第115話 陰謀
ハイエルフのサラに引き連れられて、
ユーリは協会本部の一室に入ってしまった。
「あ、あの…
私は人を待たせてて…」
「すぐに終わるよ!
同族と会えたのは珍しいから、
ある人に会ってもらいたいんだ」
ユーリの話は聞き入れてもらえずそのまま、
サラの言う人物に会うことになる。
「おや?
君は見ない顔だね…」
サラの言っている人物とは、
女神教の最高責任者である教皇ラグナである。
「あの…
賢者様と一緒に来たユーリです」
「もしかして君はハイエルフかな?」
ユーリを見たラグナは、サラと同様の質問をした。
先程、咄嗟にハイエルフと答えてしまったためユーリは同じように答えるしかない。
その問いに無言で頷いた。
「おお、珍しいね!
君に会えて嬉しいよ…
私はこの教会の教皇ラグナだ」
そう言うとラグナは手を差し出しユーリと握手する。
ユーリは先程アリスが教皇の部屋に行くと言っていたのを思い出したが部屋にはいなかった。
そして今、その教皇を目の前にしている。
「ユーリさん、
君はいつまでここに?」
「えーと、聖剣の儀式が終わるまでは
いると思いますけど…」
王が言っていた儀式までは最低でも滞在するだろう。
なるべく会話の辻褄が合うように説明する。
「それは良かった…」
「へ?」
ユーリは、ラグナが怪しい笑みを浮かべた気がした。
しかしあまりに一瞬のことだったため気のせいか分からないでいる。
「是非、聖剣の儀式を見てもらいたい
どうかな?」
ユーリはその質問にどう答えるか迷った。
しかし、今は少しでもクリスの傍にいたい。
ユーリはその気持ちを優先してしまい正常な状況判断が出来ずにいた。
「あの、儀式を見れるなら…」
「それは嬉しい!
ならばクリス君が魔界から帰ってくる前に、
是非君にも手伝って欲しい!」
ユーリは、少しでもクリスの力になりたい。
ラグナはその心の隙間を分かっている訳ではないが偶然にもその隙をつく発言をしてしまう。
「分かりました…
是非お手伝いさせてください」
ラグナは3日後に部屋を訪れるよう伝えた。
そしてユーリが部屋を出た後に、ラグナは表情を少しずつ変えていく。
「ふはは、
これは思わぬところで出会った…」
少しずつ邪悪な笑みに変わり、その本性を表す。
「魔族に喰わせる、
代わりの心臓が見つかった」
ラグナは同一人物とは思えない低い声で言葉を発した。
そして怪しい笑みを浮かべ更に独り言を呟いていく。
「計画まで後少しだ…
あの力を手に入れ、
私が世界の王となる」
まさに賢者の警戒していた教皇ラグナの本性だった。
そしてクリスが魔界で修行に明け暮れている間に恐ろしい陰謀が蠢き始めている。
その事にまだ誰も気付けてはいなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
クリスは死の山での修行を再開しており敵の気配に最大限警戒している。
「賢者、あそこに…」
クリスの指す場所を賢者も目を凝らして観察した。
するとそれは魔物の死骸だった。
「気をつけろ…
死骸は弱いモンスターじゃない…
Lv100超えの化け物だ」
死骸は蛇のような姿をしている。
一撃で切り裂いた跡があり、それだけ見ても身体能力に優れた強者と予測する。
そして山道を登っていく先に大きな岩がある。
その裏側に敵の気配を感じる。
「警戒しろ!
岩の裏から襲ってくるかもしれない」
賢者が警笛を鳴らした通り、
大岩からアンデットの剣士が姿を表す。
高速で迫る剣士にクリスは聖剣で迎え撃とうとするが、あまりに速く攻撃が当たらない。
「な、何だと…
コイツはモンスターじゃない…」
「はい?」
賢者の予想外の言葉にクリスは戸惑った。
確かに目の前の存在からは異質な魔力が溢れている。
「賢者様?
奴は一体?」
「奴は、過去の時代で禁術に手を出し、
その姿を化け物へ変えた存在…」
賢者は、500年前に禁術で人生を狂わせてしまった
若者を思い出していた。
その者は最も四天王に近い存在であり将来を有望視されていた。
「奴は、禁術を使って力を得ようとしたが、
アンデットに変わってしまった。」
クリスは衝撃を受けていた。
まさか死の山で本当に死人に近い存在と戦うことになるとは思いもしない。
「クリス、奴の弱点は体内の核だ。
魔術師が触媒としていた魔石がある
それを破壊すれば消滅する」
しかし、あまりに高速で移動する剣士にクリスは攻撃を回避するだけで精一杯だった。
「炎魔法を使え、
アンデットには有効だ!」
クリスは剣士の剣撃と聖剣が衝突した瞬間を狙って、
螺旋の炎を発生させた。
「浄化してやるよ」
剣士は至近距離からの炎に苦しんでおり、
その瞬間を賢者は見逃さない。
「いまだ!
聖剣で核を貫け!」
賢者の言葉に従いクリスは聖剣技を繰り出した。
その一撃は炎に苦しむ剣士の核を貫いていく。
スキルがレベルアップしました。
地獄の業火Lv.7 →Lv.8
強化格闘術Lv.8→Lv.9
スキルがカンストしたことにより、
新スキル獲得成功
強化格闘術・極Lv.1
「はぁ…はぁ」
セシルとの戦いで聖剣と同時に地獄の業火を使ったが聖剣技と同時に使用したのは今が初めてだ。
クリスは思わぬ身体への負担に驚いている。
「次の回復ポイントに着いたら、
少し休もう…」
賢者の言葉に同意して前を歩き出す。
しかしクリスは探知魔法を使い結界をめざすが、
まさか近くの魔物に方角を狂わされているとは思いもしなかったのだった。




