【仕方なく追放されちゃった結果】向こうは出世して、私も商品開発アドバイスの術に目覚めて幸せになりました!【あのギルドメンバーの決断はマジ英断やで】
「ちょっと話がある」
野宿をする3人組がいた。1人は大剣使いのエルリック。筋肉質でギルド【お助けや】のリーダーの男だ。もう1人の女は回復魔法使いのミモザ。優しく穏やかな性格である。
「なにー?」
呆れた声でエルリックに呼ばれた小柄な女性が、アイテム袋から自分のコネで調達してきた砂糖菓子を取り出し満足げにバリバリ食いながら聞き返した。
「今日限りでギルドを抜けて欲しい」
「えぇ!?」
転がり落ちる砂糖菓子。
「今までお前の家柄のお陰でいろんな商人とコネを持てたのも確かだ。だが、モンスター退治ではお前を庇いながら戦うのが大変なんだ。あと食費もかかりすぎだ。分かってくれ。コーネリア」
「うぅ、酷いですわ。ホンマ」
ポロポロ涙を流すコーネリア。ミモザは彼女の肩に手を当てて、
「ちゃんとお家まで届けますから。泣かないで」
と言う。
そう、これはある種の追放。しかし、コーネリアを危険から守るための決断でもあるのだ。彼女はわんわん泣きながら、仲間たちと抱擁を交わし、別れた。
◇◇◇
それから数年後。
ギルド【お助けや】は、エルリックの実力と、回復魔法が使えるミモザの希少さが買われ、その勢力を大きくしていった。今では名前を変えて【万世の剣】と呼ばれている。
一方。実家に帰ったコーネリアは退屈で仕方なかった。看板娘として人気があったが、やはりギルドのことを忘れられない。彼女はエルリックたちのように人命を守って将来石碑にされることを夢見ていたのである。
「うぅ、世の中うまいこといきまへんなぁ」
仕事が終わり、コーネリアは和柄のベッドの上でふてぶてしく横になっている。そんな彼女の姿を見て、周囲のお手伝いは苦笑い。
「あーあ、私もギルドで働きたいですわ。マジで」
駄々をこねるコーネリア。
彼女自身に何か才能があるわけではなく、たまたま銘菓の店の長女であるというだけで、剣も魔法も使えない。つまりは、ギルド向けの人間ではないのである。
「――姉さん。家の水まんじゅう、新しい味が出来たらしいですわ」
ノックもなしに妹が菓子を持ってくる。これは試食の合図。
あむっと一口。
「なんや、このナメクジみたいな、ぬっちゃぬっちゃ感は。中の餡も桜味なのか塩味なのかもわからへん。こんなんハッキリ言ってゴミやゴミ」
「そうでっか……」
「食感は、歯切れの良いわらび餅のようなのがええ。ケチって変な香料なんて使わんと、ホンマもんの桜を練り込んでそこに隠し味程度に調味料を振る。そうすれば、桜もち味の水まんじゅうになるはずや」
「厳しいでんな」
「当たり前や。生きることの最低条件は食うことやねん。それをアートとして売ってんのが家んとこなんやろ……はっ!」
コーネリアは言ってて何か閃いた模様。
「私、やっぱり商人の子や」
このうんちくそのものを商売道具にしよう。そう考えたのだ。長年続く、信頼された銘菓の店の長女の言葉を無視する菓子商人は居なかった。
「琥珀糖にしてはえらくツルツルで淡色すぎますなぁ。藍なら波打つグラデーションみたいに動きが欲しいで。層に分けて造るのはどうや?」
「イチゴ大福やのに、イチゴが邪魔になっとる。飴でコーティングするとかして水分をなんとかせぇ」
思ったことを商人たちに言っただけで【参考料】として、金が手に入る。コーネリアはこうして巨万の富を得た。
◇◇◇
余談だが。
ギルド【万世の剣】も、多くの人を救い助け、仲間を増やしながら、その名を後世にまで継承していったそうな。
めでたしめでたし
みんなが「こんなもんだい!ざまぁ!」な展開でした。