お風呂で幸せな夢を見る
雨で冷えた身体を暖めるためにお風呂に浸かる。ドアの一枚外には日向くんが居る。
「……あ、あのちゃんと居ますか」
「うん、居るよ」
と扉一枚を挟んで聞こえてきた。
(良かった、ちゃんと居た)
もし私がお風呂に入っている間に部屋をいろいろと探られると困る。なので日向くんにはすぐそこの目の届くどころにいてもらっている。
冷えた身体を温めてくれるお風呂が心地良い。
(今日は幸せだな……)
お昼を一緒食べる人ができて帰りは日向くんと一緒に帰れた。それも相合い傘に手繋ぎ、さらに晩御飯までのおまけ付きだ。
(最高……)
それに今日の相合い傘で帰るときには半分告白のようなことをしてしまった。それで日向くんにした私の告白はなんとオーケーだ。
つまりあとは私が自信を付けてゆっくりと関係を発展させていけばいい。
これから先のことを考えると自然と口元が緩む。
「……日向くん、居ますか?」
離れていないかの確認だ。いつもよりも少し声が高くなったが日向くんもすぐに返事をくれた。
「……あ、あの長湯しても良いですか……?」
「うん、木陰の気の済むまで温まって」
そんな優しい言葉をかけてもらった。
(なら長湯したいな……)
いつもはお風呂は短めに入る。その理由はお風呂では暇を潰せるものがなく時間が経てば経つほど孤独感が増してきて寂しくなるからだ。
最近分かったことだけど実は私は相当な寂しがりなのかもしれない。できることなら毎日、日向くんに構ってもらいたいしお話したい、ご飯も一緒に食べたい。
そしてなんとそれが今日は実現している。
気の済むまでお風呂に浸かろう、孤独感もないそんな幸せを噛み締める。
そんな中でも心配事がいくつかあった。
一つは日向くんとご飯を食べるための料理のことだ。あまり長湯するとその幸せな時間が無くなる。それに料理の作る時間も考えないとならない。
ただこれは私の手際でどうにかできそうだ。
二つ目は日向くんがお風呂を覗かないかだ。
(でも日向くん、さっき凄く私のこと見てたしな……)
そうさっき私の雨で透けた服を日向くんは凝視していた。それも凄く分かりやすいぐらいに。
普段男の人にそんな見られ方をするのは嫌いだ不快感がある、それにそもそも人に見られること自体が嫌いだ。
(でも日向くんのはあんまり嫌じゃなかったな……)
普通なら不快に感じることだが日向くんではそれが起こらなかった。
それどころかむしろ、『日向くんは私なんかに興味があるんだ!』と思えて嬉しい気持ちが顔に出そうなのを必死に隠したぐらいだ。
(さすがに見られて喜ぶような女の子と思われたくないよね……)
そんな考え事で少し逸れたが心配事の二つ目は、日向くんがお風呂を覗く可能性が十分にあるということだ。
そしてこれは私の力ではどうしようも無い。
(もし覗かれたら……)
裸なんて同性にも見られたことがない。それだけ人との関わりが無かった。
でも今、日向くんに見られる可能性がある。
(覗かれたら一生責任取ってもらおう……)
裸を見られるなんてもうお嫁に行けない。
そんな考えが私にはあった。もちろん少し古い考えなのも分かるが私の恋愛観はいつも読んでいる恋愛小説で形成されている。
なのでピュアな恋愛を夢見てしまう。
だからもし裸を見られたら日向くんには無理やりにでも責任を取ってもらわないといけない。
つまり責任を取って日向くんは私と結婚して一生を私の隣で二人仲良く幸せに過ごしてもらうことになる。
(日向くんと結婚……)
毎朝日向くんを寝顔を見て、私の作った朝ごはんを食べてもらう。お昼はお弁当だけど夜は一緒に二人で食べる。
それで毎日、日向くんにずっと甘えてずっと褒めてもらう。
(幸せだ……)
私の考える最高の幸せだ。
それに日向くんが私に気があることも分かった、この妄想が実現する可能性は十分にある。
(でもいっそ覗かれた方が……)
どうにか日向くんに一生私と添い遂げてもらいたい、その大義名分を得られるのならいっそと考えてしまう。
そして日向くんに責任を取ってもらって幸せを掴みたいし日向くんをとびきり幸せにしたい。
(だって私なんかに好意を向けてくれてるんだよ……)
こんな根暗な私を好きになってくれた日向くんを絶対に幸せしたい。
(ってなにを妄想してるんだ私は……)
幸せな妄想に身体の体温が上がりお風呂と合わさってのぼせてしまいそうだ。
このままでは茹で上がってこの最高に幸せな時間が終わってしまう。
なのでヒートアップする妄想を一旦終わらせて今度は日向くんとお風呂から誰にも邪魔されないし聞かれない二人だけの会話を始めた。
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