罰ゲーム
私の質問で無言になる。
一秒が普段の何倍も長く感じる。さっきよりも寒気がする。
確信があったとは言え不安が募る。いくら何でも熱のせいは無理があったと後悔する。
「……あ、あの、その、やっぱり無理して……言わなくてもというか……」
あまりの空気に思わず保身に走る。
「悩むな……」
しばらく考え込んでいた。
「逆の考えでも良い?」
「……逆……とは何か分からないですが、もちろん良いですよ」
「友だちだけって言われたら寂しい、とも思うな……」
不安だった気持ちが一瞬で晴れる。思わず寝ていた状態から身体を起こす。
「…………それって、つまり、友だち以上というやつですよね!!!???」
「まあ、そう言われたらそうだけど。逆に木陰は『俺が友だちだけです』って言ったらどう思う?」
「……それは…………大変申し上げにくいというか……」
「熱のせいなんでしょ?」
日向くんからのカウンターが返ってきた。
「……うぅ…………」
日向くんの不安そうな顔が目に入る。向こうは本心を教えてくれたのに私はまだ。
「……分かりました。……私も覚悟を決めます」
「……正直、私も日向くんと友だち以上でありたい……です……」
不安な表情から安堵の表情に変わった。
「……これで良いでしょうか?」
「うん、安心した」
「でも、これは熱が下がったら忘れるんだよね?」
「……一応は忘れます……でも深層心理に刻まれちゃいましたからね……」
「深層心理に刻まれるとどうなる?」
「……それは……私が日向くんを家に誘うときとかに、もう少し遠慮なくというか……『私なんかが誘って迷惑じゃないかな……』みたいなのが減ります」
「こっちも何かあったら誘いやすいってことか」
「!? ……ひ、日向くんから誘ってくれるんですか!?」
「誘うことに恐怖も減ったし」
「……なるほど。……もちろんです、もちろん、そのときはどんなことよりも最優先で」
「そこまでは流石に」
「……でも優先します」
「その気持ちはありがたく受け取っておこうかな」
一つの会話が終わりまた少し沈黙が起こる。何とも言えない真剣な空気感になる。
「それでさ、本題になるんだけどお互いに友だち以上の関係か、それ以上の関係を望んでるってことになるじゃん」
「…………なりますね」
「それってつまり付き合──」
「待って! ……待ってください!」
思わず割って入って止めた。
「……すみません、急に」
「いや、こっちも調子に乗りすぎたと思う」
「……いや、その日向くんが言おうとしたことが嫌って訳じゃないんです」
日向くんに誤解が無いよう一言ずつ整理して話す。
「……むしろ、むしろですよ、告白されたらOKしちゃいます。……そうなったら幸せだなって思いますし……」
「……でもダメなんです」
「……まだダメって意味で」
気まずさが少しずつ無くなっていくにつれて、私の方も言葉が詰まることなく出てくる。
「……だって想像してみてください」
「……ほら、初めの恋人で、私がどれだけ浮かれるか」
「……浮かれた私が何をしでかすと思います?」
真剣に考え込んでくれる。
「あんまり想像付かないが」
「……そんなのもう、浮かれた私が日向くんの彼女です、って黙ってられると思いますか?」
「あー確かに浮かれて言いふらすという気持ちも分かる。でもそれに問題ある?」
「……大ありですよ!」
「……だって私、クラスで根暗で陰鬱な人って思われてるんですよ! ……まあ事実なんですけど……」
言ってて悲しくなり言葉の終わりにつれて少しずつ口ごもっていく。
「……それが日向くんの彼女だ、ってなったら日向くんが変な目で見られるじゃないですか! ……好きな人に迷惑かけたくないですし…………」
私のせいで日向くんに迷惑がかかるのが耐え難い。
「……それにみんなから言われたせいで、日向が私の悪いところに目を向けるようになったら……先にあるのは悲しい結末ですよ」
「なるほど。木陰の言いたいことも理解した」
今付き合ってしまうと目先の時間は最高に幸せかもしれない。でもその先、その先にあるかもしれない悲しい終わりを迎えたくないのだ。
だから時間がほしい。
「でもそもそも根暗とか、陰鬱とか気にしないって言ったら?」
でも日向くんはその根本を気にしていない。
「……そ、それは…………ダメです! ……そんな甘いささやき、とにかくダメです!」
揺さぶられる。そんなこと言われたら絶対に浮かれてしまう。というより今もう浮かれてる。
「……ずるいですよ。……そんなこと言われたら、もう断りにくいですよ……」
「……でも私から告白したいですし…………」
日向くんに届かないようにボソボソと呟く。そして覚悟を決めた。
「……なので、私は今から日向くんにずるをします」
「ずるって宣言してするものか」
「……するものです。……いいですか、ずるしますからね」
「……それは日向くんに罰ゲームです!」
「……ゲームのときの約束のやつです。……覚えてますよね?」
「あー、俺が勝ったやつ」
「……記憶の改ざんですよー。……私の完全勝利でしたよー」
「……それで、今から罰を言います。……覚悟してください」
「……日向くんは私に告白禁止です!」
「えーそれはつまり?」
あまりの事態に日向くんの理解が追いついていないみたいだ。
「……つまりですよ、嘘告ってあるじゃないですか。……好きでもない人に遊びで告白する、それの反対です……」
「なるほど……」
これで私から告白ができて、それも自分の好きなタイミングでできるようになる。
私が変わる時間を作れる。
「……分かりましたか?」
「分かった」
「でもこれ俺が木陰に告白しなくても、周りに彼女だって紹介したらどうする?」
「…………あ、ずるです、ずる過ぎます、そんなの浮かれて破滅を迎えるかもです。……それも禁止にします」
「他の人に頼んで俺の代わりに告白させるとかは?」
「……ずるです。……余裕のOKが出ます、なので禁止です」
「熱が下がったら罰ゲーム忘れるとかは?」
よくもまあ、私を浮かれさせるずるい手ばかり思いつくものだ。まるで私で遊んでるかのように。
「……からかってます? ……だったら私も日向くんをからかっても良いんですよ」
「やれるものなら」
と挑発的な態度の日向くんに私も一泡吹かせてやると意気込む。
「……あー、日向くんはそんなにも私と付き合いですかー、悩みますねー。……あとひと押しどころか10000押しぐらいしてくれたら今すぐ付き合うことも考えますけどー」
「……それにご家族に私を紹介してもらって、何だったら日向くんが私の胸揉んだって伝えて逃げ場を無くし──」
「しょうがない、罰ゲームを受け入れよう」
流石に日向くんも家族に、誤ってとはいえ胸を揉んでしまったという事実は隠したいみたいだ。
「……はい、お願いします」
ようやく日向くんが罰ゲームを受け入れてくれるようだ。
「それで罰ゲームの期間はいつまで?」
期間か。期間ならもう最初から決まっている。
「……私が日向くんに告白するまで……です」
「……つまり、私がクラスでも日向くんの隣に居ても大丈夫になるまで待ってほしいってことです」
「分かった」
「でもプレッシャーにならないようにそこまで気にしなくても良いってことは言っておく」
「それでも変わるなら応援する」
ずるいな本当に。
ただもう決めたことだ。変わって私から日向くんに告白するって。
「……ありがとうございます。……日向くんにもっと好きになってもらえるように頑張ります」
「……そして告白しますから」
「……なので罰ゲームは忘れないでくださいね」
「しょうがない。罰ゲームだもんな」
「……はい、お願いします」
「……あ、でも私たちが友だち以上の関係であることは変わりませんよ?」
付き合っていないがこの事実はお互いの共通認識にしておきたい。
「……なのでぜひ日向くんからも誘ってくださいね!」
「そうだな。木陰の熱が下がったらな」
「……はい……これで安心して熱を下げれそうです」
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お久しぶりです。付き合うと思っていた方が居たらすみません。まだ付き合いません。
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