夜を越えて、朝の決意
日向くんが手を振って家を出た。私の家が再び無音の世界になる。
「……日向くん、帰っちゃったな」
これだけ長い時間を共にしたのに名残惜しく、まだ一緒に居たかったと思ってしまう。
「……何しよう」
寝るまでにはまだ時間があったので少し記憶を振り返る。
昨日だけでなく、今日も私の人生にはあり得ない物事が多く起きた。
「……洗い物してシャワー浴びよう」
自分にとって非日常的なことが起き過ぎて脳の処理が追い付かない。
なので気持ちを落ち着けようとお風呂でゆっくりと振り返ることにした。
しかし洗い物をしたあとお風呂に入り気持ちを落ち着けようとしたが、今日のことを思い出すたびむしろ落ち着かなかった。
「……あぁ、落ち着かない」
その原因は単純だった。
「……さすがに、なんで、私あんなことしたんだろう……………」
日向くんと一緒に居たときにした言動の数々だ。
それが今になり襲ってきて悶えてしまう。
「……調子に乗り過ぎた…………」
日向くんをゲームでボコり、煽り、挙げ句に足が痺れて膝枕を頼みそのまま寝てしまった。
さらに私を褒めさせ変態扱い、ときた。
「……も~~、日向くんに何をやらしてる私のは」
自分の過ちに思わずベッドを足でジタバタと叩く。
「……でも楽しかったし、嬉しかった…………」
悶えるようなことをしたが、甘えたり褒められるのは私の人生では無かったことなので凄く嬉しかった。
「……いろいろ失敗したかもだけど、全部寝て忘れよう」
寝れば忘れる、そう思い部屋を暗くしてベッドに入った。
(……寝れない)
しばらくの間、寝ようと試みたが興奮していて寝ることができなかった。
それにさっき日向くんの膝枕で寝てしまったこともあり、眠気が一切無かった。
「……はぁ、どうしよう」
嬉しかったとは言えまだ悶えてしまう。恥ずかしさのあまり思わず叫びたいぐらいだ。
真っ暗な部屋の中でも寝れずに上体を起こして、ベッドに腰掛ける体勢に変えた。
すると私の足に何かが当たった。
「……なんだろう」
日向くんを家に呼ぶにあたって部屋は隅々まで片付け綺麗にした。
なので床に何か落ちてる方がおかしい。
気になって私の足に当たったものが何か確認する。
「……あ、ぬいぐるみか」
そういえば日向くんにこれを預けていて、私の足が痺れてたときに日向くんが足に投げたまま行方知らずだった。
そんなぬいぐるみを発見して、いけないことと分かっていたが思わず顔に近付けてしまう。
「……日向くんの匂いだ」
凄く安心する匂いだ。近付けるだけでなく抱きしめて匂いを嗅ぐ。
昼の間から結構な時間、日向くんが抱いていたので彼の匂いが濃くする。
「……昼の私、最高だよ」
今、私が日向くんの匂いを堪能しているのは昼の私が頑張ったからだ。ありがとう昼の私。
さっきまで悶えていたのが嘘のように、日向くんの匂いを嗅いだことで落ち着いた。
「……日向くんのこと変態って言ったけど、私の方がよっぽど変態じゃん…………」
夕方に日向くんを変態呼ばわりしたが、匂いが付くように仕向けて今その匂いを堪能している。
どっちが変態か明白だ。
「……仕方ないよね、だって凄く安心する良い匂いなんだもん…………」
ぬいぐるみに抱きつきながら便利な言い訳をする。
「……もう一回寝てみよ」
今度はぬいぐるみに抱きつき匂いを嗅ぎながらベッドに入る。
すると昼に膝枕をしてもらった感覚と似ていた。日向くんの安心する匂いに包まれて横になった。
匂いのおかげか膝枕をしてもらっていたときのことを鮮明に思い出す。
「……ぁあぁぁ、幸せ…………」
思い出す腑抜けた声が出てしまう。
日向くんに褒められた、その事が私の幸福感を何よりも加速させていた。
幸せ過ぎて頭がおかしくなりそうだ。
「……私にも褒められるところあったんだ…………」
根暗でどうしようもない私の良いところを見つけてくれた。そして私の頭を撫でながら褒めてくれた。
そんな幸せな記憶を思い出している。
「……絶対毎日思い出そう…………」
毎晩この幸せな記憶に浸り、そして自己肯定感を高めていこう。そう今決めた。
「……人生ってこんなに楽しいんだ…………」
日向くんのおかげで月曜日が楽しみになった。前までの私にはあり得ない変化だ。
さっきはベッドに入っても寝付けなかったが、ぬいぐるみに抱きつきているといつの間にか凄く幸せな気持ちで眠りについていた。
◇◆◇◆◇◆
翌日、目が覚めた。
いつもは決まった時間に起きるはずなのに、今日はいつもよりかなり遅かった。
慌てて飛び起きる。しかし私の身体があるものを抱きしめて離していなかった。
「……嘘、私ずっとぬいぐるみ抱きしめて寝てたの…………」
飛び起きて尚、私はまだぬいぐるみを抱きしめている。そしてこれが幸せな睡眠の要因だと分かった。
「……時間は!?」
幸せ過ぎる睡眠で目覚めが遅くなった。慌てて時間を確認する。
今すぐ支度すればなんとか学校に間に合う。急いで支度をして家を出る。
「……お母さん行ってきます」
時間の余裕も無く家を飛び出す。額に飾った母への挨拶だけは忙しい中でもした。
慌てて学校に行くと遅刻せずに間に合った。そして自分の席に着く。
隣の日向くんは時間がギリギリだがまだ来ていなかった。
早く来ないかと教室の入り口をずっと眺めてしまう。
(やっぱり私、日向くんのこと好きなんだな)
それもただ好きなだけじゃない。
(大大大大好きなんだ)
あまりにも待ち遠しく、自分の気持ちを再認識する。
(でも、今は学校だ……)
昨日のように甘えたり、それどころか根暗な私が話しかけることすら日向くんの迷惑になるかもしれない。
(はぁ…………)
そんな私に嫌気がする。
だから決めた。
(私が日向くんの友達だと、胸を張って言えるようになろう)
隣を歩いても恥ずかしくない子になろう。
そして、それが実現してもっと自分に自信が持てたらその時は────
私は日向くんに告白しよう。
胸を張って日向くんの彼女だと言えるように明るくなろう。
すると教室の前から誰か入って来た。
「お、日向っちゃん、おはよう」
一番前の席の人が挨拶をした。
目を向けるとそこには日向くんが居る。
まだ到底、告白できるような自信は無い。でもこの休日に私も成長したんだ。
オシャレな服を来て、私の知らない私の良いところも知れて自分に自信が付いた。
根暗な私だけど一歩ずつだけど変わっていっている。
その証明を今してみせる。
「おはようございます! 成田くん!」
詰まることも吃ることもなくハッキリと明るく挨拶をした。
そんな私の挨拶に日向くんは少し驚いた表情を見せた。
「おはよう、暗野さん」
まだ学校では名字で呼び合う関係だ。
今は元気な挨拶をするだけしかできない。
でも、いつかはもっと自信を持って『日向くん』と学校でも呼べるように努力しよう。
そして、日向くんに告白する。
いつの日か胸を張って『私が日向くんの彼女です!』と言えるそんな幸せな未来を目指して。
◇◆◇◆◇◆
二章完結です!!!!!
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