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なろうラジオ大賞3

お笑いコンビ「サイコロカセットテープ」 ~ずっと嘘ついてました~

「「どうも~」」


 二人の男が舞台へ上がる。

 眼前には大勢の観客。


「僕らね、ずっと夢見たんですよ。

 舞台へ上がるのをね」

「そうだったんですかぁ」

「なんで他人事だよ!」

「いろんな苦労がありましたねぇ。

 万引きしたり、下着泥棒したり」

「犯罪じゃねーか!」


 軽快なやり取りに観客の反応も上々。

 今でこそ大勢を前に漫才をする二人だが、ここまでの道のりは険しかった。




「なぁ、頼む! この通りだ!」


 田村は相方の崎山に土下座をする。


「年の離れた弟に嘘ついちゃったんだね?

 正直に話すしかないでしょ、まだ売れてないって」

「でっ……でもぉ」

「はぁ、分かったよ。協力してやる」


 根気強くお願いする田村に崎山が折れた。


 二人は休館日の劇場を借りて漫才をすることにした。

 もちろんお客はゼロ。

 観客席にラジカセをいくつも並べ、笑い声を流して人がいるように装う。


 ネタはサイコロで決めた。

 これも田村の提案だった。


「この前、南極に行きましてね」

「何しに行ったんですか?」

「とんかつ屋に行ったんですよ」

「南極にとんかつ屋があるの⁉」

「バターロール食べました」

「とんかつ屋で?!」


 支離滅裂な会話だが、テンポと勢いでごまかす。


「撮影したビデオを見て、弟は信じてくれたよ」


 実家に電話して弟の反応を報告する田村。


「良かったな……」

「ああ、事故で怪我してからずっとふさぎ込んでて。

 俺の活躍で勇気を与えられたらって思ったんだ。

 協力してくれてありがとな」

「いいってことよ」


 この出来事がきっかけで、二人はコンビとしての絆を深めた。

 そして……。




 ぎゃははははは!


 開場が爆笑を包む。

 二人の漫才は大うけだった。


「実は……話したいことがあるんです」


 田村が予定にないことをしゃべり始めた。


「俺、ずっと嘘ついてました!

 弟に偽のビデオを見せたんです。

 売れてない時代に……売れてるって嘘つくために!」

「おい……」

「でも、ようやく嘘じゃなくなりました!」


 開場がざわめきだす。


「今まで騙しててごめんな。

 でも、今は胸を張って言える!

 お兄ちゃんは人気芸人になりました!」


 田村が声を張り上げると会場は沈黙。

 静まり返ったところで……。


「ってゆー作り話!」

「うそかああああああい!」


 盛大に崎山がずっこけると会場は大爆笑に包まれた。






 ――田村家


「お兄ちゃん、ようやく売れてみたいだよ」


 年老いた女性が手を合わせる。

 仏壇には幼い少年の遺影。


「双子のお前も生きてたらお笑い芸人になったのかね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 弟さんは、まだ幼いころに亡くなってしまっていたのですね。 弟さんは、お兄ちゃんの面白い話が好きだったのかな? 天国の弟さんにも届くといいですね。 素敵なお話、読ませていただき、ありがとうご…
[良い点] 良い話。 素敵な嘘ですね。 そしてあらすじの書かれている千文字制限に対する吐露が切実。
[良い点] たしかに嘘は嘘だけど、そんな嘘はずるい! なんだか感動しちゃったじゃないですか!
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