相合い傘
傘に当たる雨音を聞きながら木陰と一緒に歩く。彼女が傘を忘れて雨宿りしているところをたまたま見つけて一緒に相合い傘をしながら帰る形となった。
「木陰、もう少し内に入りなよ」
彼女は雨に打たれて濡れた身体だからか遠慮して少し傘の徐とに居た。
「……い、いえ、日向くんが私のせいで濡れてしまいます。私はもうすでに雨で濡れているので平気です」
と木陰が俺に気を使って断る。
やっぱり相合い傘で帰るため肩がふれ合ってしまう。雨で濡れた木陰はそこを気にしてくれているらしく多少傘からはみ出て雨に打たれていた。
「良いよ、別に」
木陰と肩がふれ合う距離まで詰めた。
「……ひ、日向くんが濡れますよ」
「もう濡れたし平気」
さっき木陰に言われたことを使ってなんとか傘の内側に入ってもらえた。これで木陰が雨に当たることはなくなった。
「……あ、ありがとうございます。……で、でも申し訳ないです……」
「お礼は後でご飯でもらうから気にしないで」
木陰が『自分のせいで』と引きずらないように考えて言う。これで気にしないでくれればこっちも嬉しい。
「……そうですね……美味しいの作ります」
「楽しみにしとくよ」
そう答えると木陰は笑顔で返してくれた。
しばらく歩くと信号に引っ掛かってしまった。木陰の様子を伺う。
雨に降られて髪からも雫が滴るほど彼女は濡れていた。
「大丈夫、寒くない？」
「……かなり寒いですね…………」
聞いてはみたもののなにか抜群の解決策を持っていなかった。
「……そ、その、あの、、少し甘えても良いです……か？」
とても言いづらそうに聞いてきた。
「良いよ」
彼女が安心して話せるようにと彼女のお願いを聞く前に答えた。
「……あ、ありがとうございます」
と木陰が感謝の言葉を言う。ただ何をどう甘えるのか聞けず仕舞いだった。
すると木陰が俺の手を握ってきた。
「えっ！？」
「……そ、その寒いので……手を、手を繋いでください！！！」
顔を赤らめながら言う木陰。照れた表情は可愛くなんでも許せてしまう。
言われたとおりに木陰の手を握り返す。
「……ああ、あ、ありがとうございます」
雨に濡れた木陰の手はとても冷たかった。
雨の降る中を相合い傘をして手を繋ぎながら進んで行く。
二度目だからといって慣れることはなく緊張してしまう。
「……そ、その、私からお願いしてなんですが、制服で、こんな姿見られたら誤解されませんか……？」
多分この言葉の裏に木陰は迷惑をかけてしまうのでは、と心配しているのだろう。
繋いだ手は力んでいた。
「雨で視界悪いし、傘もあるから学校は分かっても誰かまでは分からないと思うよ」
「……そ、そうですね」
少し安心したのか力んで手を繋いでいた木陰の力が少しずつ弱まっていく。
「……そ、その、もし、もしですよ」
と木陰がかなり前置きして話す。
「……もし、他の人に見られて付き合ってるって誤解されたらどうしますか……？」
木陰の方を見てみると真っ赤な顔だが真剣な表情で聞いていた。
「そうだなぁ……」
聞かれたことを真剣に考える。ただ木陰と付き合ってると誤解されるのは俺の方は気にならなかった。
むしろみんなの知らない一面を知っている分鼻が高く思えた。
「そのときは誤解じゃなくて本当にそうしてみるとか？」
具体的な言葉は濁したものの誤解されたらいっそ付き合って誤解じゃなくしてしまえばいい、という飛躍した答えだ。
木陰は何も言わないが繋いだ手は徐々に温かくなっている。
何も言わないけど繋いだ手がまんざらではないと答えてくれた気がする。
（やっぱり木陰は……）
前に思った疑問。昨日木陰が俺の帰りを着けたときのことだ。
あのときは木陰が唯一の友達を心配してあとを着けたと言い聞かせたが、今この状況になって違ったと理解する。
「……本当に迷惑じゃないですか……？」
「全然、迷惑じゃないよ」
そう答えるといっそう手が温かくなった。
「……も、もし、誤解されたらです……よね……？」
「そうだね……」
お互い恥ずかしくなり視線を外す。
「……ご、誤解されたときは、そ、そのときはよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
きっとこの雨の中を俺と木陰だと分かる人は居ないだろう。これは意味の無い約束だろう。
でもそんな幸せな約束をして雨の中を木陰と一緒に帰った。
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