お笑いコンビ「サイコロカセットテープ」 ~ずっと嘘ついてました~
「「どうも~」」
二人の男が舞台へ上がる。
眼前には大勢の観客。
「僕らね、ずっと夢見たんですよ。
舞台へ上がるのをね」
「そうだったんですかぁ」
「なんで他人事だよ!」
「いろんな苦労がありましたねぇ。
万引きしたり、下着泥棒したり」
「犯罪じゃねーか!」
軽快なやり取りに観客の反応も上々。
今でこそ大勢を前に漫才をする二人だが、ここまでの道のりは険しかった。
「なぁ、頼む! この通りだ!」
田村は相方の崎山に土下座をする。
「年の離れた弟に嘘ついちゃったんだね?
正直に話すしかないでしょ、まだ売れてないって」
「でっ……でもぉ」
「はぁ、分かったよ。協力してやる」
根気強くお願いする田村に崎山が折れた。
二人は休館日の劇場を借りて漫才をすることにした。
もちろんお客はゼロ。
観客席にラジカセをいくつも並べ、笑い声を流して人がいるように装う。
ネタはサイコロで決めた。
これも田村の提案だった。
「この前、南極に行きましてね」
「何しに行ったんですか?」
「とんかつ屋に行ったんですよ」
「南極にとんかつ屋があるの⁉」
「バターロール食べました」
「とんかつ屋で?!」
支離滅裂な会話だが、テンポと勢いでごまかす。
「撮影したビデオを見て、弟は信じてくれたよ」
実家に電話して弟の反応を報告する田村。
「良かったな……」
「ああ、事故で怪我してからずっとふさぎ込んでて。
俺の活躍で勇気を与えられたらって思ったんだ。
協力してくれてありがとな」
「いいってことよ」
この出来事がきっかけで、二人はコンビとしての絆を深めた。
そして……。
ぎゃははははは!
開場が爆笑を包む。
二人の漫才は大うけだった。
「実は……話したいことがあるんです」
田村が予定にないことをしゃべり始めた。
「俺、ずっと嘘ついてました!
弟に偽のビデオを見せたんです。
売れてない時代に……売れてるって嘘つくために!」
「おい……」
「でも、ようやく嘘じゃなくなりました!」
開場がざわめきだす。
「今まで騙しててごめんな。
でも、今は胸を張って言える!
お兄ちゃんは人気芸人になりました!」
田村が声を張り上げると会場は沈黙。
静まり返ったところで……。
「ってゆー作り話!」
「うそかああああああい!」
盛大に崎山がずっこけると会場は大爆笑に包まれた。
――田村家
「お兄ちゃん、ようやく売れてみたいだよ」
年老いた女性が手を合わせる。
仏壇には幼い少年の遺影。
「双子のお前も生きてたらお笑い芸人になったのかね」