屋上で友達と!
「…………な、なんとか買えましたね」
私がお昼のし烈な争奪戦を乗り切り疲れながら言う。
「うん、買えた買えた。どこで食べようか?」
と前田さんは疲れている表情はなかった。どうやらいつもお昼の争奪戦をしているらしく平気な顔だ。
「…………どこにしましょう」
二人とも場所を決めるのに戸惑う。
「暗野さんはいつもどこで食べてるの?」
「…………わ、私は屋上です」
「屋上か…………」
みんな最初こそ屋上に行けると期待したもののあまり良い場所ではなかった。屋上は学校に慣れてくるほどみんな避ける場所だ。
「じゃあ、せっかくだし屋上で食べよかっか」
前田さんがそう言ってくれたので二人で屋上に向かった。
「相変わらず汚いわね」
屋上の扉を開けるなり前田さんが言う。思ったことをそのまま言うタイプっぽいので私も少し話やすい。
「…………そうですね」
彼女の言うとおり屋上はコンクリートが粉を噴いていたりとかなり汚い。
だからみんなも初めは屋上に来るがあまりの汚さにみんなすぐ違う場所で食べるようになる。
なので一人ぼっちの私には居心地の良い場所だった。
(……まさか誰かとここでご飯を食べられるなんて)
過去の私のことを考えれば大きな進歩だ。
「…………あ、あのあっちの方は私が少しキレイにしてるのでそこで食べましょう」
「本当!?」
「…………はい」
少しでも過ごしやすいようにと過去の私がキレイにした場所がある。私はそこでいつもご飯を食べていた。
「本当にここだけちょっとキレイだね」
「…………はい、少し頑張りました」
少しだけキレイな場所に二人で腰かけた。そしてさっき買ったパンを二人で食べ始める。
(……いつ以来だろ。学校でお昼を一緒に食べるのは)
多分ずっと前の小学校の頃みんなで食べていた給食以来かもしれない。
そんなことを思っていると
「暗野さんはさ、日向のこと好きなの?」
あまりに急で核心をついた質問に思わずむせる。
「あ、やっぱり。分かりやすい」
私の反応も分かりやすかったらしく一発でバレてしまったらしい。
「…………ひ、日向くんには絶対言わないでください」
焦りからとっさに口から出てしまった。
「え、実は日向って呼んでるの!?」
やっぱり、言ってしまった瞬間に気づいてももう出遅れだ。
「…………私が下の名前で呼んでと頼んだらひ、日向くんも呼んでと言ってくれたので………………」
仕方ないので正直に言う。変に誤魔化しても誤解を生んで日向くんに迷惑をかけることだけはしたくなかったからだ。
「じゃあさ、私も下の名前で呼んでよ」
「…………え、ま、前田さんもですか……?」
「嫌なら別に良いけど」
「…………い、嫌じゃないですけど……私なんかが呼んでも良いんですか?」
「全然! むしろ大歓迎よ」
と前田さんが言ってくれたので私も腹をくくって呼ぶことにした。
「…………み、美冬……ちゃん」
小声で恐れながら言う。そんな私が名前で呼ぶと前田さんは凄く嬉しそうな表情をしてくれた。
そんな顔を見て失敗は無かったと安堵する。
「じゃ、私も名前で呼んでも良いかな?」
「……えっ? ……も、もちろんです!」
前田さんの提案にすぐさま乗る。
名前で呼び合う、これは日向くんとで経験したが距離がすぐに近くなって仲良くなれる呪文のように思えていたからだ。
それに名前で呼んでもらえるぐらいに認められている気がして嬉しい、と私にとって良いことずくめだ。
「じゃ、木陰ちゃん」
「…………は、はい!」
「そんなに固くならなくてもいいよ」
と笑顔でいってくれた前田さんに私の緊張も少しずつほぐれていく。
「ねえねえ、木陰ちゃんは日向に告白しないの?」
名前で呼んでもらえることは嬉しいが話の内容は恐ろしいものが飛んできた。
「…………えっと、その、なんて言うか、その、フラれると……関係が終わりそうで、その、言えないです……」
今私が告白するとフラれて日向くんと二度と話すことができない、そんな風に可能性が怖くて足踏みしている。
だから、日向くんに自信を持って友達だと、そして彼女だと言えるぐらいの自信がついたらと決めていた。
「えー、言いなよ。私はいつも言ってるけど平気だよ!」
確かに前田さん、いや、美冬ちゃんはいつも斎藤くんに思いを伝えている。
でも美冬ちゃんと私は違う。
「…………そ、それでも無理ですよ、フラれるの怖いです……」
「えー、そうかな。私は日向も木陰ちゃんのこと好きなんじゃないかなって思ってるよ」
「…………や、やっぱりですか!?」
勢い良く食いついてしまった。
「う、うん!」
私の異様な食いつきに美冬ちゃんも少し動揺したみたいだが意見を変えることは無かった。
「木陰ちゃんも気づいてるなら言えばいいのに……」
日向くんが私に気があるかもしれない。それは前から思っていた。
だって一緒に帰ってくれるしご飯も食べに来てくれる。それに服も選んでくれたし一緒にゲームもした。
そこまでしてもらっていて気づかないほど私は鈍感でもない。
そして美冬ちゃんに言われてさらなる確信を得た。
「…………わ、私が自信を持って日向くんの友達だ、彼女だ、って言えるぐらい自信がついたら告白しようと思ってます」
美冬ちゃんを信頼して自分の決意を話す。
「そうなんだ! 私も手伝うよ!」
名前で呼び合い、恋バナをし、一緒にご飯を囲む。そんな時間が美冬ちゃんと本当に友達に慣れた気がして嬉しい。
「……ありがとうございます! ……頑張ります!」
そして応援までしてもらえた。
(なら頑張るしかないよね!)
時間はまだかかるかもしれないが今は美冬ちゃんとも話すようになった。
少しずつ進んで行けてるそんな気がする。
「じゃ、恋する乙女同士さ、一緒に自撮りしよ」
「……地鶏って鶏ですか?」
聞きなれない言葉なので自分の聞き覚えのあったものかと確認する。
「違う、違う。スマホ貸して」
美冬ちゃんに言われるままスマホを渡す。ロックも解除してだ。
「自撮りはコレよ」
と美冬ちゃんが私の近くに来てカメラを起動した。
「はい、笑って」
美冬ちゃんに言われたとおりに笑顔を頑張って作る。
そしてシャッター音が聞こえた。
「よし、どんな感じかな」
と撮れた写真を二人で一台のスマホを覗き込んで確認する。
私が少しぎこちない笑顔だがキレイに撮れていた。
「…………あ、ありがとう、ございます」
誰かと一緒に写真を撮る。久しぶり過ぎて感動すらしてしまう。
(今度お父さんにも見せよう)
そう心に誓う。
「そ、そんなにかな」
私の嬉しそうな声のせいか美冬ちゃんも少し驚いている。
「じゃ、それ日向に送りなよ」
「…………えっ、日向くんにですか?」
美冬ちゃんの恐ろしい提案に聞き返してしまう。
「だってせっかく撮ったし、それにあんまりほったらかしにしてると他の女に目移りしちゃうよ?」
「……そ、それだけはダメです……!」
そう言われて迷いは無くなりすぐにメールの準備をする。
「……そそそ、送信ボタン押しますよ……?」
「押せ、押せ」
と美冬ちゃんの後押しもあり、いつもなら止めているところだがメールを送ることができた。
『一緒にお昼ご飯を食べる友達ができました!』
と写真付きで。
どんな返信が来るのか今から楽しみで仕方ない。
しばらく二人でソワソワしているとメールの通知音が鳴った。急いでメールを確認する。
『良い写真だね。次は笑顔の練習かな』
と日向くんからメールが来た。
「…………喜んでくれたんですかね……?」
心配になり美冬ちゃんに聞く。
「大丈夫、気になってる人から自撮りの写真が送られて来て喜ばない男子は居ないから」
そう説得されて私の心配も無くなった。
(日向くん、私のこと好きなんだ……)
美冬ちゃんの後押しで確信に変わったこの情報が嬉しく顔がニマついてしまう。
「あ、木陰ちゃん! 今の幸せそうな笑顔撮らせて!」
私の顔を見て美冬ちゃんが言う。
「…………む、無理ですよ」
「日向も喜ぶから!」
「……え、日向くんもですか?」
「ほら、写真」
「……やっぱり無理ですよ」
「日向も喜ぶ!」
「……え、やっぱりそうですか……?」
そんな会話がお昼休みの時間ギリギリまで続いた。
誰かと一緒に楽しくて幸せなお昼休みを過ごしたのは初めてだった。
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