お粥とお姫様扱い
(寒い……)
熱がある中、言われたとおりおとなしくソファーで日向くんの手料理を待っていた。ここからなら料理している日向くんが見えるし、私も安心だ。
しばらくすると日向くんの「あ、ヤバいか」と声が聞こえてきた。
思わず寝ていた身体を起こしてしまったが、熱でボーッとするなか行っても足手まといかもしれない。せめて私にできる事をと声をかける。
「……日向くん大丈夫ですか? ……怪我は無いですか?」
「うん、大丈夫、大丈夫。心配させてごめん、すぐできるからもう少し待ってて」
「……はい、ありがとうございます」
日向くんの無事も確認できたし、料理が少し心配だけど言われたとおりにしていよう。
(私のアイデンティティを失わなくてよかった……)
申し訳ないが日向くんが完璧に料理をしなくて安心している自分もいた。
それに幸いなことにキッチンの様子を見ても大惨事ではなさそうなので、日向くんを信じて待つことにした。
「木陰、お粥できたよ」
少しして日向くんが申し訳無さそうにだが、お粥を私の座っているソファーにまで持ってきてくれた。
少し香るお粥の優しい匂いが体調の悪い私に元気をくれる。
「…………ありがとうございます。いただきます。」
(さっき失敗したような声が聞こえたし……でも私がここから見た感じ失敗する要素も無いと思うけど……)
一応の覚悟を決めて鍋蓋を開けた。
「……あれ?」
蓋を開けてみるとごく普通にできているお粥が現れた。
「……日向くん……そのさっき失敗したような声がしたんですけど……もしかして砂糖と塩間違えたとかですか……?」
「家の鍋の感覚で作ってたら、おこげが強めにできてちょっと失敗したかなって」
(なんだ……そんなことか)
大したことがなくて安心する。
「……おこげのあるお粥もありますよ」
「え、そうなの?」
「……はい、本当におこげ粥って言ってあるんですよ」
「へー、流石木陰詳しい」
「……ありがとうございます、それじゃあいただきますね」
熱々で湯気が出ているお粥をフーフッと少し冷ましてからいただく。
「……美味しい」
寒い身体に温かいお粥と程よくある塩気が空腹に染み渡る。
(それに誰かの手料理なんて久しぶり……)
日向くんの手料理、それに何もお腹に入っていないのも重なって人生史上一番と思える。
「……優しい味です」
「よかった」
その言葉もあって彼も安心していそうだった。
そこからは空腹もあってそこからは無言で食べ進めた。意図していないらしいおこげがただのお粥に変化もつけてくれていて食べやくご飯が進んだ。
「……ごちそうさまです」
「どういたしまして。食器運ぶよ」
「……あ、水に浸けといてくれたら後で洗います」
日向くんが「でも……」と言っていたが作ってもらった分私も何かしないとと思い振り切った。
未来の自分に洗い物は任せよう。
「……あの、ありがとうございました。……ご飯食べて大分元気出ました」
「うん。あとこれ紅茶淹れたから飲んで、風邪に効くらしいよ」
「……え、いいんですか」
「もともとこれは木陰の家にあったやつだし、遠慮する必要ないよ」
「……ありがとうございます」
日向くんが淹れてくれた紅茶を啜る。たぶんキッチンのところに置いてあったティーバッグを見つけて私のために淹れてくれたのだろう。
(……こんなにいたれりつくせりなんて……これが病人の特権か……)
物心ついた頃から看病をしてもらった記憶の無い私には今の状況はどんな薬にもなりそうだ。
「……ありがとうございます。……紅茶美味しかったです」
「大分顔色良くなって来たね」
「……そうですかね?……もしそうなら全部日向くんのおかげですよ」
「そんなに大したことはしてないよ」
「……私、そろそろ部屋に戻りますね」
一息吐いたので病人はベットに帰ろうと思う。
「ちゃんと歩ける?」
「……ご飯も食べましたし、これぐらい大丈夫ですよ……えっ!?」
ゆっくり立ったはずなのにフラッと来て再びソファーに座り込んでしまった。
「木陰!」
「……すみません、ちょっと立ちくらみがしただけです」
「本当に?」
「……本当です、熱はありますが無理に動くことさえしなければたぶん元気です」
「それを世間では病人と呼ぶが」
「……そうですかね……? ……でも軽口を言える程度には元気はありますよ」
心配させないために自分が少しでも元気だとアピールする。
「でも困ったな動けないとなると……そもそも木陰が部屋に居ないのは俺のせいだし……」
「……そ、そんなことないです! ……私がその気になって見に来ただけです……熱はありますが……」
そもそも日向くんが料理をしてくれるのを大人しく待って居ない私に全部の非がある。
「部屋まで運ぼうか?」
「……え、えぇ!? ……そ、その部屋まで運ぶということは、あれですか、部屋まで日向くんが私を運ぶということですか!?」
あまりの衝撃で同じことを繰り返してしまった。それほどの発言だ。
「かなり重症だな」
「……い、いえ、そこまで重症ではないんですけど……運ぶってその……具体的どのようなプランをお考えでいますでしょうか!?」
衝撃と焦りと浮かれた気持ちが合さってぐちゃぐちゃな言葉使いになってしまう。
「うーん、おんぶかお姫様抱っことか?」
「……おひ、お姫様抱っこ!?」
再びの衝撃で変な鳴き声みたいな声を出してしまった。体調不良がもはや嘘のように、そもそも自分の体調が悪いなんて思えないほど今は日向くんのお姫様抱っこに意識が向いている。
「そんなに露骨に食いつかれるのも怖いんだが」
日向くんの冷静な眼差しで自分の愚かさに赤面する。
「……い、いや、食いついてないです! ……食いついてないですけど……」
(ここでお姫様抱っこを頼むのは流石に厚かましいよね……いやでも……こんなチャンス二度と無いですし……ここは病人の特権を……)
日向くんからのお姫様抱っこという甘美な響きにどんなことよりも最優先で叶えてしまいたくなる。恥ずかしさよりも今は日向くんからのお姫様抱っこに夢中になってしまった。
「……えー、えっと、その他意は無いんですけど……本当に他意は無いんですけどおんぶよりも……お、お姫様抱っこをしていただけたら……ベットに下ろすときに日向くんが楽な気がしますよ……?」
ただ少しの理性が働いて遠まわしで様子を伺うように聞く。素直に頼めばいいのに恥をかきたくないために、何故か恥をかいてる気がしてしまう。
「なるほど……」
私の発言をゆっくりと受け止めて私を見つめる。その顔の奥には私を見透かしているようにも、私に引いているようにも思える。
(そ、そんな顔で見ないで……引かないで……)
「ふーん、本当に他意が無いなら別におんぶでもいいよね?」
私をからかう様にわざとらしく聞いてきた。完全にバレている。お姫様抱っこなんて言葉に思いっきり食いついた時点でどんな相手にもバレバレだろう。
「……うっ……ち、違うことも……無いんですけど……」
「素直に言ってくれた方にしようかなー?」
(バレてる……全部バレて遊ばれてる……日向くんに仕返しされてる……ゲームでボコボコにした仕返しか……でも……お姫様抱っこのチャンス……ここまで来たらヤケだ!)
「……えっと、その…………私を……その……お姫様にしてください!!!」
私の人生史において一番といってもいいほどの言い間違えをしてしまった。少しの間で全身の体温が跳ね上がる。
「……あ、違う、違います!……今のは間違いで……えっ、えぇ!!!???」
訂正する間もなく私は日向くんにお姫様のように抱えられた。
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