第102話 水の都
魔列車が都市に入ると近代的な景色に変わる。
建物はレンガで積み上げられており古風で伝統的な建築様式を感じた。
街の中にも水が広がっており船が走り回る。
まさにこれが水の都と呼ばれる所以なのだろう。
「凄い…」
クリス達は魔列車を降りるとその景色に再度心を奪われた。
水の色はエメラルドグリーンで宝石のように美しい。
そして綺麗な水面の上をテティスの住人は船で移動をしている。
見たことがない生活をする人々に惹かれてしまう。
「文化の違いかもしれないけど、
価値観が変わるわよね」
見たことのない景色を見ると、
今までの固定観念が消え去ると言う。
「船は魔力で動いているようですね…」
するとクリス達の前に船が到着する。
魔力で動く無人の魔導船。
簡易的な船だが中央に配置される装置に魔力を送り動かす仕組みになっている。
そしてシャルロットが魔力を入れると、
船の周りに魔力が溢れ淡い光が包む。
「お、お姉ちゃん、動き出した!」
マリアが目をキラキラと輝かせながら喜ぶ。
子供のように喜ぶマリアがあまりに可愛くてクリスは見惚れてしまう。
「クリス?」
「あ、ごめん
可愛すぎて見惚れてて…」
クリスの不意打ちにマリアは顔を赤くしてしまう。
真っ赤になったマリアを見るとクリスも恥ずかしくなってしまい、みるみるうちに顔を赤くする。
想いを伝え合い結ばれてはいるが、
奥手の二人にはまだ賢者の力が必要だ。
「お兄様…
目の前でイチャつかないでください…
アリス、発狂しそうです…」
「わ、分かったよ〜」
そして魔導船はレンガ調の橋の下を進んでいく。
周りの景色を見ながらゆっくりと進む時間に、
クリス達は心が躍ると共に癒されていく。
「さて、教会本部が見えてきたわよ」
「し、城?」
クリス達は女神教の教会本部に辿り着いた。
その外観は教会本部というよりも城に近い。
煌びやかな装飾が施されており宗教団体の建物ではなく、むしろ王族の建物に感じてしまう。
「本部がこれだけデカいとなると、
強力な団体に違いないわね」
シャルロットが言うことに同意せざるを得ない。
目の前に広がる施設を建設するには相応の財力が無ければ実現出来ない。
ルミナス城の敷地よりも広く施設も大きい。
クリス達はその様子に圧倒されていた。
「あの、クリス…」
ふと、少し不安を感じたマリアはクリスの手を握り始めた。
「ちょっと怖い?」
マリアは無言で頷きながらクリスの隣を歩く。
これは守ってあげなければならない、
クリスは心の中で覚悟を決めてマリアの手を握りしめた。
「お兄様、アリスも…」
羨ましそうな顔で見つめるアリス。
そんな様子を見て断るのも可哀想と感じてしまい今日のところは許可する事にした。
「ほら、アリス」
もう片方の空いた手を差し出した。
するとアリスは、まさか手を繋げると思っていなかったようで鼻息を荒くして飛び込んできた。
「アンタ達…
仲良いのは良いことだけど、
奥進んだら離してよね…」
シャルロットはジト目でクリスを見ている。
それに対してクリスは愛想笑いするしかない。
そしてクリス達は魔導船を降りて女神教本部に足を踏み入れるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この世界で賢者を口論で言い負かせる者はいない。
王との交渉で難なく魔列車の使用を許可させた。
勿論エルフ救出という名目で旅立つ事になっている。
それも賢者にとっては朝飯前だった。
「クレア、俺はどうしても必要なのか?」
魔列車は発車しており全員は客席に座っているが、
カートはまだ家に帰ろうと粘っていた。
「いい加減しつこいぞ、カート」
クレアはジト目でカートを見ている。
これで何回目のやり取りか分からない。
それだけに愛する嫁、娘と離れるのは辛いのだ。
「嫌だもん…
俺、行きたくないんだもん」
賢者は駄々をこねるカートを見て唖然とする。
まるで別人かと思うほどに変わっていたのだ。
今度イリーナが一体何をしたのか問い詰めようと考えていた。
「お前、ボーナスをゲイルが考えていると、
言っただろう?」
「ほ、本当なんだよな?
ボーナスが無いと絶対行かないぞ!」
カートは胸にしまってあるペンダントを取り出して、
最愛の嫁と娘の写真を見ている。
「ママ…」
一瞬カートが何を言い出したのか分からなかったが、
クレアは追求するよりもそっと聞かなかったことにした。
そしてクレア達の乗る魔列車もまた水中トンネルへと入っていく。
「綺麗…」
ユーリはその景色に見惚れているが、
賢者は目を輝かせたユーリを見て口を開く。
「大成功だな…
姿を変えて正解だったよ」
賢者は研究者に幻惑魔法を活用した魔道具を作らせてユーリの姿を変えることに成功した。
「まあ、全てを別人に変える必要はないさ
ハーフエルフを隠せば良いだけからな」
水の都にエルフが住んでいたのを思い出したためエルフの容姿に近づける作戦にした。
今のユーリは耳が尖っており目鼻も可愛らしさが消え更に美しさが際立っている。
「へ、変じゃ無いかな?」
「何言ってるんだ?
私が男なら押し倒すだろうな」
クレアは笑いながら今のユーリを揶揄っている。
普段のユーリも美しいが今のユーリは同性から見ても羨ましさを感じてしまう。
「あ、あねご〜」
予想外のクレアの口撃にユーリは焦っていた。
そして魔列車は水中トンネルを抜けていく。
近代的な景色に変わり乗客の心を奪う。
目に見える景色をクリスも見ていると思うと、
早く会いたいとユーリは胸を躍らせているのであった。
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