雨とお風呂
木陰の家に着きひとまず息をつく。
そこでも気になるのははさっき気づいた疑念だ。
(もし、もし木陰に告白したら……)
そんなことを考えてしまう。
木陰からの好意は感じる。それに俺も木陰のことが気になっている。
ならば告白して振られず付き合えるとも思う。
(いつ告白する……?)
そうなるとこれが一番の悩みどころだ。
なにせ人生で初めての告白だ。絶対に失敗したくない。
もし初めての告白が失敗に終わればこれから先の人生できっと引きずって生きていくことになるだろう。
(絶対に成功させたい)
すると木陰から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「……あの日向くん?」
「えっ、なに、どうかした?」
焦って微妙な返事をする。
「……いや、ずっと玄関で靴も脱いでないので……雨で濡れて遠慮してるなら気にしなくて良いですよ……?」
どうやら俺が濡れた足で家に入るのを遠慮していると木陰は思ったらしい。
「いや、ちょっと考え事をしてた」
「……そうなんですか。でも私の言った通り濡れてても遠慮せずに家に入って良いですからね」
「ありがとう」
「……それに……ほら私なんかびしょ濡れですよ」
と木陰が自分の姿をアピールしてきた。
「確かに」
木陰は一度雨に打たれていたのでかなり濡れていた。身体からまだ少しずつだが水が滴っているぐらいだ。
「……日向くんのおかげで家に帰れてました。……本当にありがとうございます」
「そんな、たまたま会ったし木陰が無事に帰れてよかったよ」
木陰が感謝してくれているし多少の苦労だったかもしれないが、相合い傘にご飯まで作ってもらえるなんてむしろこっちが感謝したいほどだ。
(それにしても木陰かなり濡れてるな……)
身体を冷やしすぎないか心配なほどだ。木陰を見ていると濡れた服が貼りついて下着が透けていた。
二人で帰るときは隣を歩いていたので気づかなかったが一度気づくとどうしても視線がそこに向かってしまう。
(まて俺、木陰は一度変なヤツにそれで絡まれてるんだぞ)
と過去の出来事を思い出し心を整える。一度それで嫌な思いをしている木陰をそんな目で見るなんて彼女が悲しむかもしれない。
しかしやはり目の前の存在からは視線を逸らせられない。木陰というスペシャルなアクセントが重なりどうしても見てしまう。
「……どこ見てるんですか」
視線を上に向けると木陰とバッチリ目が合う。
「えっ、あ、その」
ついに木陰に気づかれてしまった。
「……もう日向くんも男の子なんですね」
「ご、ごめん」
木陰はそんなことを言ったが嫌そうな顔でもなく呆れたという表情でもなかった。
「……それにこんな服のままで居て見るなという方も無理ですよね」
「いや、でも見てたこっちが悪いよ。ごめん」
もう一度の謝罪を聞いて木陰が
「……分かりました。今回は雨の中送ってくれましたし気にしません、不問です不問」
と言う。
意外なことに木陰は許してくれた。
「……それで日向くん、ご飯はまだ先でも良いですか?」
「えっ、うん」
「……濡れっぱなしですし私は今からシャワー浴びますね」
木陰が振り返りお風呂場に歩いて行く。
「俺はどうしてれば良いかな?」
「……そうですね……そこで少し待ってください」
木陰が脱衣場の前で待つように指示する。彼女方は脱衣場の方に入り扉を閉めておそらく服を脱ぎ始める、そんな音が聞こえてきた。
(木陰に告白しようと思ってたのに何をしているんだ俺は)
木陰のことをいかがわしい目で見た。そしてそれがバレた。
それなのにすぐ告白するなんてできないだろう。
(一旦少し時間を開けよう)
そしてできれば良い感じの雰囲気のときに、と心に決めた。
「……あ、日向くん脱衣場に入って来てください」
おそらく服を脱ぎ終わった木陰からとんでもない指示が来た。
「えっ、本当に!? 何言ってんの!?」
動揺の出た返事をする。
「……だって、その身体凄く冷えたのでお風呂に浸かりたいんです」
とさらに木陰は続ける。
「……でも大分待たせてしまいますし、それに日向くんが私の目の届かないところで何をするのか分からないですので、お話しながら入ろうかなと」
木陰の考えていることが分かった。しかし扉一枚で木陰は裸、それも開こうと思えば開ける状態だ。
「ほ、本当に入って良いの?」
「……はい、日向くんを信用してますよ」
そう言われては絶対に覗けない。まあもとから覗いてはいけないが。
「……私ずっと一人だったのでお風呂に入りながらのお話は初めてなんですよね、だから少し楽しみです」
と木陰が楽しそうな声色で言う。
「え、そうなの?」
「……はい」
方や俺は心臓が張り裂けそうなほどに緊張と興奮していた。
「……あ、さっきの服は隠してますけど探したらダメですよ?」
「もちろん」
そんな入浴中の木陰と扉一枚挟んでの会話が始まった。
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腱鞘炎になって執筆がまったくできませんでした。すみません。
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