第106話 魔導具研究所
賢者の同行の元、魔導具研究所に向かうことになり、
水の都を魔導船に乗り移動している。
「賢者様、ここに来て何なのですが、
研究所の技術は高いのですよね?」
「ん?
あぁ、お前達は知らなかったのか…」
古の大戦時の魔導具が研究所に集まり、
研究者は寝る間を惜しんで研究に没頭している。
「まあ、技術はともかく…
予想外のお宝があるかもね」
賢者はそのお宝が目当てのようだ。
お宝という言葉にアリスは何故だか心が躍ってしまう。
「もし相性の合う魔導具なら、
アリスも貰えるんですか?」
アリスはシャルロットだけでなく自分も便乗して魔導具を貰いたいと考えた。
「ふふふ、心配するな
私を誰だと思っているんだ」
賢者はニヤリと笑みを浮かべている。
その笑みから、何故か良い物は何でも手に入れてしまおうという考えが読み取れた。
「アリス、良かったな…」
そしてクリス達の乗る魔導船は研究所の入り口を通過していく。
「さすが水の都…
船のまま中に入れるのね」
本来だと船を降りて施設に入るのだろうが、
テティスは、船で移動するのが主流である。
「皆様、よくおいでくださいました!」
魔導具研究所の所長が笑顔で迎えてきた。
服装は白衣を身に纏っている。
「案内よろしく頼むぞ、
ちなみに私が賢者だ」
そう言っているが実は賢者に化けたアリスだ。
幻惑の腕輪により賢者とアリスは入れ替わっている。
「ふふふ、大成功だな
誰もアリスだとは気づいてないぞ」
賢者はこのアイデアを閃いた時に誰と入れ替わるか悩んだが消去法でアリスしかいないと気づいた。
王女二人に任せられる訳がないしクリスの覇王も敵の襲撃に必要となる。
結果としてアリスと入れ替わる判断をしたのだ。
「今回、その腕輪は、
何の目的で作ったんですか?」
クリスは純粋に疑問に思い質問していた。
しかし賢者は、まさかユーリをテティスに侵入させるためだと言えるはずがない。
「セシルの時に効果があったし、
撹乱用で作らせたんだ」
賢者は適当な言い訳を言って誤魔化した。
そしてクリスは入れ替わるアリスが心配で仕方ない。
何しろこのような時のアリスは緊張で小動物のように震えてしまうのだ。
「大丈夫か?」
「お、お、お兄様…
アリス、アリスは…」
小さい声のためクリスにしか聞こえないが、
全然大丈夫ではないと言うことが分かった。
「アリス、いざという時は、
何とかするから安心しろ」
アリスは余裕がない様子で心配だが、
マリアも暗い道を不安そうに歩いている。
「マリア、暗いから手を繋ごう
絶対に俺から離れるなよ…」
クリスはそっとマリアの手を握り傍に近寄らせる。
万が一のことがあったらいけないと思い、
クリスは至って真剣だ。
「クリス…」
急に男らしいクリスを見てマリアは頬を染める。
そしてそんなクリスを見てシャルロットが口を開いた。
「お兄様は頼りになるわね…」
シャルロットは、アリスとマリアの二人を上手くフォローした事を揶揄いながら進んでいった。
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研究所は15階建ての高層ビルのような建物だ。
その施設は魔道エレベーターで行き来しており、
各階で様々な研究がされている。
今回、賢者の希望で10階より上の古代魔導具エリアの見学が許可された。
アリスに化けた賢者は、はぐれたふりをして隠された秘密を暴いてやろうと作戦を計画した。
エレベーターに乗り10階まで向かい到着すると計画通り、賢者は個別で行動する。
「全く疑われないね…」
マリアもその様子を見て驚いていた。
賢者が個別で行動しても全く怪しまれていない。
それは幻惑の腕輪の効果が上手く機能しているだけでなく、アリスがバレないように所長を引きつけているからだろう。
「賢者とは、通信機で連絡取れるし、
俺達はアリスをフォローしよう!」
クリスはマリアの手を引き施設へと歩き始めた。
そしてクリス達は魔導具研究所の秘密に迫る。
賢者はその事実を知った時に唖然を通り越して怒りに震えてしまう。
その研究内容は到底許されるものではなかったのだ。
クリス達は少しずつテティスで起こっている異変と陰謀に近づいていくのであった。




