第113話 死の山
賢者は悪魔の鏡を使いクリスを魔界へと送った。
そして隣で精神を集中させるマリアは、
クリスと聖剣技によって魔力が繋がっている。
「マリア、痛みまでは共有されないが、
感情が流れてくるかもしれない」
聖剣技によって魔力を通して感情が共有される。
以前クリスもマリアの感情を読み取る事に成功していた。
「クリスの苦しみや悲しみが流れてきても、
目を背けるな…
一緒に乗り越えるしかないのさ」
マリアは賢者の言葉に無言で頷いた。
今はクリスの力になるために聖剣技に集中するしかない。
「よし、そろそろだろう…
クリスが到着するはずだ」
魔導具の複製を依頼しており明日には二つ目の遠距離メガネが手に入る。
今日は賢者だけがメガネをかけてクリスの状況を把握することになった。
そして通信機を耳に入れながら会話する。
「クリス、聞こえるかい?
身体に異常はないね?」
徐々にクリスの声が鮮明になっていく。
「賢者様、ちゃんと聞こえます…
体調も問題ないです」
そしてクリスも転移後の反動が収まり目の前の景色を見渡し状況を把握する。
今は死の山の麓、入り口の門の前にいる。
辺りは白い景色が広がっており吹雪いてはいないが、
軽い雪が降っている。
死の山という名前の通り不気味な気配を感じ、
山を登るとそのまま死後の世界へと繋がっているような気がしてしまう。
更に目の前に赤い文字が書かれた看板が見える。
「それは立ち入り禁止って読むんだよ」
賢者が通信機器越しに通訳する。
「クリス…
回復の結界が見えるか?」
辺りを見渡すと、一つ目の結界が看板の奥に見えた。
賢者は死の山の複数の箇所に結界を送り込んでおり、
結界で数時間休めば聖剣を維持しながらでも回復できる。
「見つけました…
近くにあります!」
賢者はその言葉を聞き修行を継続できると安堵した。
結界を送り込めなかった時点でクリスの修行は失敗してしまうからだ。
「安心した…
移動したとしても、絶対に結界を見失うなよ」
賢者の言葉に返事をして山道を前進していく。
すると死の山に足を踏み入れて最初のモンスターが現れた。
ゴブリンに似た見た目をしているが鎧を身に纏い、
更に身体の周りに暗黒のオーラが溢れている。
「な、何だ?
あんなに魔力を放つゴブリン…
見た事ないぞ…」
そしてゴブリンを見ても賢者の声が聞こえてこない。
「賢者?」
通信機に耳を当てて賢者達の様子を観察するとクレア達と会話しているようだ。
そしてクリスはゴブリンから先手を取るために、
即座に神速スキルで移動して背後に回る。
更に聖剣でゴブリンの身体を突き刺した。
そのゴブリンは光の粒子となり消えていく。
スキルがレベルアップしました。
スキルがレベルアップしました。
スキルがレベルアップしました。
ゴブリン1匹倒しただけでレベルアップが鳴り響く。
死の山のモンスターは通常のモンスターよりも経験値が高いとクリスは理解した。
「すまん、クリス…
クレア達が来ていてな…」
通信機から賢者の声が聞こえてくる。
クレアとの会話が終わり、ようやく賢者は通話に戻れるようになった。
「賢者、今強そうなゴブリンと戦ったよ…
暗黒魔法の魔力を帯びていたけど」
「な、何だと…
ソイツは多分、冥界のゴブリンだぞ…」
なんだか強そうな名前にクリスはたじろいしまう。
そして相手の強さが分からない内に倒していたため、
賢者に魔物の特徴を聞いてみた。
「レベル100超えのパケモノだ…
遭遇したら迷わず殺せ」
「はい?」
クリスは一歩間違えるとゴブリンに殺されていた可能性があったと驚愕していた。
「ところでお前の今のレベルを知りたい…
鑑定の腕輪を持っているだろ?」
そしてクリスは、賢者の指示に従い現時点での強さを確認する事にした。
鑑定の腕輪を使いステータスを表示する。
名前:クリス・レガード Lv.94
MP:52400
取得スキル:
休憩 Lv.3
覇王Lv.8
聖剣技Lv.2
獣王剣Lv.9
強化格闘術Lv.8
地獄の業火Lv.7
神速Lv.6
従属化Lv.6
探知Lv.7
取得魔法:火魔法Lv.1
回復魔法Lv.3
水魔法Lv.8
融合魔法Lv.6
幻惑魔法Lv.5
封印魔法Lv.5
過去の時代に賢者との訓練をしていたため、
クリスのスキルレベルは上がっていた。
しかし神速や回復魔法の使用頻度はかなり多いが、
レベルが上がっていない。
「レベルが上がり難いスキルもある。
例えば回復魔法は最難関の魔法だ」
クリスはその事実を聞き驚愕していた。
改めてマリアやサラの才能を感じていた。
「お前のレベルが上がったら、
敵のスキルも取得して行こう!」
クリスは休憩スキルで敵からスキルの獲得ができる。
賢者は、スキルのレベル上げと共に敵のスキル獲得を提案した。
「よし、一旦今日は初日だ…
マリアも疲れているから、
少し結界で休もう」
賢者の言う通り近くの結界に入り座り込む。
すると死の山の頂上が視界に入る。
頂上の先端に雲が集まっており更に不気味な空気を感じさせる。
「本当に頂上からあの世に続いてないよね…」
今日から死の山での修行が開始となった。
順調な走り出しを見せたが死の山の恐ろしさは、
クリスが想像をしていた以上だった。
強敵との連戦でクリスとマリアは疲労を見せるが、
賢者の閃きにより距離は離れていても更にお互いの意思疎通ができるようになる。
その閃きが5日間の修行を乗り越えるのに重要となるのであった。




