第105話 判断
賢者はテティスに到着するとすぐに探知魔法を使い、
クリス達の場所を特定した。
そしてクレアに事情を伝えて別行動となったのだ。
早くもクリスに会えると思ったユーリは落胆している。
「同じ国にいるんだ…
そう焦ることもないさ…」
クレアはユーリが幼少の頃から一緒に生活を共にしているため微妙な表情の変化にも気付くことができる。
まさに親子のような絆で結ばれているのだ。
「おい!
これってどうやって動かすんだ?」
カートは目の前に浮いている無人の魔導船に興味深々だが使い方がよくわからない。
ユーリを慰めているところに横槍が入り、
クレアは若干苛ついていた。
「カート、お前…
そんな事だと娘に嫌われるぞ」
「へ?」
クレアは無意識のうちにカートの心臓を抉るような強力な一撃を繰り出してしまう。
「ユーリ、せっかく国外に来たんだ。
今のお前はただのエルフ…
旅行気分を楽しもうじゃないか」
クレアのその言葉にカートは、この旅の目的はエルフの救出と突っ込みを入れようとしたが、先ほどの二の舞になりそうなので止めた。
「そろそろ飯でも食いに行くか?
腹でも減っただろう…」
クレアは食事で気持ちを紛らわそうと提案をした。
ここはルミナスではなく水の都だ。
その名産を予測してユーリに伝える。
「ユーリ、お前の好きな海の幸が、
めちゃくちゃ美味いかもしれないぞ」
そう告げるとユーリの瞳はキラキラと星のように変わっていく。
完全にスイッチが入ったのである。
「あ、あねご、
沢山お魚を食べたい」
幻惑の腕輪によって更に美しい容姿に変化しているが、涎を垂らすユーリを見てクレアは愛しさが込み上げてくる。
「ふふふ、早く行くぞ!
売り切れてしまうからな」
「ええ!
困る、困る、困る」
ユーリは慌てて手を振りながら騒いでいる。
クレアはそんなユーリを見て10年前に一緒に旅をしていた頃を思い出していた。
ユーリは外見こそ変わっていても中身はユーリのままだ。
「おい、カート置いていくぞ…
早く来ないとお前の奢りにするからな」
クレアの脅威的な言葉の剣がカートを襲う。
恐らく光の剣で攻撃されるよりも恐ろしい攻撃がカートの心に突き刺さった瞬間だった。
「ま、待ってくれ…
今すぐ行く!」
カートはイリーナにお金の管理を全て任せている。
つまりお小遣い制なのだ。
もしも奢りなんてことになれば僅かなお小遣いが吹っ飛んでしまう。
そしてクレア達はテティスの食事処を探しに向かったのだった。
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教皇に対して賢者は強かに交渉を行いクリス達への支援を約束させた。
それはまさにテティスに滞在する期間、技術を習得してルミナスに持ち帰れるということだ。
「賢者様、先程は助かりました」
シャルロットは賢者の交渉術に魅了されていた。
賢者のおかげで自分も魔導具研究所での視察だけでなく開発まで漕ぎ着けることが出来たのだ。
まさに渡りに船である。
「良かったじゃないか!
イフリートに代わる力を得られると良いな」
シャルロットは感動に涙が溢れそうになっていた。
実はあまり知られていないがシャルロットは涙脆い。
感動話などで泣いているとマリアによく揶揄われることがあった。
「あ!お姉ちゃん、泣いてる」
マリアは双子の妹である。
姉の変化には即座に気づくのだ。
するとクリス達もシャルロットに注目してしまう。
「う、うるさい。
ちょっと目にゴミが入っただけよ」
顔を赤くしながら照れる第一王女。
そんなシャルロットを見て賢者が口を開く。
「協力はしてくれると言っていたが、
くれぐれも油断するな」
過去の世界で過激派は魔女狩りとして行動していた。
今も表に現れていないだけで裏で悪意に満ちた者達が暗躍している可能性が高い。
「お前達は絶対に全員で行動しろ
一人きりになるなよ」
賢者はクリス達へ告げた。
ここは美しい水の都だがルミナスではない。
捕まってしまえば何をされるか全く分からない。
「もしかして…
賢者様も一緒に来てくださるのですか?」
「そんなに熱い視線で見つめないでおくれ
マリアが嫉妬するじゃないか」
賢者は笑いながら二人を揶揄う。
教皇と話していた重い空気も和らいでみんなの表情も自然と笑顔になっていく。
「テティスにいる間は、
存分にお前達に付き合うよ」
賢者はクリス達に告げたが後に判断を間違えたと後悔することになる。
なぜクレア達と同行しなかったのかと。
「今日はゆっくりして、
明日は魔導具研究所に行くぞ」
賢者の引率の元、魔導具研究所に向かう。
そしてその研究の裏に隠された秘密にクリス達は更に苦悩してしまう。
教皇も知らない研究者の暴走にクリス達は巻き込まれていくのであった。




