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第114話 心

クリスが旅立ってからマリアは賢者と共にクリスの支援をしている。

聖剣技を途切れさせないために魔力を送り続けているのだ。



「今、クリスに何かがあった気がする…」



死の山にいるクリスの緊張が魔力を通して伝わる。

遠距離メガネが無い状態ではマリアは何が起きているか分からない。



「恐れている?」



丁度クリスは死の山で冥界のゴブリンと遭遇し先制攻撃を繰り出すところだった。

魔力を帯びたゴブリンを見た恐怖がマリアにも伝わっていた。

マリアからすると愛する者の不安や恐怖を感じてしまい心配で仕方ない…



「こんな不安を、

 いつもクリスは感じているの?」



マリアは胸を抑えて苦しんでいる。

相手のことを想う気持ちが聖剣技には大切だと賢者から教えられていた。

言葉では分かっていても実際に感覚を共有するとその意味を理解する。



「マリア、気付いたかい?

 人間誰しも本心を隠す…

 辛い時も苦しい時も」



クレアとの話を終えた賢者がマリアへ話しかける。

クリスは今まで不安や恐怖を隠して戦ってきた。

いつも勇敢に立ち向かうように見えていても、

心の中では葛藤していたのだ。

マリアはその本質に気付く。



「マリア、それで良い…

 寄り添うには理解するのが大切だが、

 それは上辺だけじゃ駄目ってことさ」



そして更に真心を込めてクリスへ魔力を送り、

徐々に魔力の質も上がっていく。



「よし、クリスが戦闘を終えた。

 私もサポートに戻るよ」



そして賢者はクリスからの報告を聞き、疲れを見せるマリアのためにも結界での休息を提案した。



「そうだ!

 休んでる時だけ、お前達で話してな!」



「へ?」



まさか、そんな事ができると思っていなかっただけにマリアは心の中で飛び上がり喜んだ。



「あ、あのクリスと話せるのですか?」



「あぁ、アイツも喜ぶだろうし、

 早く話してあげな」



そして賢者の閃きによって結界での休息の度に、

二人は遠距離通話をする事になったのだ。



「ク、クリス?

 聞こえる?」



マリアは初めて通信機を使うため不慣れだが、

一生懸命に操作している。

そしてクリスもまさか、いきなりマリアの声が通信機から聞こえてくるとは思わず驚いてしまう。



「マ、マリア?

 どうしたの?」



「ふふふ、賢者様が結界で休む度に、

 通話を許してくれたの…」



クリスは賢者の粋な計らいに感謝していた。

魔界で強力なモンスターと戦い続けると精神的にも参ってしまいそうだった。

しかしマリアの声が聞けるのであれば自然と元気が湧き出てくる。



「ふふふ、クリス…

 今、嬉しいでしょ?」



マリアには魔力を通してクリスの感情が伝わってしまう。



「めちゃくちゃ嬉しいけど…

 マリアにも伝わるから、

 何だか恥ずかしいね…」



クリスもマリアの感情が読み取れているため、

二人とも同じ気持ちで通じ合っているのが分かる。



「何でも私にはお見通しだよ…」



マリアの顔は見えないが、クリスは想像の中で小悪魔なマリアが見えた気がした。



「マリア…

 声が聞けて嬉しいよ…」



マリアは嬉しくて切なくて胸が締め付けられる。

その言葉を聞き今すぐにでもクリスに触れたいが叶わない。



それから二人は他愛無い話をしながら、

この僅かな時間を大切に楽しんだ。



そろそろ十分に時間が経過し魔力も回復した。

そして賢者が二人に声をかける。



「よし、二人とも回復したね…

 持ち場に戻ろう」



二人の時間が終わりを告げて、マリアは離れるのが

名残惜しかったが改めて気を引き締めた。



「クリス、次の回復ポイントを、

 探知で探しながら移動するぞ」



そしてクリスは結界を出て、死の山を歩き出した。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





賢者達が居た部屋を飛び出したユーリ。

意外にも足が速くカートは追いつく事が出来ない。

その姿を見失ってしまった。



「はぁ…はぁ」



クリスに会いたくても会えない悲しみが押し寄せていたが、修行の事情を聞き更にユーリは混乱していた。

クリスが生死をかけて戦っているのに力になれない不甲斐なさ、会えなくなるかもしれない不安に胸が締め付けられる。



そして心を落ち着かせようと思い、

本部の広場にあるベンチに腰掛ける。



「クリス…

 私の気持ち分かってるのかな…」



過去の世界でクリスに命を救われてから、

一緒に楽しく過ごすのを夢見て生きてきた。

ようやく叶うと思ったが願いも叶わない。



手を額に当てて綺麗なテティスの空を見上げていると、そこに見知らぬ女性が近づいてくる。



「貴方は…

 ハイエルフの方ですか?」



ユーリに声をかけたのは最近になりもう一人の聖女と呼ばれ始めた人物、ハイエルフのサラだった。



ユーリはその質問に一瞬戸惑うが賢者の言っていた言葉を思い出す。

賢者は周りに溶け込むために、

ユーリを更に高貴な姿にしておいたと言っていた。



「ハイエルフですよ…」



「やっぱりそうなのですね!

 私も同じ種族なので、

 お会いできて嬉しいです…」



そしてサラは満面の笑顔でユーリの手を取る。

突然のことでユーリは驚いているが、

怪しまれないように平静を保つよう心がける。



「ユーリさん、ハイエルフでしたら、

 ぜひ紹介したい人がいるのです」



するとサラは強引にユーリの手を引いて歩き出し、

ユーリも断ることが出来ないまま付いて行ってしまう。



そしてこの出会いがユーリの今後を左右してしまうことになるとは思いもしない。

事態は急転して魔王軍、女神教、魔女狩りと全てを巻き込んで大きく膨れ上がっていく…

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