お父さんと久しぶりの夕食
「…………その、久しぶりですね」
久しぶりだからかどこかよそよそしく接してしまう。
「……そうだな、久しぶりに家に帰って来たからな」
そんな返事を聞いたあと沈黙が生まれてしまった。
「…………い、今ご飯作ってますけど、ご飯食べますか?」
「……頼むよ」
二人のご飯を作る。日向くん以外とご飯を食べるのは本当に久しぶりだ。
「……木陰はいつからそんな他人みたいに接するようになったんだ?」
お父さんからの質問に思わず料理の手が止まる。
「…………その、久しぶりでどんな風に話して良いのか…………分からなくて……」
実際、お父さんと話すのはかなり久しぶりだ。それに普段から人とコミュニケーションを取って来なかった私にはどんな距離感で話して良いのか分からなかった。
「……そうだな、親子なんだから気を使わない程度だな」
「…………分かりました」
そんな返事をするとお父さんは少し難しい顔をした。
「…………ご、ご飯できましたから運びますね」
気まずい空気を誤魔化すように料理を運ぶ。
「……手伝うよ」
お父さんが料理を運ぶのを手伝ってくれた。
思わず癖で『危ないから良いですよ』という言葉が出そうになったが、なんとか声に出さずに耐えられた。
「…………ありがとうございます」
そして二人で席に着いた。久しぶりのお父さんとの食事だが凄く気まずかった。
それに私はあまりお父さんと一緒にご飯を食べるのは好きじゃなかった。別にお父さんが嫌い、なんて理由は無い。
理由は簡単だった。
いつもご飯を食べるとお父さんは────
「……木陰、学校楽しいか?」
と質問する。これが私はどうしても苦手だった。
心配させないようにと私はいつも『うん、楽しいよ』と答えていた。
しかし、実際は友達も居なくて、周りからもいじめの様なこともされていた。そんな中で『楽しい』答えるのは辛かった。
でも今は違う。そんな私にも友達ができた。
「…………うん、今ねすっごく楽しいよ!」
多分、いつも答えていたときよりも元気に答えていたと思う。
そんな私を見てかお父さんも
「……そうか、良かったな」
と嬉しそうに言ってくれた。
「…………ほら、見てコレ!」
そう言って私はスマホを取り出して、日向くんと一緒に食べたパンケーキの写真を見せる。それともう一つタピオカの写真だ。
「…………前に友達と一緒に行ったの」
そんな写真をお父さんは驚いた表情で見ていた。そして嬉しそうな顔で言う。
「……そうか、そんなこともするようになったんだな。美味しそうだな」
「…………うん! …………凄く楽しかったし、美味しかったよ!」
昔は心配掛けさせたくないと、気が重かったお父さんとの食事も今は穏やかに進んでいた。
「…………お父さんは相変わらず仕事は忙しいの……?」
「……そうだな、かなり忙しかったな。今日はたまたま帰れそうだったから帰って来たが、またしばらく帰れそうにないな、ごめん」
そんな返事に複雑な気持ちになってしまう。
やっぱり家族と居るのは、日向くんと居るのと違った安心感をもたらしてくれる。
しかし、お父さんともっと一緒に居ると今度は日向くんを家に呼べない。
二つの気持ちで揺れ動くが、お父さんがまたしばらく返ってこない以上答えは出ていた。
「……いつも一人にさせて悪いな」
「…………うん、平気だよ」
嘘とも言えない限りない強がりだ。本当はもっと誰かと一緒に過ごしたい。それが家族なら尚更だ。
でも、お父さんにも仕事がある。それを私一人のわがままでお父さんだけでなく会社全体に迷惑がかかるかもしれない。
だからいつも平気だと答えて強がっていた。
「…………あ、あと、死なないようにね」
普段こんなこと言わないが今日は何故か言ってしまう。
すると急にお父さんが笑い出した。
「……いつの間にかそんなことを言うようになったんだな」
そう言われて私がかなりのブラックジョークの様なことを言ったことに気づく。
それも日向くんの影響だろう。
「…………そう、かな。…………私も高校生だし、いろいろと変わるんだよ、多分…………」
「…………もう、高校生だもんな」
お父さんは何か噛み締めるように言っているように思えた。
何を考えているのか詮索するのは止めてご飯を食べ進める。そんな私の姿を見てかお父さんもご飯を食べていた。
「…………おかわりします……?」
「……うん」
私がお父さんの返事を聞いてお茶碗に手を伸ばす。
「……これぐらい自分でするよ」
そしてお父さんがご飯をよそって来た。
それかろ久しぶりにゆっくりと家族でご飯を食べた。家族水入らずなんていつぶりだろう。
「「……ごちそうさまでした」」
二人とも無事に食べ終えた。
久しぶりのお父さんとのご飯は楽しく過ごせた。それにやっぱり一緒にご飯を食べるというのは幸せなことだと再認識できた。
そう感じられたのも嘘をつかずに後ろめたいことが無かったからだろう。
「…………お父さんお風呂は?」
「……会社で入ったからもう寝るよ、ずっと寝れてないから眠い」
「…………そう、なら髭だけ剃りなよ」
ずっと手入れせずに伸ばした髭が気になっていた。
お父さんが顎に手を当てて髭の確認をしたらしい。
「……そうだな」
お父さんが洗面所に向かって行って髭を剃る。
私はその間にお皿を洗う。お父さんが髭を剃り終えたらお風呂に入ろう。
お皿を洗い終えたと同時ぐらいにお父さんがリビングに髭を剃り終えて入って来た。
さっきまでとは違い少し清潔感があった。
「……じゃあ、おやすみ、木陰」
そんなことを伝えるためにわざわざ来てくれたらしい。
「…………うん、おやすみなさいお父さん」
挨拶を終えるとお父さんが自分の寝室へと向かって行った。
久しぶりの挨拶だったからかこんな『おやすみなさい』みたいな、たわいもない会話一つひとつが嬉しい。
「…………お風呂入って私も寝よう」
そして布団に入れば、私のフィーバータイムだ。ぬいぐるみが私を幸せにしてくれる。
(最近の私は本当に幸せ者だな……)
そんなことを思いながらお風呂へ向かった。
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さっそく日向と撮った写真をを楽しげに自慢する木陰
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