第5話修行期間6days
ほんっとうに久しぶりの投稿です!
まっすぐと伸びる白い廊下を一人の男が歩いていた。羽織っているコートはボロボロでファンタジー世界の旅人が羽織っているような感じの物だ。短く切られた黒い髪の所々は赤や黄色に染められていた。
「ったく、何で俺がこんな堅っ苦しい所に来なきゃなんね〜んだよ」
ブツブツ独り言を言いながらも男はさらに奥へ進んだ。しばらく進むと白く巨大な扉が目の前に現れた。
男は何の躊躇もせず扉を開け部屋に入った。部屋にはとても大きな机が一つあり、その周りに3人の人間が座っていた。
「ちい〜す。あら?皆さんもうお集まりのご様子で」
「うるさい。一体誰のために集まっているか分かっているのか、アラクネ」
「本当、ファントムの言うとおり、私達にだって仕事があるのよ」
「セイレーンもファントムもお怒りはごもっとも。けど俺にだって仕事があるんだし、そこらへんは大差なしだ」
「お前が仕事をきっちりやっていたらの話だがな」
やる気の無いアラクネに対し、目元が隠れるほどのバンダナをつけた男、ファントムが食って掛かった。
「・・・ファントム。何が言いたいんだ?」
「お前が元々仕事にやる気が無いのはよく知っている。だがそれでも仕事を中途半端に終わらせるな」
「はて何のことでしょうか?」
「とぼけても無駄だ。お前が殺す対象を殺さずに逃がしたことぐらいお見通しだ」
「あらら、ばれてましたか」
「ここに呼ばれた段階で分かっていたことだろ。なぜ敵を逃がした」
この間の少年との戦いの事を聞かれてアラクネは少し考えるようなそぶりを見せた。
「・・・そうだな、興味を持ったから。かな」
「・・・興味?」
「あの少年。加賀美彰人は更に強くなる。あれ程の度胸を持った男だ、育てば恐らく俺の想像以上の実力になる。そうなるまでのお楽しみさ」
「くだらんな。その場で殺してしまえばいいものを」
「それは違う」アラクネは自らと同格であるファントムにそう言った。
「奴は、彰人は俺の巣から一度仲間とともに逃げた。蜘蛛は待つ生き物だ、じっくり待つさ。育った獲物が再び巣に掛かるまで」
「・・・許されるのは今回だけだからな。あともう一つ。勢力争いについてだ」
「あらら~。物騒な話題だこと」
「アラクネは真面目に聞け。今までの黒十字や忘却の十字架、お前が襲ったガキどもの他に何者かがこの世界にいる」
「何者かって何者だよ」
「それを調べるのがお前の仕事だ」
「えええ!?なんで!?」
「サボった分働け行って来い!」
そう言われながらアラクネは部屋から追い出された。
☆
一方その頃、件の彰人はというと
「・・・・・・死〜〜〜ぬ〜〜〜〜〜!!!!」
無人島で一人干乾びかけていた。
正確には無人島ではなく、音無八雲が創りだした疑似世界だ。
彰人は八雲からここで修行するように言われてから6日が経過していた。
「無理だって・・・・30日なんてやっぱ無理だって、マジで死んじゃうって!」
修行の内容だが単純にここで30日間過ごせというものなのだが。
現実的に考えたらおかしいだろ。30日って、無人島って。
「ガチで死んじゃうって!」
どれだけ文句を言っても誰も答えてくれない・・・ああ、寂しい・・・。
食糧のほうには問題ないと思っていたのだが数日経って問題に気付いた。
きのことか野草とかばっかり食ってせいで栄養不足に陥りかけているのだ。食いたいのは肉、肉なのだが。
「さすがに無理だよなぁ・・・」
この島で過ごして分かった事なのだがこの島は現実のものとの大差がほとんど無い。ウサギなんかの小動物も見かけたし川には魚もいた。
しかし自分がウサギを狩っている姿を想像すると・・・・ッウプ。吐き気が・・・。
それらが原因で今の状態に陥っているのだ。
「食わなきゃヤバイ。食わなきゃヤバイ。しかし姿を想像すると・・・うぷ」
一体こんなことに何の意味があるのだ。そもそもこうなったのも和田の奴が俺を置いて帰ったのが原因だ。っていうかよく考えてみると30日もここにいたら出席日数とか大丈夫なのか?絶対アウトだろ。
「・・・どうしたらいいもんか・・・・」
そんな事を言っている間にも腹は減ってくる。
「・・・もっぺん魚取りに挑戦するか・・・」
そういいながら俺はフラフラの足取りで川へ向かおうとした時だった。
「あ・・・やっぱ無理・・・」
バタンという音とともに俺はその場に倒れ伏せた。
やっぱ限界だ、これ以上歩くこともできない。意識も遠の・・・く・・・・・・。
そして俺の意識は完全に闇に堕ちた。
☆
・・・・・ここは・・・・もしかしてあの世か・・・・・てことは俺・・・・死んだのか・・・・?
よりによって異世界で栄養飢餓で?
何か・・・・個人的にやだな・・・・ってか誰か俺の顔たたいてない?
「もしも~し。もしも~~し!・・・正義の鉄拳!!」
「がばごっ!!!」
突然腹の辺りを激痛が襲った。自分が死んでいないことだけは理解できたが、今のであの世行きになりそうだ。
「おお。気がついたか少年」
「・・・誰だ・・・?」
まだ視界がぼやけていた俺は相手の姿をはっきり認識できていなかった。かろうじて相手が黒い服を着ていることと茶色い髪だという事は分かった。
「えらく疲れてるみたいね。よかったら食べる?」
そう言ってそいつは俺に何かを差し出した。よく見えないがこの匂いは。
「肉!!」
さっきまで衰弱していた俺はガバッと飛び起き肉に噛み付いた。うまい。うますぎる!!
「よっぽどおなか空いてたのね。そんなに勢いよく食べる人、初めて見たわ」
「肉が久しぶりすぎるんだよ!うまい!本当にうまい・・・・誰だか知らないけどサンキューな・・・」
視界がハッキリした状態でもう一度その人を見て気付いた。
「八雲・・・なんでお前がここにいんだよ」
そう。黒いドレスを着たそいつは俺をこの擬似世界に送り込んだ音無八雲本人だった。
「八雲・・・その呼び方ってことは・・・あなた私の生徒さん?」
「何当たり前のこと言ってんだ!人をこんなとこに放置しといて!」
いや放置の原因は和田なのだが
「ごめんごめんこっちにも事情があってね。それよりなんでこんなとこで餓死しかけてたの?」
「そっから話すのかよ。まあいいや実は・・・」
そうして俺は八雲にこれまでの事を説明した。
「なるほど。ウサギとかが捕まえられずに死にかけてたと・・・案外キミアホだね」
「なんだとゴラ!!」
「だって、自分が生きるために何かを殺すのは当たり前の事じゃない。自然界の常識」
「自然界の常識って・・・あのなぁ。たとえそうだとしても人の世の中じゃ」
「それがアホって言ってるのよ」
「な!?」
俺の反論を通さないどころか食って掛かってきた。
「自然と人を別と考えてる時点でダメなのよ。あなただって自然の一部。そう言っちゃえば人の世のほうがおかしいのよ」
「そうは言ったって・・・」
「こんな終わりのない話はおしまい。私はもう行くわ」
八雲はそう言って俺に背を向けた。
「おいちょっと!」
「ああそうだ」
八雲は再び俺のほうを向いた。
「強くなりたいのなら腹を決めなさい。変なプライドはサッサと捨ててね。あとヒントを一つ。この世界の森にはヤマアラシがいるわ。ハリネズミもね。じゃあね」
今度こそ八雲は俺の視界から消えた。
「行っちゃった・・・腹を決めろっか・・・」
強くなるために。今度こそあいつに勝つために。
「・・・よし。八雲のおかげで腹も何とかなったし、ヤマアラシ、探してみるか」
そうして俺は森の中へ入っていった。
・・・・そういえば
八雲のあの黒いドレスはなんだったんだろう?
それに
なんだかいつもの八雲と
違う気がした。
おひさしぶりです。雪無サンタです。
久々の投稿のわりにかなり短い小説です。ちょっとやばさを感じました。
あとちょっと前から遊戯王の小説を書いています。時間のある方はそちらも読んでくださると嬉しいです。