櫛とお昼
お風呂に浸かって心の整理も済ませた。あとは寝るだけだ。
脱衣場から部屋まで歩く。その道中も今日は私一人だけなので全裸だ。
「…………今日は安眠できそう」
そんなときに呟く。心の声が出てきてしまった感じだ。
朝は少し嫌なことがあったものの、放課後からは私にとって嬉しいことずくめだったので一日の終わりも機嫌が良かった。
「…………連絡先また増えちゃったな」
自分の部屋に戻り着替え終えてスマホを確認した。
そこには今日連絡先を交換して前田さんの名前が載っていた。
「…………これで三人目!」
クラスのグループメールは除くとして日向くんに青木先生、そして前田さん。
私の連絡先も高校一年生の頃のゼロ件から今は三件だ。そんな連絡先を見ると自分が少しずつ成長している気がして嬉しかった。
「…………お風呂も入ったし寝よっと」
部屋の明かりを消して布団に入る。
日向くんに取ってもらったぬいぐるみに抱き付きまぶたを閉じる。
今日は日向くんに家まで送ってもらえた。前田さんと連絡先を交換して電話で話した、明日も話そうと言ってもらえた。そんな記憶が私を幸せな気持ちに包んでくれた。
そんな幸せな記憶に導かれるまま私は至福の眠りについた。
朝、私は執拗なアラームで目が覚めた。
「…………ん、今何時……?」
重たいまぶたを擦って時間を確認する。
すると時刻は7時40分を指していた。
「……えっ!?」
普段目覚める時間からかなり遅れていた。
その理由が昨日の幸せな記憶たちのもたらしてくれた安眠なのだとどこか冷静な自分が分析していた。
「……って、そんなこと考えてる場合じゃない!」
慌てて学校の支度を始める。こんな時間に起きてしまった以上お昼ご飯を手作りするのは無理だ。
諦めて学校で買うことにする。
そして急いで着替えてお母さんの写真の飾ってある額に「……行ってきます!」と勢い良く言って私は家を出た。
学校のアラームと共になんとか教室の自分の席につけた。本当にギリギリセーフといった具合だ。
(なんとか間に合った……)
走って来たので自分の席に着いたと同時に息をつく。
すると日向くんから挨拶してくれた。
「おはよう、暗野さん」
「…………お、おはよう、ございます、成田くん」
まさか日向くんから挨拶してもらえるとは思っていなかったので少し不恰好な挨拶で返してしまった。
これでは二日連続で続いていた元気な挨拶は失敗と言える。
「おはよう、暗野さん」
私にもう一人挨拶をしてくれる人が居た。それは斜め前の席に座っている前田さんだ。
昨日連絡先を交換して今日私に挨拶してくれた。私には難しい芸当を平然と成し遂げていた。
「…………おお、お、おはよう、ございます、ま、前田さん」
話慣れていないのが丸分かりな挨拶を返してしまった。私なんかに挨拶をしてもらえたのが嬉しくそんな動揺が混じってしまったからだ。
「暗野さん、寝癖凄いよ?」
寝坊して鏡をほとんど見ずに家出たのでそこまで気が回っていなかった。ただ学校に行く道中に自分視界の端に映る髪になんとなくそんな感じがしていたがどうしようもできなかった。
前田さんに指摘されて慌てて手櫛で整えようとする。しかしそんな簡単に消えてくれるような寝癖ではなかった。
私の寝癖を見た日向くんの表情は少し口元が緩んでいるように見えた。
(お願いだから消えてよ…………)
なによりも隣の席の日向くんの方向に寝癖がハネている、それに寝癖姿を日向くんに見られていると思うと恥ずかしさで顔が熱くなってしまう。
「ほら、私の櫛貸してあげる」
寝癖と死闘してると前田さんがそんな私に櫛を貸してあげる、と言ってくれて櫛を私の前に差し出す。
「…………良いんですか?」
「うん」
前田さんが差し出してくれている櫛を借りて寝癖を整える。今日の湿度が高いだけあり少しずつだがマシな髪型になってきた。
「それ貸しててあげる」
「…………あ、ありがとうございます」
前田さんから借りた櫛でしばらくの間、寝癖を整えることに専念していた。
授業終わりのチャイムが鳴りお昼休みの時間になった。
「…………あ、あの、こ、これ、ありがとうございました」
お昼の時間ともあり無事に寝癖を直すことができた。これで無事恥ずかしい髪型とはおさらばだ。
寝癖も直ったので借りていた櫛を前田さんに返す。
「うん、寝癖直ったみたいだね」
「…………はい、おかげさまで」
前田さんが私に貸してくれた櫛をカバンに直す。
「…………あ、あの私はこれで」
前田さんと少しの会話をして私は席を立つ。寝坊したのでご飯が無い、なのでお昼ご飯を買いに行くためだ。
「暗野さんもご飯買いに行くの?」
暗野さんもということはどうやら前田さんもお昼ご飯を買いに行くらしい。
「…………はい…………ね、寝坊して用意できなかったので」
「なら一緒に買いに行こ?」
「い、良いんですか?」
「もちろん、それでそのあと一緒にご飯食べよ?」
昨日と同じような前田さんからのお昼のお誘い。昨日の私ならまた同じように逃げ出していただろう。
しかし今日の私は違う。
「…………はい、一緒に食べましょう!」
そんな返事をすると前田さんも嬉しそうに頷いてくれる。
前田さんに手を引かれて一緒に食べるご飯を買いに言った。
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前回、この話で前半が終わると言いましたがもう一話だけ続きます。
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