)m




