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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人の子の願いから生まれ、願いで死んだ

作者: ナナシ

 戦いは好きではない。

しかし、私は戦神だから戦場に身を置いている。それが私の仕事であり存在意義であるからだ。

 私を作り上げた人類の思想通りに私の戦いの才能は他者を凌駕し、私の前には骸の山が転がる。

それが悲しくて仕方がないのに私は愛刀で敵を屠っていくしかなかった。

 「戦神様バンザーイ!戦神様バンザーイ!」

私を天界から呼びつけた人の子達が両手を上げて私を賞賛するが、彼らと違って私の心は喜びに震えることはなかった。

(すまない……すまない……人の子よ、どうか……どうか来世には幸せになってくれ)

切り捨てた人々が来世に幸せになる事を願いながら仕事を終えた私は再び天に帰る。




 「戦神が帰ってきた………恐や恐や……血の匂いを持って帰ってきおった」

「此度も酷い匂いをつけてきたのぉ……」

「天照大御神が何というか……」

 天界に戻ってきては他の神々に口々と言われる陰口に辟易としながら私は返り血として降りかかった穢れを落とすべく、禊の間へと向かった。

 禊の間の管理者である湯殿の神には嫌な顔をされたが、戦場を駆けるのが私の役目であるのも理解しているので私を禊の間へと通した。

 滝が落つる音が鳴り響くその場は相変わらず美しく、此度も酷い穢れに塗れた私はこの場を汚す事を躊躇ったが、この格好のまま最高神の前に赴くのはあってならない事なので慣れた手つきで戰装束を脱ぎ、其れらを滝から落ちてきた清き水にて清める。

 戰装束が清められたのを確認した後今度は私自身を清めるべく、滝に打たれに水へと入る。

 (っく………此度はだいぶ、酷いな………)

身に纏わりついた怨念や呪詛といった穢れが水で清められるたびに私は痛みに顔を顰めた。

悪事も働いていない幾人もの人々を斬って捨てた私には似合いの仕打ちかと自嘲しながら、穢れが完全に落ちる様にじっと痛みに耐えながら滝に打たれるのであった。

 禊を終えた私は最高神である天照大御神の元へと報告に向かった。

本当であれば報告などしたくもない事であるが、これが私の役目であるので私情を押し殺す。

 豊穣の神々が天照大御神がおわす間から出てくるや否や、私と目が合わない様に彼らはそそくさとその場を後にした。

穢れに塗れる神と会話もしたくもないその気持ちは分からなくもないが、そう明から様にされると胸の内がちくちくと痛む。

 「戦神よ、お入りなさい」

「はっ!失礼仕りまする」

天照大御神の軽やかな美しい声音が入室を促すので私はそれに従い最高神の間へと入室した。

「戦神よ……此度も多くの人の子を屠ってきたのですね………」

「………はい」

禊をしても祓いきれなかった残穢が纏わりつく私の姿を見て天照大御神は悲しげに目を細めた。

「このまま戦場に行けば貴方はその穢れのせいで墜ち神になってしまいます……戦場に赴くのはもうお辞めにしなさい」

私を気遣う最高神の言葉に私は嬉しさが込み上げたが、私はその最高神の言葉に従えなかった。

「私は戦神です、私から戦を取れば私という存在は無くなります……どうか、最後まで……最後まで戦神として有らせては下さらないでしょうか……」

戦は好きではない。

しかし、私は人の子に望まれて生まれた戦神である。堕ちてしまっても私は戦神として最後まで任を全うする義務があった。

私の固い意志に天照大御神は静かに瞠目すると「分かりました……貴方のお好きな様に致しなさい」と許可を下さりこう続けた。

 「人の子の願いに生まれ、その願いに殺されるのは何とも言い難いです………どうか、悔いのないように過ごしなさい」

その言葉に私はただただ頭を下げる事しかできなかった。




 そして、再び戦場に呼び出された私は呼び出した人の子の願いを叶える為に幾人もの人々を切り捨てていった。

やがて禊いでも身に纏わりついた穢れは祓えなくなり、とうとう私は穢れに呑み込まれた。

 失われていく意識の中で私はただただ安心した。

やっと、人を殺さなくて済む………と。

 人を愛し人の為に人を殺してきた戦神は堕ち神となり、無差別に人々を斬って捨てた。

人々は堕ち神となった戦神を恐れ、どうかあの堕ち神を何とかしてくれと願ったが、その願いは叶うことは無かった。

 何故堕ち神を放置するのかととある神が最高神に問うた所「優しい神を己等の身勝手な願いで堕としたその天罰です」といつもと変わらない優しい声で答えたのであった。

人々を慈しむ目で堕ち神となった戦神によって殺される人々を見つめる天照大御神に他の神々はやはり最高神は怒らせるものではないな、と深く……深く胸の内に刻むのであった。

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