気まずい雰囲気
勢いよく手を引っ張って日向くんをリビングに連れて来たものの、こんな状態で会話できず少しの間部屋の中で立っていた。
(落ち着け私……)
深呼吸するも気分は落ち着かない、身体が火照ったままだ。
裸を見られてしまったという羞恥心が私の体温を上げ続ける。
「ど、どうする?」
日向くんから飛んできた言葉だ。ただいつもの日向くんとは違いどもってるような焦っているような感じがした。
「……そ、そうですね」
今すぐ料理を始めるのは少し早い時間だ、だから何かしらで時間を潰さないといけない。
いつもは日向くんと会話していつの間にか時間がたっている、でも今は普通の会話すらままならない。
それどころか日向くんの方向すら見れない。
「……ま、まだ時間ありますしね」
何とか言葉を紡ぐもそこから話が繋がらない。
「……い、一旦ソファーにでも座りますか、じ、時間ありますし……」
焦って同じことも繰り返す、会話ができない。
「う、うん」
私は手を引いたままソファーまで行って隣に座った。
しかし裾を掴んだ手を私から離してしまった。この辛い沈黙がそうさせた。
すると日向くんが気まずいまま遠くに行ってしまいそうで怖くなる。
(このまま疎遠になっちゃうのかな……)
自問自答するとさらにこの不安が強くなる。
それだけは、それだけは絶対に阻止しないといけない。この長い沈黙をどうにかしなければ。
(な、何か話をしないと……)
とりあえず当たり障りない話題を何か話して、それをキッカケに普段の会話まで持っていこう。
一度深呼吸をして日向くんに話を振る。
「…………い、いい天気ですよね」
「外、大雨だけど」
「…………あっ、本当ですね」
言われて思い出す。窓を見るとまだ雨は降り続いていた。そして私の会話の切り札が消えてしまう。
「…………」
話すことが無くなり私が気まずく黙り込むと、日向くんから会話を振ってくれた。
「木陰は雨に当たってたけどちゃんと身体温まった?」
「……は、はい!」
最高の助け舟だ。ここから会話を続けていける。
「……一度はその、す、すごく雨に濡れて寒かったんですけど、い、今は十分温まりました!」
「なら良かった」
日向くんは私に優しい言葉をかけてくれる。でも多分まだ私の方向は見ていないと思う。
私もあまり日向くんの方向を見れていないが、身体の向きで何となく分かった。
「…………ご、ご飯なんですけど、その、身体が温まりそうなの作りますね、日向くんはお風呂入ってないですし」
「うん、ありがとう」
返事を聞いて私は席を立つ。時間も沈黙が長すぎて大分経っていたので、ここからゆっくり料理をすればいい時間になるだろう。
「…………何か食べたいものってありますか? …………で、できればこの中で」
冷蔵庫の中にあった食材を並べて見せた。今日ぐらいに買い物に行こうと思ってたがこの雨のせいで行けていない。なので食材は少し心もとない。
「うーんこの中で温かいものか、煮込みハンバーグとか?」
「…………い、いいですね、今日はそれとスープにしましょうか」
ちょうどミンチもあったので日向くんの要望どおりで作れそうだ。残ってる野菜もスープにして冷蔵庫の中身を片付けてしまおう。
それに日向くんとの会話もどこかぎこちないが何とか話せている。それだけでひとまず安心できる。
「…………じ、じゃあ作り始めますね」
私がキッチンに移動すると日向くんも私が見える席に移動する。
いつもこうしてお互いが見える位置に居て、私は孤独じゃないと安心できた。
でも今日だけは違った。
(…………恥ずかしくて集中できない)
さっきの出来事があったから見るのも見られるのも恥ずかしい。顔が熱くなる。
「…………あ、あの、その、今日は、は、恥ずかしいので、も、申し訳ないんでさけどソファーで待ってて貰えませんか…………?」
言っているうちに全身が熱くなってかなりどもってしまう。
「う、うん、分かった」
「…………あ、あのソファーで横になってくつろいで居ても、ぜ、全然良いので!」
「じゃあお言葉に甘えてくつろいでいるよ」
そう言うと日向くんは私から見えないところのソファーに向かった。
(申し訳ないことしたな…………)
さっきまでは恥ずかしくてどうしようもなかったのに、居なくなると今は寂しい。会話すらもままならないのに何を考えているのだろう。
(…………か、会話で楽しませられないのならせめて、せめて料理だけでも日向くんに楽しんでもらおう)
取り柄のない私にできる数少ないことだ。頑張ろう。
そう決意して料理に取り掛かる。しばらくして料理が完成した。
「…………よし、完璧」
味見もして確認した。自信作だ。
(これで日向くんも内側から温まってほしいな…………)
私だけ温まっていたので日向くんに申し訳なく、そんな気持ちも込めた料理だ。
(それにしても大分時間経っちゃったな…………)
気合いを入れ過ぎたのもあるが、日向くんを待たせての料理はどこか時間が流れるのが遅く感じた。
それに料理中はお互いに何も話さずに居たせいもある。
「…………ひ、日向くん、料理できましたよ、お、遅くなってすみません」
私が日向くんを呼びに行くも返事がなかった。
「…………あれ?」
どうやら日向くんは長い待ち時間とソファーでくつろいで居る間に寝てしまったらしい。
私の家だけど寝れてしまうぐらいには私に心を開いてくれている感じがして嬉しい気持ちになる。
「…………ひ、日向くーん」
近くで呼ぶとかすかに「うーん」と返事が聞こえた。
(…………か、可愛い)
無防備な日向くんだ。それにいつぞや見られた寝顔の仕返しとして寝顔も見れて眼福。
思わずスマホを立ち上げてカメラを構えてしまった。カシャッと音が響いたが多分気づかれてはないだろう。
(って何してるんだ私…………)
思わず盗撮してしまった。冷静になり自分のしたことに後悔する。
慌てて消そうとするももったいなくて消せない。なにせ日向くんの写真だ。それも唯一日向くんの写真で寝顔、そんな貴重なものを捨てれなかった。
(バ、バレなきゃ平気だから…………お守りに…………)
そう言い聞かせて写真を保存した。
(そ、そうだ、ご飯だ)
違うことに気を取られてしまった。改めて日向くんを起こす。
「…………ほ、ほら、日向くん、ご飯ですよ」
身体を揺すって起こすと日向くんが目覚めた。
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