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第112話 涙

聖剣を発動したクリスは悪魔の鏡の効果により、

黒い渦に包まれ魔界へと旅立った。

そしてその翌日、クレア達はクリスを目指して女神教の本部を訪れている。



「おい、中に賢者がいるんだろ…

 私達はルミナスの者だ…

 何度言えば分かるんだ!」



本部前の聖騎士に止められてしまい、

クレア、ユーリ、カートは中に入ることができないでいた。



「お、おい、これを見ろ!

 ルミナス宮廷魔術師のコートだ」



「何度言えば分かる…

 正式な文書がないと入れないんだ」



事前にクリス達は王からの文章が届いていた。

そのため難なく本部に入ることができたが、

クレア達は急遽王と交渉したのである。

そのため手続きが間に合っていなかったのだ。



「くそ!

 これでは中に入れないではないか…」



クレアが苛立っているとよく知る人物が声をかける。



「母上、何をやってらっしゃるのですか?」



クレアの娘、アリス・レガードである。

気疲れから眠ってしまい、ようやく起きて本部に戻ろうとしていたのだ。

そこに偶然クレア達に遭遇した。



「アリス、良いところに来た!」



アリスは首を傾げているがアリスの証言によりクレア達の入場は許可された。

そしてユーリは、ようやくクリスに会えると、

胸が躍っている。



「クリスはどこにいるの?」



「お兄様ですか?

 多分教皇達と一緒だと思いますけど…」



アリスは、疲れて寝てしまい魔界への修行の事情は何も知らない。

そして賢者がいる部屋へクレア達を引き連れていく。



「クリス!賢者!」



クレアが大声でクリスと賢者を呼ぶ。

するとその声に気付いたのか賢者が隣の部屋から現れた。



「クレア、遅かったな〜

 どこ行ってたんだ?」



「師匠、遅いなじゃないですよ!

 入れなくて大変だったんですから」



クレアは入場するのに苦労した事を伝えた。

カートもテティスまで来たが目的を果たせないのでは報われないところだった。



「すまなかったな、

 だが今は一大事だ…

 お前達もちょっと来い…」



そしてクレア達を隣の部屋へ連れていく。

するとマリアとシャルロットもその部屋にいるが、

クレア達はその事実に驚愕する。



「な、なんだって!

 クリスが、魔界に行ってしまった?」



クレアは目の前の状況が何なのか理解できない。

アリスに至っては先ほど起きたばかりだったが、

気絶してしまった。



そしてずっとクリスと離れ離れになってしまい、

まともに言葉を交わせなかった者がついに限界を迎えてしまう。



「ユーリ…」



ユーリが泣き出してしまった。

ルミナス魔宝祭を一緒に回ることができたが、

大勢の人が集まってしまい話せなかった。

それ以降はずっと会えていない。

婚約者だが全く触れ合えず離れ離れになってしまったのだ。



「あ、あねご…

 わたしは…」



ユーリの瞳に涙が溢れてしまう。

クリスと楽しく過ごしたくて、テティスまで来たが、

既にクリスは魔界へ旅立ってしまった。



「クレア、ユーリ…

 すまないね…」



賢者がクレア達に全ての事情を説明していく。

そして魔王軍襲撃に備えてクリスを魔界に送ったと伝えた。



「そんな事に…」



するとユーリは自分の悲しみの矛先をどうすれば良いのか分からなくなってしまった。

クリスは仕方のない事情で魔界へと旅立っている。

最愛の人が苦しむ今、隣で力になれないのが悔しくて仕方ない。



「あねご、ちょっと私…

 頭冷やしてくる…」



ユーリは、色々な感情がせめぎ合い気持ちの整理がつかず混乱している。

そのため外の空気に当たりたいと一人で出てしまった。



「お、おい、ユーリ!」



クレアはユーリの背中を追いかけようとしていたが、

賢者はカートにその背中を追わせる。

そしてクレアへと向き合い話し始めた。



「クレア…

 お前にも言わなければならない事がある…

 お前は、私がこれから言うスキルを取得しろ」



「師匠?」



賢者は今まで以上に厳しい表情へと変わっている。

その真剣な眼差しは修行の時以来でクレアは緊張してしまう。











「スキルを取得出来なければ、

 お前は死ぬぞ…」









クレアはその言葉に衝撃を受けた。

クリスの世界で自分は死んでいたと聞く。

みんなの協力のおかげで死を回避出来たが、

ここにきて賢者に命の危機を告げられている。



「相手はお前よりも遥かに格上だ…」



クレアは偶然遭遇した老人を思い出していた。

その実力を見ていないが遥か格上の存在だと認識した。



「だが、手がない訳ではない」



賢者はニヤリと笑みを浮かべた。

そしてクレアに一冊の本を差し出した。

その本は開かないように厳重に鍵がかけられている。



「お前には、このスキルを、

 必ず使いこなしてもらう…」



「し、師匠…

 私に出来るのですか?」



クレアは自分よりも格上の相手と遭遇した経験は殆どない。

それだけに自信をなくしていたのかもしれない。



「何を言ってるんだ…

 お前らしくない…」



賢者は一言クレアへ告げる。

そしてそれは師として愛しい弟子へ贈る言葉だった。







「お前は最強の宮廷魔術師、

 クレア・レガードなんだろう?」







クレアは賢者の言葉に心が震えた。

やはり賢者は自分にとって、かけがえのない師であると改めて心に刻む。

そして失った自信を取り戻した。






賢者により再度、クレアは自信を取り戻した。

そしてこれからの戦でクレアの力は魔王軍にとって

必ず脅威となっていく。

しかし悲しむユーリと、ある人物が遭遇する。

その運命の出会いによって歯車は少しずつ狂い始めてしまう…

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